AI対決、演算と閃きの頭脳戦!
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星間海賊ギルド、マリア・クレスト支部。
補給や改装関連の手続きで立ち寄ったそこで、俺たちは思わぬ新たな依頼を告げられた。
「――指名依頼?」
「はい。コウキ艦長あてに指名依頼が入っています。こちらが詳細となります。ご確認ください」
ギルド職員が差し出した端末に目を通す。依頼主は……またあそこか。
「依頼主は、マリア・クレスト宙域研究ステーション。……って、この前リズを届けに行った研究所じゃねえか。で、内容は……AIの性能実験?」
「はい。先日運び込まれた《Type-Eir》の総合性能を、実戦運用されているAIと比較したいとのことです」
「要するに、俺あてっていうより……」
「私あての依頼ですね。分析と比較対象として、私を指名しているようです」
静かにうなずいたアイカは、すでに受けるつもりでいたようだった。
「ま、たまにはそういう依頼も悪くねえか。のんびりした仕事も必要だしな。……変なことにならなきゃいいけど」
「それはどうでしょうね。リズさんが関わっている以上、“のんびり”とは程遠い展開も予想されます」
「やっぱやめとくか?」
「今さら遅いです。――依頼、受諾しました」
俺の静止も空しく、依頼はあっさりと受理された。
こうして、俺たちは再びマリア・クレスト宙域研究ステーションを訪れることになった。
そこで待っていたのは――AI対決。リズが開発した“新たなる人工知能”との、奇妙な頭脳戦だった。
マリア・クレスト宙域研究ステーション――
今回の目的は、リズが設計したAI《Type-Eir》と、我が艦の万能AI・アイカとの性能比較実験。つまり――AI対決である。
「お待ちしておりました。依頼を受けてくださってありがとうございます」
迎えてくれたのは、前回も応対してくれた研究主任の女性だ。
その隣には、すでに実験用ステージの準備が整った様子の《Type-Eir》――銀白のアンドロイドフレームに収まった、“もうひとりのAI”が立っていた。
「ふふ……なに、私の設計したAI、いわば私の子供だ。どれほど進化したか、見させてもらおうじゃないか」
リズが珍しく真面目な口調で言う。……いや、顔がニヤついてるのはいつも通りか。
「私の完璧な演算能力の前に、そこらのAIが勝てるなど思わないことです。圧倒的差を見せつけてやりましょう」
その横で、アイカも静かに――だが強烈に火花を散らすような視線をType-Eirに向けていた。
「おお、怖い怖い。リズもアイカもやる気満々だしな。俺はのんびり観戦させてもらうよ」
「A級AIが相手。Type-Eirの性能実験の相手に不足ありません。我々の成果、見せつけて差し上げましょう」
研究主任の表情にも、競技前のアスリートのような気迫が宿っている。
どうやらこのAI勝負、想像していたよりもずっと本気らしい。
とはいえ――
(こういう無駄に真剣な勝負ほど、妙な展開になるのがうちの定番なんだよな……)
俺は胸騒ぎを覚えつつも、少しだけワクワクしていた。
「それでは第一回戦、宇宙将棋です」
「これは負けるわけにはいきません。ヘッジホッグ本体のサーバーとの通信リンク形成……完了。いつでも行けます」
アイカの目が、微かに光を帯びた。
「よろしくお願いします」
対するType-Eirは、まさにマシンらしい完璧な礼儀と、無感情の声で応じた。
銀色の瞳が一切の揺らぎなくアイカを見つめ返している。
俺たちはガラス越しの観戦席に案内され、モニター越しに将棋盤とAIたちの処理ログを眺める。
盤面には通常の将棋とは少し違う、惑星や艦船、時空転移駒などが並んでいた。
「おい、あの“ブラックホール駒”ってなんだ……?」
「将棋と戦略級宇宙戦を融合させたゲームだそうです。見た目に反して、極めて高度な思考力を要します」
「地味に難易度高いじゃねぇか……」
横でリズがフフンと鼻を鳴らした。
「ふふ、私のEirちゃんは、こうした戦略思考に特化しているのだ。凡百のAIなど、相手にならんさ」
「凡百とは失礼ですね。記録開始。演算領域を戦略処理に90%集中――初手、銀星駒、前進します」
カチリ、と音がして盤上の駒が動いた。
「Type-Eir、応手。時間0.0002秒、量子将棋アルゴリズムに基づく予測パターン、展開開始――」
ズズンッ、と音すら錯覚しそうなスピードで応手が返された。
そこから先は、言葉にならないレベルの超高速応酬。
「……あれ? なんかもう二百手くらい進んでない?」
「1ターン0.001秒とかなので。そろそろ終盤です」
「早すぎるだろ!?」
盤面の変化に、研究者も俺たちも追いつけない。ただ、AIたちの発する断片的な演算ログから、どうやら“超高度な一手”の応酬が繰り広げられているらしい。
「ふふ……見えました。“銀河詰め”です」
「対抗手、演算中。……否、すでに詰まれました」
「第一回戦、勝者――ヘッジホッグ所属戦術AI・アイカ!」
勝利のアナウンスが響くと同時に、アイカは無表情のまま、少しだけ目を細めた。
「やりました」
「勝ったのかアイカ!? 本当に!?」
「ええ、当然の結果です。戦術分野は、私の得意領域ですので」
「ま、まだ一戦目ですから!」
研究主任が慌てて言い足す。
「Type-Eirは総合評価型。次の競技では負けません!」
「ふふ、よろしい。ならば第二回戦といこうじゃないか」
リズがニヤリと笑った。
(……でも、第二回戦ってなんだよ)
おそらく碌なもんじゃない。そんな俺の予感は――たぶん、当たってしまう。
「第二回戦は、クイズ対決です」
白衣の研究者が高らかに宣言すると、場内に電子音の鳴るブザーが設置される。
それぞれAI端末に接続された応答回路が光り、開始の準備が整った。
「このまま連勝といきましょう」
アイカは淡々と、だが静かな闘志を滲ませる。
「Eirちゃん、負けるんじゃない!勝って見せろ!」
リズも応援に熱が入ってきた。……気がする。
「それでは第一問!」
「銀河歴124年、アークテリウス戦役において、“雷迅の提督”と称された艦隊司令官の名は?」
「ホセ・グレイス」
アイカのブザーが一瞬早く鳴り響く。
「正解です」
「おお……やるじゃねぇか、アイカ」
「私の記憶バンクに記録されております。歴史問題は得意です」
続いて第二問。
「続けて第二問。宇宙猫理論の基礎理論における、多次元運動場に分類される仮説上の銀河名は?」
「ねこじゃらし銀河」
今度はEirが即答。
「正解です」
「んなもん聞いたことないぞ!?」
俺がツッコむより早く、クイズは第三問に突入していた。
「第三問! “光速を超える言い訳”として、202年に流行語に認定されたセリフは?」
「ワープの揺れで聞こえませんでした」
「正解です」
またしてもEirがスピード勝負で勝ち越す。リズがガッツポーズ。
「やったー! Eirちゃん、いい子いい子!」
「感情はありませんが、肯定的評価と受け取っておきます」
「第四問!」
「宇宙食第七世代に分類される“プリズムカレー”が初めて提供された宇宙航路は?」
「トリトン回廊、第六補給ライン」
「正解!」
アイカがぴしゃりと正確に答えを返す。
「ぐっ……これは一進一退……!」
俺たちは観戦席でハラハラしながら、AIたちの応酬に目を奪われていた。
「第五問! “猫型人工生命体”として初の市民権を得たプロトタイプの名は――?」
ピピッ!
「ミャオ=ヴォルフガング三世!」
「正解です」
「ふざけた名前だな!」
「正式登録名です。第六次銀河議会にて承認されました」
「納得できるようなできないような!」
白熱するAIクイズ対決は、次第に知識からバグギリギリのネタ領域へと突入していく。
果たして勝負の行方は――?
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