表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/68

歪んだ継承者

評価&応援ありがとうございます!

狭く急なメンテナンスシャフトを降りる。

足元は薄暗く、湿気がこもる金属の壁が冷たく光る。

俺たちの呼吸音と、遠くで微かに響く機械音だけが空間を支配していた。


「このシャフト、想像以上に長いね……」


「古い設計だからな。油断すると変な罠とか仕掛けてあるかもしれんぞ」


「わかってるって」


進むほどに、熱源反応は強まっていく。

そして、やがて俺たちは“封印区画”と呼ばれるエリアの扉前にたどり着いた。


「……ここがか」


「この先に、“主”がいるのかもしれないな」


『セキュリティロックが強固です。手動解除が必要です』


「くそ……一筋縄じゃいかねぇな」


だが、そこには制御用のパネルがあり、俺は躊躇なくアクセスを試みる。


「行くぞ、マリナ」


「おう……」


扉がゆっくりと開く。


その先に広がっていたのは──




一体のゾンビが端末を操作していた。それは次々と培養槽に保管されていた生物を外へ出し、誘導しているようだった。


「こいつが犯人かよ……とりあえず倒すぞ。これ以上敵を増やされたらたまらん」


俺はライフルを抜き、ゾンビを撃つ。びしゃり、とゾンビは倒れた。


「これで敵はもう増えないな。まぁ、まだいっぱいいるんだろうが」


俺は倒れたゾンビのそばに近づき、制御端末をじっと見た。


「……まさか、こいつが操作してたのか?」


「ゾンビが端末を……? そんなこと、あるの!?」


『生体信号の反応は極めて低いですが、脳波に類似したパターンを検出しました。通常のゾンビとは異なる神経制御が働いている可能性があります』


「つまり、このゾンビは……ただのゾンビじゃないってことか」


マリナが唇を噛み締める。


「これ、調べてみない?」

そういってマリナは端末を指さす。


「そうだな。何かあるかもしれない」


「被検体No.00、これだな。ログは……」


「ほとんど残ってないね。これは……消されてる?」


「それに劣化してほとんど見れないな。かろうじて生きてるのは……」


《研究ログNo05・被検体No.00kyouka 適合実験》


ノイズ混じりの映像が再生される。

白い部屋。そこには、ひとりの幼い少女がいた。


その表情は、あどけない。だが、何かを怖れているようにも見える。


「……このこ、しゃべらないの?」


少女の視線の先には、無機質な生体ユニット。

ところどころ機械化されており、どこか人間のようで、獣めいたそれは、じっと少女を見つめている。


『名前をつけてあげて。キョウカの、お友達だから』


声の主は映らない。研究員と思しき女性の声だけが、機械越しに響いていた。


少女は小さくうなずき、ぽつりと呟いた。


「いちばん……ちゃん。だって、いちばんはじめのおともだち、だから」


その言葉に反応するように、機械生命体が、微かにまばたきのような動きを見せる。


『記録開始:被検体00と01の初期適合反応──良好』


そこで映像はぶつりと切れた。


「……今のって……」


「ああ……キョウカと、01の“出会い”……かもしれない」


『映像には時刻記録が含まれていません。保存日時の改ざん、もしくは消去が行われている可能性があります』


「つまり、いつの記録かは──誰にもわからない、ってことか」


「ふざけんな……子どもを、あんな……」


「……進もう」


俺たちは再び足を進めた。




『止まってください。』


俺たちの進行を止めるアイカの声が、通信機から静かに響く。


「なんだ?」


『この先の扉から多数の熱源を確認。おそらく敵が集まっています』


「どんな部屋かわかるか?」


『……どうやら格納庫のようです。先ほどの強化個体01の反応もあります』


「格納庫か……ってことは、あいつらがそこで“集合”してるってことか」


「全員揃ってしまったら厄介だな」


「慎重に行くしかない。準備を整えろ」


俺たちは壁際に身を潜め、武器の準備を整える。


遠くから、鉄の扉を軋ませる重低音が響き始めた。


「いよいよか……」


息を殺し、俺たちは扉の前に立った。


「アイカ、武器も弾薬も心配だ。補充と、増援を頼む」


『了解。サポートドローンと戦闘用ドローンを送ります』


「頼む」


数分後、ステーション内の空調ダクトから微かな羽音が聞こえ、黒い影が滑るように接近してきた。

二機のドローンが俺たちの目の前で静止し、一機はサポート用のコンテナを展開、もう一機は周囲に警戒態勢を取る。


「マリナ、弾薬の補充、装備の点検しておけ」


「りょ~かい。化け物にかじられたくないからね」


マリナは肩のパッドを外し、追加マガジンをポーチに詰め込む。


「コウキ、あんたもちゃんと詰めときなよ。撃ち切ったらただの棒よ?」


「言われなくてもやってる」


俺も慎重に弾倉を入れ替え、スリングの点検を済ませる。

ドローンが残した最後の小型グレネードもポケットに忍ばせた。


『補給完了。ドローンは待機状態に移行。必要に応じて再出撃可能です』


「よし……」


俺たちは改めて格納庫の扉に向き直る。


「ここから先が正念場だ。覚悟はいいか?」


「とっくにできてる」


俺たちは一度だけ目を合わせ、扉の解除パネルに手を伸ばした。




扉がゆっくりと開く。

ギイ……という金属の軋む音が、やけに大きく響いた。


格納庫の内部は、まるで生体の心臓のように湿り気を帯びていた。

赤い照明が断続的に点滅し、その奥に──無数の異形たちが立ち尽くしていた。


「っ……数が多すぎる……」


培養槽から出た実験体たちが、まるで兵士のように整列している。

そして、その中央。


段差の上で、両腕を高く掲げ、声を張り上げるひとりの男がいた。


「目覚めよ、我が遺産たちよ! この日を、どれだけ待ちわびたか──!」


マリナが思わず息を呑む。


「誰、あれ……? 人間……よね?」


男はまだ若い。二十代の半ばほどだろう。

だがその目は異様に光り、狂気に満ちていた。


「我こそは、この研究区画の正当な後継者。祖父が築いた帝国の“未来”を、今こそ再現するのだ!」


俺は即座に通信を開いた。


「アイカ、あいつは誰だ?」


『顔認証……一致しました。元帝国研究員・エルネスト・ルゼフ博士の孫、リド・ルゼフ。死亡記録はありません。消息不明とされていました』


「このステーションの研究者だった奴の、孫だと……!?」


マリナが声を荒げる。


「待って。あいつ、まさか──実験、再開する気……!?」


「そのまさかだろうな……」


男──リド・ルゼフは、異形の群れの中、中心にいる01の肩へ手を置く。

それは、まるで“娘”を導く父親のような仕草だった。


「お前たちは失敗なんかじゃない。帝国はお前たちを恐れた。だが私は違う──この手で、お前たちを完成させてみせる!」


01の目が、わずかに揺れる。


「……コウキ、01の奴、あいつの命令……聞いていない?」


「ああ……なんか違和感がある」


リドはさらに声を張る。


「“被検体キョウカ”──No.00も必ず回収する! 彼女がいなければ、実験は完全にはならない!」


その瞬間、01の視線が、ゆっくりとリドから逸れ──俺たちに向いた。


「……きょ……うか……」


その声は、先ほどよりも、はっきりしていた。




リドは両手を広げ、陶酔したように叫ぶ。


「実験はまだ終わっていない! 00、そして01──お前たちは私の手で完成されるのだ!」


だが──そのとき。


01がゆっくりと、リドの方を向いた。

その瞳には、迷いがあった。けれど、確かな“意志”も宿っていた。


「……きょうか……まもる……」


「……あ?」


リドが言葉を失う。


次の瞬間──

01は跳んだ。


鋭利な腕が閃き、リドの首元に叩き込まれる。


「なっ──ぐ、あ……っ!?」


リドの体が吹き飛び、床に叩きつけられた。

その瞳から、最後の光が消えていく。


「……今の……!」


マリナが声を詰まらせる。


『戦闘用個体01、制御プロトコルを逸脱。独自判断で行動を開始しています』


「……いや、これは──判断じゃない。“意志”だ」


俺は見ていた。

01のその目が、ただ命令を受ける機械ではなく、“キョウカ”を覚えている誰かのように──確かに、光っていた。


そして、リドが倒れた次の瞬間。


01がゆっくりと格納庫の中央に立ち、残る実験生物たちを見渡した。


「……不要……敵……排除……」


その声は、低く、機械的でありながら、どこか感情のこもった響きを持っていた。


直後。


異形たちが、互いに牙を向け始めた。


「な、何が……!?」


「こいつら同士で──殺し合ってる!?」


培養槽から生まれた獣たちが、喉を鳴らし、鋭い爪で仲間を引き裂いていく。


『01が優先順位の上書きを行いました。“キョウカを脅かす存在の排除”──それが、いま彼らの命令です』


「……キョウカを守るために、“同族”まで……」


俺たちは、しばし言葉を失った。


格納庫の中で繰り広げられる、異形たちの死闘──

その中心で、血に染まりながらも、じっと動かずに立つ01。


その姿はまるで、キョウカを守るために生まれた“騎士”のようだった。


──だが、その騎士の背後で、格納庫の床が、わずかに軋んだ。


第三階層の“さらに下”に、何かがいる。


その気配だけが、次の地獄を予告していた。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました!


もし「続きが気になる」「ちょっと面白かったな」と思っていただけたら、

★評価・ブックマーク・感想など、どれかひとつでもいただけると励みになります!


あなたの応援が、物語をもっと広げてくれます!


次回もどうぞ、お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ