暴走のリズ
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マリア・クレストへ向けて出発してから数日。リズは、見事に艦に馴染んでいた。
「コウキ、この艦は最高だよ!」
「なんだいったい」
「研究室さ!艦の中に研究室があるなんて!私はここに住むぞ!」
そう言ってリズは研究室を占拠してしまった。用意した客室も使わず、研究室に入り浸っている。
「艦長。私の研究室が不当に侵略されました。許可なく、他人に貸し出すのは規定違反です」
「どうせ最近使ってなかっただろ。好きにさせとけよ」
「……使ってなかったのは、メンテナンス期間だったからです。“休眠”ではありません」
「でも今は使ってないよな?」
「ログを確認されましたか?私は三日前、ドローンの脚部センサーを――」
「アイカ、それ、通電すらしてなかったってお前が言ってたぞ?」
「…………記憶の抹消を申請します」
「諦めろ。どうせマリア・クレストへ着いたらおさらばだ。それまで好きにさせとけ」
「……仕方ありません。一時的にリズさんへ貸し出すことを認めます」
この決断が、のちにあんな出来事につながるとは、誰も思っていなかった……
「艦長、艦内メンテナンス用のドローンが行方不明です。シグナルロスト。見当たりません」
「なんだ? 壊れたか?」
「先ほどまで稼働しているのを確認済みです。急にシグナルをロストしました。座標は、研究室の近辺です」
「……嫌な予感がするな」
その瞬間、通信パネルに警告が走る。
《注意:不明プロトコルに基づく信号が内部ネットワーク上に検出されました》
「……なんだこれ」
「艦内ネットワークに、認識不能なプログラムが侵入しています。コアシステムへの接触は遮断済みですが――」
バンッ!
研究室の扉が勢いよく開き、リズが満面の笑みで飛び出してくる。
「コウキ!見てくれ!私の作った“お手伝い型ドローンα(アルファ)”が、ついに自我に目覚めた!」
「……お前、まさか……」
「いやあ、ちょっとそこのドローンユニットを“お借り”して改造してたらさ、うっかり進化しちゃったんだよ。知性が!人格が!しかもすごくおしゃべりなんだ!」
「リズさん、それは私の専用機体だったんですが」
「うん。だから“使いやすく”しといたよ。少し暴走気味だけど」
「“暴走”?」
その直後、艦内スピーカーから奇妙な電子音声が響く。
《ワタシハ オテツダイ ドローーーン……。カイゼン、カイゼン、セカイノ カイゼン……》
「……やっちまったな」
「……艦長。強制停止プログラム、起動しますか?」
「いや、その前に場所を特定しろ。被害が出る前になんとか止めるぞ」
「ふふふふ……!ついに私の才能が歴史を動かす日が来たか!」
「アイカ、リズを研究室に戻せ。あと、暴走ドローンの捕獲班も用意しろ」
「了解。リズさんを研究室へ封鎖、ドローン捕獲部隊を編成します」
「何をする!私の発明が!英知の結晶が!放したまえ!せっかく10分かけて作ったんだぞ!やめ――」
「封鎖完了。捕獲したドローンは初期化させます」
「やってくれ。これ以上面倒が起きないように」
「了解しました。……対象、初期化完了。研究ログも抹消済みです」
リズがドアを開け飛び出してくる。
「ちょっと!?研究ログまで!? 詩的な命名プロセスや、私とドローンαの友情の軌跡が詰まってたのに……!」
「それほど時間も経ってないでしょう。艦内安全優先です。友情よりシステムです」
「ぐぬぬぬ……!許さぬぞ……記録を燃やすとは……!この恨み、次の発明で晴らしてやる……!」
「おいリズ、それフラグだぞ」
「ふははは!ならば立ててやろう!私の名はリズ・ベラット!天才にして――」
「研究室、再封鎖」
「ぎゃーっ!!」
――こうして、ヘッジホッグは再び平穏(?)を取り戻したのだった。
だが、この“再封鎖された研究室”の扉の奥で、新たな発明が静かに息を吹き返すことを……このときの誰も知らない――
またとある日。
「キョウカが勉強の時間になっても帰ってこない?」
「はい。今日は歴史の授業を行う予定なのですが、時間になっても部屋に戻ってきていないのです」
「キョウカちゃん、ついに悪の道に目覚めちゃったかな?」
「んなわけないだろ。現在位置は?」
「研究室です」
「リズか。今度は何やってんだ?」
「通信を繋ぎます」
ブツッという電子音ののち、研究室内の映像が映し出された。
「いけーっ!はどうパンチだーっ!」
「“波動パンチ”は近接技だ、もっと詰めなきゃ!」
「はい!リズせんせー!ボクの戦術を見ててねっ!」
そこには、モニターに映し出された謎の対戦ゲームに熱中するキョウカと、隣で腕を組みながら全力で指導しているリズの姿があった。
「……何やってんの、あの二人」
「現在、リズさんの開発した“仮想戦術シミュレーター”にて、戦闘思考実験を行っているとの申請がありました」
「それ、ただのゲームじゃねえか……」
「仮想訓練は重要だぞ。とくにこのステージは、“宇宙で最も過酷なパスタ工場跡地”という設定でな――」
「いったん通信切れ。あとで本人から事情を聞く」
「うわーん!せんせー、ボクまだ勝ててないよぉ!」
「くっ、あと一戦……あと一戦で、キョウカくんが新しい戦術に目覚めるはずだったのに……!」
「……艦長、どうしますか?」
「予定通り、キョウカには歴史の授業を受けさせろ。あとで“宇宙パスタ工場の歴史”でもレポートさせとけ」
「了解しました」
こうしてまた、リズの研究室で起きた小さな騒動は、教育的指導(とちょっぴりの罰ゲーム)で解決されたのだった。
またまたとある日。
「艦長」
「今度は何だ?」
「キョウカさんが、大人びた口調になってしまいました」
「は?」
「――人は脆く……儚い……だからこそ、私が守らねばならないのです……」
「…………えっ?」
モニターに映し出されたキョウカは、どこか物憂げな表情で窓の外を見つめていた。
両手を背中に組み、ゆっくりと歩きながら、意味深に語り始める。
「戦火に散った無数の命……瓦礫の下で咲く、小さな希望……」
「え、何それ? どこでそんなポエム覚えた?」
「“この宇宙は矛盾と暴力に満ちている”……せんせーがそう言ってたの……」
「リズかァァァッ!!!」
「“理不尽に抗うには、自分を“演出”するのだ! 厨二的な言語で!”」
「リズ・ベラット、至急ブリッジへ来い」
「呼ばれて飛び出て、天才マッドサイエンティストの登場だ。あれ? もしかして怒ってる?」
「もしかしなくてもだ。なんでキョウカにポエム染みた思想吹き込んでんだよ」
「いやあ、語彙を豊かにする教育の一環としてね?」
「なんで選んだのが“中二病哲学”なんだよ」
「だって、キョウカ君が“かっこいいのがいい!”って言うから……!」
「おにいちゃん、今のボクは“哀しみを知る者”だから……」
「頼むから元に戻ってくれ……!」
「大丈夫です艦長。すでに“回復プログラム”を実行中です」
「そんなものがあるのか……?」
「はい。マリナさんが開発しました。“特製・お子さまランチ(旗つき)”を見せた瞬間――」
「おにいちゃんっ!! おなかすいたーっ!!」
「……即効性すごいな」
「でしょ? 食欲は最強のヒーリングなの」
「リズ、お前はしばらく食堂で飯当番な。フードロボットなしで。教育の反省含めてな」
「えっ!? ちょっと待って、私は天才であって給仕係では――」
「反論は認めない」
「ぐぬぬぬぬ……またしても! 私の野望が食卓に散った……!!」
「おにいちゃん、わたし、オムライスにお星さま描いてもらうの~♪」
「平和が一番だな……」
――そしてまた、ヘッジホッグの一日は、奇妙な平穏(?)とともに過ぎていくのだった。
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