勝負だ!お魚お肉杯!
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砂浜にはターフが張られ、長机とパイプ椅子が用意されている。ご丁寧にマイク付きだ。
いったいなぜこんなものがあるかと言うと──
「さあ始まりました、“メインディッシュ・お魚お肉杯”! 実況は私アイカと、解説はコウキ艦長でお送りします!」
「なんでこんなことに……」
事の始まりは、一時間前。海で楽しく遊んでいた時のことだ。
「今日の晩ご飯は新鮮な海の幸! これは外せないよね!」
「わたしはおにくがいい!」
「いやいやキョウカちゃん、せっかく海に来たんだから海鮮でしょ。これは当然の判断だよ」
「いや! おにくたべたいの!」
「私はどちらでもかまいません」
「それぞれ好きなもん食えばいいだろ……」
「お魚!」
「おにく!」
「よし、じゃあ勝負で決めようじゃん!」
「まけない!」
──こうして、夕飯のメインディッシュを決めるための戦いが幕を開けたのだった。
「第一回戦、ビーチフラッグ対決の開幕です! どう見ますか、艦長?」
「はぁ……アルコールが入ってる分、マリナが劣勢だろうな。あれ、まっすぐ走れるのか?てかお前テンション高くないか?」
「現在実況モード、起動中です。ノイズを排除しつつ最大出力でお届けします。解説ありがとうございます、艦長。それでは両者、位置について──スタート!」
パンッ!
アイカが小型の信号銃を鳴らしたその瞬間、突風が吹き荒れる。
次の瞬間には──
「はいっ!」
すでにキョウカがフラッグを掲げていた。
「……速すぎじゃねぇか?」
「キョウカさんは強化個体ですから。普段は出力を制御していますが、現在はテンション上昇によりオーバーフロー状態のようです」
「浮かれて制御不能って、怖すぎだろ……」
「ふらっ……ぬわっ……うえぇぇ……」
対するマリナは、砂浜に突っ伏していた。すでに酔いとの戦いに入っているようだ。
「第一回戦、勝者はキョウカさん! 肉派が一歩リードです!」
「……まあ、こうなると思ってた」
「それでは第二回戦──かき氷早食い対決です!」
「これならフェアな戦いになりそうだな」
「では、スタート!」
アイカの合図とともに、二人は目の前のかき氷に一気にかぶりついた。
……が、案の定というべきか──
「あ゛づっ……!」
「うぐっ、あたまが……!」
「おっと、両者とも見事にアイスクリーム頭痛を発症した模様です」
「そりゃ一気に食おうとしたら、そうなるわな……」
「いち早く復帰したのはマリナさん! これは速い、快調なピッチ! このまま逃げ切れるか?」
「お、キョウカも復帰したみたいだな。巻き返せるか?」
「猛追するキョウカさん。両者一歩も譲らない展開です!」
ラストスパート。かき氷をかきこむスプーンの速度が、加速度的に上がっていく。
「よっしゃ~!」
「先に完食したのは──マリナさん! これで1勝1敗、勝負は振り出しに戻りました!」
「少し休憩をはさんで──第三回戦、水鉄砲バトルのお時間です!」
「まだやるのかよ……って、マリナ、顔赤くなってないか?」
「休憩中にまた飲んだようです。もはや正気とは思えませんね」
「おい……」
ルールは単純。砂浜に設けられたミニ障害物コース内で、互いに水鉄砲を構えて撃ち合い、先に三発命中させたほうの勝ち。
まさかの水着姿でのガチバトルが幕を開ける。
「現在のスコアは1対1。この勝負を取ったほうが、メインディッシュを決定する最終局面に王手です!」
「つまりここで勝てば──“お魚orお肉晩飯”に大きく近づくわけか……どうでもいいけど疲れてきたぞ」
「いくよ、キョウカちゃん!」
「うんっ! おにくのためにぜったいまけない!」
「それでは第三回戦──スタートです!」
──パンッ!
アイカの号砲とともに、マリナとキョウカが勢いよく飛び出す。
砂浜に設置されたバルーンやパラソル、即席の砂の壁に身を隠しながら、互いに水鉄砲を撃ち合う。
「おっと、マリナさん、開幕一発命中! 素早く飛び出しての側面攻撃が冴えています!」
「お、酔っ払いの割には動けてるじゃねぇか……って、あれ?」
その瞬間、マリナの足がもつれ、前のめりに転倒。派手に砂に突っ込んだ。
「うわっ、しまっ!? 目に砂があぁぁぁぁ!」
「いまだよっ!」
チャンスを逃さなかったキョウカの水鉄砲が炸裂。立て続けに二発、マリナの胴に命中する。
「くっそ……目が、目があぁぁぁぁ……」
「マリナさん、完全に後退! しかし──あっと、これで勝負あり!」
「決まったー! 三発目の命中で、キョウカさんの勝利です!」
「またやられたか……」
「強化個体の反応速度に、子供特有のスタミナと反射神経。もはや暴力です。艦長、解説を」
「俺に振るな」
「やった~! おにく~! ステーキ~! ハンバーグ~!」
「うぅ……もう、負けられない……あと2勝、全部とってやる……」
──第三回戦は、肉派・キョウカの勝利!
これでスコアは2対1。お魚派・マリナ、後がない!
「第四回戦、スイカ割りです」
「……お前も疲れてきてねぇか?」
「気のせいです」
ルールはこうだ。
目隠しした状態で、その場で10秒回る
砂浜に置かれたスイカに向かって棒を振り下ろす
制限時間は30秒、アドバイスは禁止
より見事に割れたほうが勝ち
「現在のスコアは2対1。マリナさんが負ければ、その時点で勝負終了です!」
「マジで負けらんねぇ……ここで一本返す!」
「ではまずはキョウカさんから。目隠しをどうぞ」
「は~い!」
キョウカが棒を持ち、くるくるとその場で回る。
「10秒経過、どうぞ」
「いきまーす!」
まっすぐ、まったく迷わずスイカの前に進み、棒を振り下ろす。
バゴンッ!
「うわ……」
「スイカ、四散しました。あれはもう……ジュースですね」
「正確すぎて逆に怖ぇよ」
「どうやら足音と風の流れから、正確な位置を割り出したようです」
「それもうスイカ割りじゃねぇよ。精密誘導爆撃だよ」
「マリナの勝ちはもうなくなったわけだが……続けるのか?」
「やる! 引き分けにして、次勝って、そんでサドンデスで大逆転! 諦めたらそこで試合終了ってやつよ!」
「そうか。さっさとやってくれ」
「むむ~。ぐるぐるぐるぐる……うわ、目まわる……」
「10秒経過。どうぞ」
「う~ん……こっちか? いや、ちょっと右? 左?」
「おっと、マリナさん、明後日の方向に向かってます!」
「静かにしろ……こういうのは野生の感ってやつで……よし、ここだっ!」
バスッ!!
棒が地面に突き刺さり、砂煙が舞う。
「はい終了。スイカにかすりもしていません。勝者、キョウカさん」
「うぅ……くやしいぃ……!」
──こうして第四回戦もキョウカの勝利。スコアは3対1!
夕飯争奪戦、いよいよ最終ラウンドへ──!?
「いや、もう勝敗決まったろ。終了だ終了」
「ぐぬぬ……残念だけど、仕方ない。勝負だからね。夕飯は──お肉にしますっ!」
「やった~! おにく~! いっぱいたべる~!」
「……まあ、私も肉は嫌いじゃないし、いっか。お魚は明日ね」
「たのしかったね!」
笑い声が波音に混ざる。
──そんなバカンスの一日も、そろそろ夕暮れ時だ。
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