終焉の暴走個体
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そこは──地獄だった。
咆哮、悲鳴、肉を裂く音。
命令に従い、殺し合う実験体たちが互いに暴れ、暴走していた。
「これは……もう止められない」
中央には、白衣の若い男、リドの変わり果てた死体が転がっている。
実験の復活を夢見て、その末路はあまりにも惨めだった。
──その混沌を、一つの存在が見下ろしていた。
“01”。
他の個体を圧倒し、ただ命令を遂行するためだけに動いていた機械化された強化個体。
「……プロトコル、実行完了……不要個体、排除終了……」
彼女の命令に従って、残された異形たちは互いに殺し合い──そして、沈黙した。
血の海の真ん中で、01はただ立っていた。
破損した腕、裂けた脚部、それでも表情一つ変えず、微動だにしない。
「マリナ……終わった、か?」
「……わからない。でも、01は……もう、動かない……?」
俺たちは警戒を解かずに一歩ずつ近づいた──そのときだった。
『──警告。新たな反応、接近中』
アイカの声が届く。だが、それは一瞬遅かった。
格納庫の奥、破壊されたコンテナの中から──異様な熱量を持った“何か”が姿を現した。
「っ……あれは……!」
金属と生肉が混ざったような異形の巨体。
常に震えているような筋肉。うなりを上げながら、四肢を広げる。
『識別:封印個体04──危険度ランクS』
「なんでそんなのが……!」
01が、音もなく振り返る。そして、わずかに目を見開いた。
「──キョウ……カ……」
まるで、守るべき存在の幻を見たような声だった。
次の瞬間、04が動いた。
獣のような跳躍。反応しきれず、01の身体が吹き飛ぶ。
「っ、やめろ……!」
ライフルを構えるが、04はまるで俺たちを眼中に入れていない。
徹底して01を叩き潰そうと、破壊の限りを尽くす。
01は目から光を無くし、動かなくなった。
「マリナ、これ……無理だ!」
「撤退……するしかない……!」
──俺たちは、後退した。
砕けた床。倒れる01。止まらない暴走。
ステーションでの惨劇はまだ、終わっていなかった。
格納庫からの撤退を続ける俺たち。
背後では、狂暴な封印個体04が執拗に追いかけてきていた。
「マリナ、逃げるぞ!ハイペリオンまでダッシュだ!」
「わかった!だけど、あの化け物……しつこすぎ!」
銃撃戦の中、互いにカバーし合いながら必死で距離を稼ぐ。
だが、04の速度は異常だ。どんどん迫ってくる。
「アイカ、04の動き、分析できるか?」
『攻撃パターンは獣型戦闘特化。通常武装では効果薄い可能性があります』
「やっぱりか……!」
04の猛スピードの跳躍が迫る。俺はとっさにライフルを構え、マリナも同様にライフルで迎え撃つ。
だが、04の動きは速く、狭い通路を縦横無尽に走り回る。壁を蹴って天井を駆け抜け、こちらの攻撃をかわしては反撃を加えてきた。
「強ぇ……まるで銃が効いてねぇ!」
「くそっ、弾が当たらない!」
04の一撃が近くの壁を砕き、破片が飛び散る。衝撃波が俺たちの体を揺らした。
「マリナ、右!その隙を狙え!」
マリナが銃口を向けると、04は急に体を翻し、跳躍。間一髪で身をかわした。
「よけた……!」
「くそっ……このままだと、追いつかれる!」
俺たちは必死に走る。しかし04はそれ以上の速さで迫ってくる。
「くそ!まだ着かないのか!」
「もうちょっと!頑張ってコウキ!」
「最後のグレネードだ。くらえ!」
爆炎が04を焼く。しかし04は勢いが止まるどころか、咆哮をあげながら俺たちへと近づいてくる。
「効いてない!?くそ!走れ走れ!」
「はぁ、はぁ、あと少し!」
「アイカ!レールキャノン準備!あれなら倒せる!」
『了解。レールキャノン発射準備中です』
なんとか俺たちは艦にたどり着き、ハイペリオンに滑り込む。
「アイカ、レールキャノンいけるな!奴が接近中だ!」
『了解。発射準備完了です』
外部モニターに映る猛スピードで接近する04。
「行くぞ、マリナ!」
レールキャノンの起動音が響き渡り、巨大な弾丸が04を射抜く。
爆炎が走り、04は地面に叩きつけられ動かなくなった。
「……とどめを刺せたな」
「ふぅ……まったく、次から次へと面倒なことばかりね」
俺たちは疲れ切った身体を椅子に預けながら、静かに息を整えた。
だが、この戦いが終わったわけではない──
深い闇は、まだ続いているのだ。
ハイペリオンでヘッジホッグへと戻る。ようやく、仕事が終わったって感じだ。しかし、まだ面倒な報告が残っている。
「おつかれさま!」
キョウカが出迎えてくれる。
「お疲れさまでした。艦長、マリナさん」
「もうへとへとだよ。シャワー浴びたい」
「俺もだ。帝国情報局への報告はちょっと休んでからにしよう」
シャワーを浴び、一息ついて、報告の時間だ。
俺はヘッジホッグの通信装置を操作し、帝国軍情報局へと報告を始めた。
「こちらコウキ。調査対象の廃ステーションから帰還した。事の次第を報告する」
通信回線の向こうから、低い声が応答する。
『報告を続けよ』
「廃ステーションは過去に生物実験施設として使われていた。そこで行われていたのは、強化生物の研究だ」
「研究員の孫、リドと名乗る男が施設を密かに再稼働させようとしていた。俺たちはそれを阻止した」
「暴走した強化実験体、通称‘01’の制御が効かず、その結果、施設内の実験体はほぼ全滅状態となった」
「さらに封印個体‘04’が暴走。ハイペリオンのレールキャノンにより、なんとか撃破した」
通信の向こうで、静かながら重い沈黙が流れる。
『報告を承った。諸君の行動は評価する。以後の調査は不要だ。ご苦労だった』
ぶつり、と通信が切れる。
「いいの?本当のことを言わなくて」
「いいんだよ。これでキョウカのことは誰にもわからない。これで一安心ってわけだ」
「しかし、キョウカのことはあまりわからなかったな」
「もうどうしようもないでしょ。あれだけ派手にぶっ壊せば、手がかりも何もないでしょ」
「ま、本人もよく覚えていないみたいだし、わざわざ藪をつつく必要もないか」
俺はそっと息を吐いた。しかし、まだ“面倒ごと”は終わっていない。
ギルド本部からの“極秘”依頼。いったい何が待ち受けているのか。
――それはまだわからない。
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