極秘任務!猫を捕獲せよ!
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「……そういや、ギルド本部から通信来てたよな」
ヘッジホッグの艦橋にて、俺は立ち上がりながら呟いた。
帝国の至急依頼であの忌々しい廃ステーションに向かったせいで、すっかり後回しになっていた。
「“極秘”のタグが付いていました」
アイカが静かに応じる。
「優先順位を帝国任務に切り替えたため、保留になっていましたが――開封には艦長の個人認証が必要です」
「了解。今開く」
端末に向かって右手をかざし、音声認証を続ける。
「ヘッジホッグ艦長コウキ。個人コード、デルタ2714885。“極秘”任務、開示を許可」
《認証確認。通信ログ:ギルド本部・極秘任務通達》
画面に映し出されたのは、冷たい無表情の女性――ギルド本部通信管理局の面々は、相変わらず官僚くさい喋り方しかしない。
「海賊艦艦長、コウキに通達。
ケルベロス・スロット宙域における特異個体《M-22》の追跡任務を通達する。
対象はステーション内研究施設から逸走し、現在第07観測ステーションに潜伏中と推定。
当該個体は極秘開発中のAIコアを体内に取り込んでおり、情報奪取の危険性が高い。
他勢力の介入が予測されるため、確保と持ち帰りを最優先とすること」
「なお、任務詳細はステーション内のメインサーバーにて。艦長権限による現地アクセスを要する。
任務成功時には艦隊級の補給支援と報酬の即時支払いを保証する――以上」
通信が切れ、画面には任務コードと要約だけが残った。
《極秘任務 NX-Σ-144 対象:M-22 危険度:レベルB》
「……ったく、こんな重要な案件、よく放置してたな俺たち」
「帝国軍情報局は至急、とのことでしたからね」
アイカが平然と返す。
「しかもかなりやばかったしね」
マリナが肩をすくめて言った。
「ま、そっちも報酬は弾んでくれたし、今回はのんびり猫探しかな?」
「……猫なんて誰が言った?」
キョウカがにへらっと笑う。
「ぜったいネコなの! わかるの!」
「やめてくれ、そういう当たる予知じみた発言……」
と、どこからともなく――
「にゃーん」
全員が一斉に振り向いた。
「……まさかな」
「アイカ、対象コード《M-22》、種別情報の照合を」
「……照会完了」
アイカが読み上げる。
《M-22:小型哺乳類(ネコ科)・研究ラボ飼育個体》
《備考:サポートAI“Type-Eir”コアデータチップ誤飲・情報吸収反応あり》
「……マジで猫かよ」
「よし、目的地はケルベロス・スロット第07観測ステーション。ヘッジホッグ、すぐに出航だ」
艦のエンジンが唸りを上げる。
艦橋のモニターには、複雑に入り組んだステーション内部のレイアウトが映し出されている。
「キョウカ、今回はお前も行くぞ。猫相手なら大丈夫だろ?」
「いいの!?わたしもおしごと!」
キョウカは飛び跳ね、目はキラキラ輝いている。
「ま、しっかり頼むぜ。マリナ、ハイペリオンの出撃準備は?」
「ハイペリオン、いる?ステーション内の猫の捜索だし、いらないでしょ」
「……それもそうだな。しっかりと足使って探索するか」
俺たちが出発準備をしている間に、他勢力も動き出している。
帝国軍の影薄い精鋭部隊。
金に目のくらんだギルド内の別派閥や違法海賊団、狡猾な傭兵集団。
そして……謎の小型無人戦闘ドローンが蠢く。
「……さて、奴はどこに隠れているやら」
ヘッジホッグがゆっくりと目的地へと進んでいく。
「あの猫は単なる猫じゃない。電子ロックを解除し、ドローンを乗っ取り、果ては研究データにアクセスしているらしい」
「にゃんてこった!」
キョウカがにやりと笑った。
「猫じゃなくて、小型宇宙海賊ね、こりゃ」
マリナがそうつぶやく。
〈ケルベロス・スロット第07観測ステーション〉
「こいつ……悪さしやがって!」
帝国兵士の叫び声が響く。
追われる猫《M-22》は、素早く狭い通路を駆け抜け、何度も電子ロックをこじ開けて脱出経路を確保する。
「おい、こっちだ!」
違法海賊の一味が追い詰めようとするも、
「にゃーん!」
猫はまるで合図のように無人ドローンを起動。ドローンがレーザー照準を違法海賊に向けると、一瞬で追手は散り散りに。
「なんだあいつ!?」
「くそ、猫一匹にやられた!」
〈ケルベロス・スロット第07観測ステーション・接舷区画〉
「到着っと……っとと、ちょっと揺れた!」
マリナがバランスを崩しながら、ステーションの接続トンネルを渡る。
「揺れてねぇよ。酒くさい」
「気のせいじゃない? 出発前にちょっとだけしか飲んでないもん」
「“ちょっとだけ”が基準にならないんだよ、お前の場合」
ステーション内部は、観測設備がそのまま残されていた。
照明は点滅し、通路は薄暗く照らされ、しばらく使われていない感がある。そして、セキュリティシステムが作動している。
「セキュリティシステムが作動してる?」
『警備用AIが稼働中みたいです。おそらくM-22がデータラインに接触して、セキュリティプロトコルを引っかけたのでしょう』
「猫がセキュリティを刺激するなよ……」
「にゃーん!」
突如、天井裏の通気口から小さな影が飛び出す。
「いたっ!? あれだっ!」
キョウカが即座に飛び出し、一直線に猫を追って駆け出す。
「待てキョウカ、単独行動は――って、速ぇ!」
「にゃっにゃっにゃっ!」
猫は軽やかに跳ねながら、天井と壁を伝ってステーションの奥へ消えていく。
その後を追って、別方向からも数名の人影が飛び出した。
「帝国軍か……いや、装備が軽い。ギルドの別派閥だな」
「おおい、そこの猫ぉおおお! 賞金は俺のもんだーっ!」
「ダメだって!銃を出すな!猫に当たったらどうする気!?」
「これ極秘のはずだよな?ギルドはもうちょっとしっかりしろよ……」
どたばたと足音が交錯し、警報が鳴る。
階層ごとに異なるセキュリティ扉が、パカパカと開閉を始める。
「……おい、マリナ。今の、猫がやったよな?」
「どう見ても猫が制御盤に飛び乗ってたね。っていうか……あの動き、絶対わざとでしょ」
「マジで小型宇宙海賊じゃねえか」
「やっば、ちょっと面白くなってきたかも!」
マリナがテンション高く笑うと、ポケットからパック酒を取り出して口元に運んだ。
「おい飲むな! まだ任務中だろ!」
「えー、ほら、体あっためるだけ。ね? ね?」
「ステーションの室温、標準より高めだぞ……」
その時――
「畜生! ドローンが来たぞ!」
傭兵風の男たちが逃げ惑う。天井から出現した小型ドローンが、レーザーサイトを煌かせながら追撃している。
「にゃーん♪」
背後から、まるで「やってやった」みたいな顔の猫がひょこりと姿を見せ、また走り去っていった。
「猫がドローン使って襲撃って、どういう状況だよ……」
「もしかしてあの子、遊んでない?」
「遊びにドローンけしかけてくる猫とか、どうしろってんだ……」
――この依頼、長くなりそうだ。
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