初陣、宇宙海賊予備軍!
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「さて、宇宙に上がったのはいいものの、どうしたもんかね」
俺はシートに背中を預けたまま、虚空を見上げて呟いた。
目の前には、見たこともない無重力の青黒い世界。だが今の俺には──
「金もなし、飯もなし、ついでに燃料も“今あるだけ”。ないない尽くしだな、こりゃ」
正真正銘の無計画出発である。
浮かれてはいたが、このままだと数時間後には酸欠で窒息してる未来すら見える。
そんな俺の愚痴に、例のポンコツAIが、涼しい声で返してきた。
「でしたら、ここから少し先に、宇宙海賊の拠点があります。そこで賞金でも稼いでみてはどうでしょう」
「はあ?海賊って……それ危なくない? 一隻で突っ込んで、返り討ちじゃ洒落になんねぇぞ」
「問題ありません。当艦は完璧です。それに海賊といっても、登録も許可も受けていない非正規のゴロツキどもです。
いわば“海賊もどき”。組織力も火力も、当艦一隻で十分排除可能です」
「ほんとかよ……お前の“完璧”って信用ならねぇんだよな」
少し考える──というか、他の選択肢がマジでない。
「まあ、他に案もないし……行ってみるか」
「了解しました。航路を変更。推進システム最大20%、最適経路で目標座標へ進行します」
エンジン音が一段階低く唸り、船体がゆっくり旋回を始める。
正面のスクリーンには、赤いマーカーで囲まれた未登録宙域が表示された。
「そういえば、ギルド未加入の海賊ってさ、普通は正規軍の討伐対象なんじゃねぇの? なんで野放しなんだ?」
「艦長。そんなド辺境の無名宙域に、貴重な戦力を割いて討伐に来ると思われますか?」
「……あー。たしかに。ここじゃ、軍隊呼ぶより宇宙クジラ見つけるほうが早いかもな」
「的確な皮肉ですね、艦長。お褒めします」
「褒めるな。腹立つ」
そうこうしてるうちに、宇宙海賊が根城にしている宙域が目前に迫った。
スキャナーに映る赤い点が、じわじわと増えていく。
「艦長。戦闘行為が確認されました。どうされますか?」
「戦闘? ……海賊か?」
「肯定です。輸送船2隻が、武装艦3隻から攻撃を受けています」
「タイミング最悪、いや──最良か。賞金のほかに“感謝料”なんてのも転がり込むかもしれねぇな」
俺はニヤッと笑ってから、操縦席に深く腰を沈めた。
「行ってみるか」
「了解。これより、輸送船の救援、および敵性武装艦への迎撃を開始します」
AIの声が終わると同時に、艦が振動を上げながら加速した。
スターシールドが展開され、視界の端に防御インジケーターが並ぶ。
本格的な戦闘モードに入るのは、これが初めてだった。
「こちら、えーっと……助っ人だ。そこの輸送船2隻、武装艦はこっちで引き受ける。お前らはひたすら逃げろ!」
回線を開き、即興で通信を飛ばす。若干声が震えてたのは、きっと気のせいだ。
『こちら輸送船ナガタニ。援護、感謝する。──た、頼む!』
「了解──それじゃあ、行きますか」
目の前に現れる敵艦のシルエット。いずれも中古の武装船だが、火力は侮れない。
機銃を備えた艦体が、俺の船を目視した瞬間、こちらに砲口を向けてきた。
「おっと……やる気だな」
「迎撃シーケンス開始。敵艦をロックオン──完了。武装:パルスレーザー、EMPチャフ、誘導弾1基。出力調整、完了」
「じゃあ──まずはお手並み拝見ってことで!」
「脳波コントロールシステム作動、操縦権を艦長に移譲」
俺が声を上げた瞬間、AIが補助をし、操縦をを開始する。船体が滑らかに傾き、旋回して敵の側面へ回り込む。
次の瞬間──
「発射」
青白い光線が艦体前部から放たれ、敵艦の側面に命中。シールドがきらめき、瞬間的に熱が走った。
「直撃。敵艦の装甲にダメージ。カタパルト異常検知、推進機能に損傷」
「1隻目、足止め完了──次!」
敵艦も反撃してきた。赤いビームがこちらへ飛んでくる。
だが、AIは寸前でそれを予測し、船体をロールさせて回避。
「くっ……! Gが……!」
シートが体を押し潰すように重くなる。吐きそうだ。
だけど、負けてたまるか。俺は叫ぶ。
「もう1発!追撃いけ!!」
「了解。目標照準──発射」
2発目のパルスレーザーが火を吹き、敵艦の機関部を直撃。炎をあげてスピンしながら宙域を漂い始めた。
「敵艦2、戦闘不能。残り1隻──急接近中」
──まだ終わらない。
「……よし、こっからが本番だな」
敵艦の一隻が、急旋回しながらこちらの側面を取ろうとする。
速度と角度、両方を読んだ動き──これはただの雑魚じゃない。
「……操艦がうまいな。あいつ、リーダー格か?」
「高確率でその可能性があります。搭載兵器も他の個体より高性能です。警戒を」
機体を揺らすような振動と共に、敵のビームがこちらのシールドをかすめた。
熱と圧力で警告灯が瞬く。俺は歯を食いしばる。
「でも──わかったよ。さっきので、はっきりした」
この艦は──強い。
パルスエンジンが火を吹き、重力制御が限界まで作動する。
機体がスライドしながら宙域を抜け、敵の死角へと回り込んだ。
「今だ、撃て!」
「拡散弾、発射」
──ドゥンッ。
まるで腹の底に響くような重低音。
そして、数瞬の静寂ののち──敵艦の機体が破裂するように爆散した。
閃光と金属片が宇宙空間に咲き乱れ、まるで火の粉のように散っていく。
「……今の、何?」
「拡散弾です。複数の高密度弾頭を射出し、至近距離で一斉に爆破。
一発でも命中すれば、艦体に致命的ダメージを与えられます」
「そんなヤバいもん、最初に言えよ……」
「使用条件:近距離戦。命中率が保証されないため、非推奨兵器として登録されていました。
ですが、艦長の判断により、最適な場面で使用できたと考えます」
「……おだててんのか、ディスってんのか分かんねぇな、お前は……」
通信には、すでに撤退中の輸送船から安堵の声が入ってくる。
『こちらナガタニ。武装艦、沈黙を確認……助かった、本当にありがとう……!』
『もうダメだと思ってた! そっちの船、どこの傭兵だ!?』
「俺は……そうだな──」
──今、ここで名前を名乗れば、「伝説」はここから始まる。
「……宇宙海賊予備軍、コウキ艦長ってところだ」
笑い混じりにそう返すと、AIがささやくように告げた。
「戦闘記録、保存完了。戦績データ、ギルド登録可能範囲に達しました」
「へぇ……じゃあ、ギルドの試験資格も得たってことか?」
「肯定。艦長は、正式な宇宙海賊への第一歩を踏み出しました」
「よし──この調子で、俺は成り上がってやる」
ぐっと拳を握る俺の前に、再び星の海が広がっていた。
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