表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/68

嵐の足音

評価&応援ありがとうございます!

いよいよ、今日が作戦決行日だ。


「さて。これで問題はないな。アイカ、最終チェック」


「了解。……燃料、弾薬、シールドエネルギー、全項目チェック完了。異常なし。ハイペリオンも同様です。出撃可能です、艦長」


「よし──ヘッジホッグ、発進」


「了解。発進します」


艦橋に微かな振動が走る。エンジンが唸りを上げ、ヘッジホッグは銀河の虚空へと滑り出した。


向かうのは、帝国軍が指定した待機座標。

作戦開始前に、味方艦が集結しているはずのポイントだ。


「ここで……合ってるよな?」


「はい。指定座標に到達。マーカー一致、誤差ゼロです」


「……しかし、数が……思ったより少ないな。これが“応援艦隊”か?」


マリナが眉をひそめながら、ウィンドウを操作して艦影の一覧を表示する。


「はい。指名に応じて現地入りしたのは、全体の約3割。予定の6割を大きく下回っています」

アイカの無機質な声が、どこか寂しげに響く。


「……3割か。まぁ、予想通りとはいえ、ひでぇな」


「帝国と組むのを嫌がった連中が多かったみたい。『正規軍の足を引っ張るのはゴメンだ』って、どこかへ消えたわ」


「……足を引っ張るのがどっちかなんて、分かりゃしねぇのにな」


ウィンドウに映し出された艦影は、大小まちまちの私掠船。

明らかにパッチワーク状態のボロも、ちらほら混じっていた。


「本当にこれ、“実績ある艦”を集めたのか? 見た目だけなら寄せ集めって感じだぞ」


「外観はボロでも、ジェネレーター反応を見る限り、中身はそれなりのようです」


「ま、見た目が全部じゃねぇしな。動けばそれでいい」


そんな艦の中で、俺たち“ヘッジホッグ”は、明らかに異質だった。

準新鋭の船体に、フル装備の武装と艦載機。そして──AIと高火力兵器を備えた万能艦。


「でもまあ、こういうときこそ、俺たちの出番ってことだ」


「ええ、艦長。“実績”を積むには、最高の舞台です」


「はいっ! わたしもがんばる!」


「ふふん、今日は派手にいっちゃうよ~。久々に“燃える”わね」


──そんなやり取りの最中。


帝国艦隊が到着した。数はそれなりに揃っている。

あとは──練度次第だが……期待は、しないでおこう。




帝国軍からの通信が入る。


「こちらケルベロス・スロット宙域駐留艦隊、提督リサだ。まずは、今回の招集に応じてもらったことに感謝する。これより作戦の説明を行う」


帝国軍の戦艦から、通信ウィンドウに整然とした女性の顔が映し出される。銀髪、鋭い眼差し。あの時、直接会ったリサ提督だ。


「作戦は単純だ。敵は民間船を改造した旧式艦が中心。火力・装甲ともに我々の戦艦の相手ではない」


淡々とした口調で、しかし一切の迷いもなく言い切る。


「よって、本艦隊は敵拠点を包囲し、長距離からの一斉砲撃で戦力を削減。拠点に群がる艦を一掃する」


「その後、砲撃から逃れようとする残党が出ると想定される。そこで──」


一拍置いて、提督の視線がこちらに向けられる。


「海賊諸君には、指定宙域にてその残党の掃討を任せたい。数こそ多いが、組織力のない連中だ。十分に対処可能なはずだ」


短くまとめられた作戦概要。それだけに、質問の余地はある。


「──以上だ。質問のある者は?」


「こちら、星間海賊ギルド所属──コウキ艦長だ。ひとつ確認させてもらう」


俺は通信チャンネルを開き、やや低めの声で言う。


「失礼ながら……そちら駐留軍の戦力、本当に信用していいのか?この宙域、あまり良い評判は聞かないんでな」


一瞬、静寂。が、その隙を割って、リサの声が平然と返ってくる。


「問題ない。“止まっている目標”に当てる程度は、我が軍の最低限の訓練範囲だ。貴艦と比べれば見劣りするかもしれんが──戦闘能力は保証する」


率直な自覚と、必要十分な自信。嘘ではない。少なくとも、見栄で大言壮語を吐くタイプではないらしい。


そこへ、別の私掠艦から通信が割り込む。


「こちら、同じくギルド所属──ロウ艦長だ。ちょいと確認。緊急時の退却は……認めてもらえるんだろうな? まさか、沈むまで付き合えってんじゃないだろうな?」


口調は軽いが、真剣な問いだ。


リサは一拍置いて、静かに答える。


「退却は、各艦長の判断に任せる。危険と判断したなら、即座に離脱して構わない。──沈むまで戦うのは、我々帝国軍の役目だ」


通信に、一瞬の沈黙が走る。


重たい言葉だった。だが、それが“覚悟”というものだと、誰もが理解したはずだ。


「質問は他にないか?」


少しの間、静寂が続く。


「──よし。では各艦、指定宙域へと移動。作戦開始を待て」


「了解」


「了解」


通信チャンネルに、複数の返答が短く重なった。


それぞれが、自分の責任を抱えて戦場へ向かう──そんな、緊張と覚悟が感じ取れた。


 


数分後、俺たち“ヘッジホッグ”は指定宙域へと到着する。

帝国側が全艦隊を展開するまで、しばしの待機時間。


そのとき、通信が入った。


「よう、噂は聞いてるぜ。“最近目立ってきた、新進気鋭の艦長”ってな。こっちはロウ。お手柔らかに頼むよ、エースさん」


やや砕けた調子の声。軽口に見せかけて、様子を探っているような気配もある。


「ありがとな。でも──過度な期待はすんな。俺は俺のやり方でやるだけさ」


「へぇ、謙虚だな。だが、その分“やってくれる”と見込んでる連中は多いぜ。──自信、持っとけよ」


一瞬、通信が切れる。けれど、言葉の余韻は残った。


……さて、期待されてる以上、応えるしかねぇか。


 


アイカが静かに告げる。


「帝国艦隊、配置につき始めました。作戦開始まで、残り12分」


「了解。──全システム再確認。万が一にも、準備不足で沈むわけにはいかねぇからな」


「任せて」


「了解~。さぁ、派手にやりますかねぇ!」


「わたし、がんばる!」


ヘッジホッグの艦内が、じわじわと戦闘モードに切り替わっていく。


銀河の辺境、ケルベロス・スロット宙域。

静けさの中に、嵐の足音が近づいていた──


ここまで読んでくださり、ありがとうございました!


もし「続きが気になる」「ちょっと面白かったな」と思っていただけたら、

★評価・ブックマーク・感想など、どれかひとつでもいただけると励みになります!


あなたの応援が、物語をもっと広げてくれます!


次回もどうぞ、お楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ