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極秘依頼、始まらない

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とある日。俺たちは、ヘッジホッグの食堂に集まっていた。


「さて、例のごとくこの宙域での稼ぎも渋くなってきた。そろそろ、別の宙域に移る頃合いだと思うんだが……どうだ?」


「んー、まだ稼げないってほどじゃないんだよね?」


マリナが酒パックをちゅーっと吸いながら、腕を組む。


「まあ、ギルドの支援があるから補給には困ってないけどさ。いつまでも猫の恩恵に頼ってるのも、どうかと思うじゃん?」


「“猫の恩恵”ってなんだよ……」


俺が呆れて言うと、キョウカがふにゃっと笑った。


「ねこちゃん、また来てくれたらうれしいな~♪」


「もう来なくていい。いや、マジで」


アイカが端末を操作しながら、無表情で口を開く。


「ちなみに、近隣宙域では複数の未解決案件が存在しています。いずれもギルド経由で提示可能です」


「未解決って……つまり、ロクでもない依頼しか残ってないってことだな」


「正確には、“割に合わない案件”です」


「余計に嫌な響きになってるんだが」


その時だった。

ピピッ、と通信端末が軽快な電子音を鳴らす。差出人は――ギルド本部。


『緊急配信:限定宙域任務 参加者募集中。極秘ランク/対話条件付き。報酬交渉可能』


「……また“極秘”かよ。まともな内容なわけがない」


マリナが空になった酒パックをゴミ箱に放り投げ、にやっと笑う。


「でもさ? “極秘”で“報酬交渉可”ってことは――ちょっとだけ美味い匂いがするじゃん?」


「それか、ものすごーくヤバいやつかのどっちかだな……」


「行こっか、おにいちゃんっ!」


「なんでキョウカが先に決めるんだよ……」


――こうして俺たちは、またしても“極秘任務”の渦中へと足を踏み入れることになった。




『依頼を受けてくれて、感謝する。コウキ艦長』


「まだ受けると決めたわけじゃない。……まずは、依頼の内容を詳しく聞かせてもらおうか」


『そうか。……今回の任務は“護送”だ。対象を、ケルベロス・スロット宙域の研究ステーションから、マリア・クレスト宙域の研究ステーションへ、安全に移送してもらいたい』


「護送任務? わざわざ“極秘”にするような内容か、それ」


『護送対象は……先日、お前たちが回収したAIコアの“基礎設計者”だ。本人と、そのAIコアの再構築データを含め、安全に届けてほしい。

彼女の存在が公になると、各勢力が動きかねない。外部からの干渉は、絶対に避けたい。それで……この件は極秘扱いにしている』


「……なるほどな。確かに、それなら極秘ってのも納得だ」


マリナが唸るように言った。


「つまりさ、あの猫事件の“本体”が、今さら動き出すってこと?」


『……言い方はともかく、核心は外していない。AIコア《Type-Eir》に関する技術の根幹を握る人物だ。何としても無事に届けてほしい』


キョウカが小声でぽつり。


「おにいちゃん……なんか、またたいへんなの、きちゃった?」


「……そうみたいだな」


俺は、通信越しに小さく息をついた。


「で、その研究者ってのは……どういう人物なんだ?」

『……一言でいえば、変わり者だ。若く、才能はあるが……それを“自分の興味のあること”にしか使わない。

AIコアも、日銭を稼ぐために“仕方なく”作ったと、本人は言っていた』


「……仕方なく、であの代物かよ。やれやれ、本物の天才ってやつは」


『優秀すぎるのだ。彼女は。

その才能は時に妬みを呼び、疎まれる。……今回のマリア・クレストへの移送も、ある意味“厄介払い”に近い』


「随分な話じゃない……あたしらはその尻ぬぐいってこと?」


マリナがやれやれと肩をすくめる。


『追手を差し向けられる可能性もある。技術を狙う者だけでなく、彼女自身を“黙らせたい者たち”も含めてな』


「おにいちゃん、なんかすっごくたいへんそうなのきたね……?」


「ほんとな……この時点で、もう一癖どころじゃない匂いしかしない」


アイカが端末を見ながら、さらりと補足する。


『参考までに、彼女の過去五年間の勤務記録には計24回の警告処分と、5回の懲戒対象案件が確認されています』


「おい、護送する前に“保護観察”とか要るタイプじゃないか?」


『なお、同時期に取得された特許申請は47件、うち25件はギルド傘下企業が買収しています。才能と問題行動は、比例しているようです』


「……なるほど、いわゆる“なんとかと天才は紙一重”ってやつだな。

問題は――俺たちがその“紙一重”を護送できるか、か」


『秘匿性を重視するため、ワープゲートの使用は禁止だ。通常航行での移動となる。……つまり、長旅になる。

まずは本人と話してくれ。合えばよし、合わねば断ってもらって構わない。

だが――私個人としては、君に受けてもらいたいと思っている』


「……その“天才”とやらが、話の通じる相手ならいいんだけどな」


『了解した。明日、直接会えるように調整しておく。

コウキ艦長は、研究ステーションへ向かってくれ。

彼女の名前は――リズ。リズ・ベラットだ』


「リズ・ベラット。……さて、どんな“爆弾”が待ってるんだか」


『よろしく頼む。良い返事を、期待している』




翌日。ケルベロス・スロット宙域研究ステーション受付にて……


「星間海賊ギルド所属、コウキ艦長だ。リズ・ベラット氏に会いに来た」


「確認します。……はい。確認できました。第四研究室へとお進みください」


「はいよ」


今回は俺とアイカが交渉役だ。マリナは二日酔いで使い物にならず、キョウカはお勉強中のため、こうなった。


「しっかし、どんな奴なのかねぇ」


「データを見る限り、自由人、と言うのが適切な表現かと」


「自由人、ねぇ。話が通じればいいんだがな」


そうこうしているうちに、第四研究室へとたどり着いた。


俺はドアをノックし、声をかける。


「星間海賊ギルド所属、コウキだ。入ってもいいか?」


返事はない。俺はもう一度、ドアをノックし、声をかける。


「星間海賊ギルド所属のコウキだ。いないのか?」


返事はない。俺はドアに手をかける。鍵は開いていた。そのまま部屋に入る。


室内は――カオスだった。


床には紙くず、スクリーンには何かの演算ログ、中央には未完成のメカフレーム。壁際には、空っぽのカフェインボトルが山のように積まれている。


「……研究室というより、爆撃後って感じだな」


「作業の痕跡は確認できます。……人の気配も」


そのとき、室内の奥、山積みの資料の裏から何かがぴょこっと動いた。


「……Zzz……むにゃ……あと五分……パラメータは……反転……」


「……寝てるのか?」


資料の山から出てきたのは、茶色の髪がぼさぼさで、モノクルをかけた少女だった。白衣は着ているが、サイズが合っていないのかダボダボで、靴も左右違う。


「お、おい、リズ・ベラット……さんか?」


少女は目を半開きにして、ぼんやりとこちらを見た。


「……ふふ、我が名はリズ。リズ・ベラット。星海の深淵にて生まれし叡智の申し子……この世界に理を刻む者よ……。で、あなたは?」


「コウキだ。君の護送依頼を受けるかもしれない、海賊だ」


「ほう。貴様が……この私の護送を担当するというのか? いいだろう。貴様が我が器にふさわしいか、見極めてやろうではないか……」


「……まだ夢の中なのか、それとも素なのか判断に困るな……」


「無礼な。私は今、完全なる覚醒状態にある! たぶん!」


「“たぶん”って言ってる時点でダメだろ」


――とりあえず、話は……できそうだ。

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