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やり手指揮官とポンコツ制裁

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「指名依頼?」


「……はい……銀河帝国軍からの指名が入ってます……」


「……は?帝国軍? なんでまた、そんなとこから?」


「コウキさんの実績を見て──お眼鏡にかなった、って感じっすかね……」


「どんな依頼だ?」


「えっとですね……ケルベロス・スロット宙域で活動してる、大規模違法海賊船団──『ブル・フォッグ』の討伐っす……」


「ブル・フォッグ……聞いたことあるな。でも確かここの帝国軍、やる気ゼロなんじゃなかったか?」


「いやまぁ……それが、コウキさんのおかげでこの宙域も多少マシになったってことで、今が好機だって動き始めたっぽいっす」


「へぇ……ようやく重い腰を上げたか。誰かに尻叩かれたか?」


「……駐留軍の指揮官が変わったって噂もありますね。けっこうやり手らしくて、実績作りに本腰入れてるとか」


「向上心のある指揮官、ね……よりによってこんな銀河の果てでか。皮肉なもんだ」


「他の宙域からも、実績ある海賊連中を招集してるみたいっす。どこまで集まるかは未知数ですけど……」


「ほう。やる気はあるらしいな。……問題は駐留軍の練度だが──期待はできんな」


「っすよね……指揮官が変わったからって、そう簡単に底は上がらないっすよ。ま、治安がマシになれば、ウチとしても悪くない話ですけど」


「そうだな……とりあえず、受ける方向で検討だな。変に断って目ェつけられても面倒だ」


「報酬は……正直そこそこっすけど、帝国軍のお墨付きで“実績”にはなりますし。コウキさんの名前、もうひと押しで銀河中にバレますよ、やり手艦長」


「名前が売れても、そのうち帝国に睨まれるんじゃ意味がないが……まぁ、いい。話だけでも聞きに行くか」


「指揮官が“まとも”なら、いいですけどね……」




とりあえず艦に戻り、マリナたちと情報共有だ。


「というわけなんだが、どうだ?」


「あたしは賛成。帝国の指名断ると、目ぇつけられるよ。あいつら、プライドだけは高いからね」


「私も賛成です。ここで帝国軍との繋がりを作っておくのは、有益な選択です」


「ん~?」


マリナとアイカは即答で賛成。キョウカだけが首をかしげている。


「じゃあ、受ける方向でいこう。明日、指揮官に会いに行くぞ」


「りょ~かい」


「承知しました」




翌朝、俺はケルベロス・スロット駐留軍の指揮所へと足を運んだ。


「依頼を受けた星間海賊ギルド所属のコウキだ。指揮官に会いに来た」


門衛はじろりとこちらを見たあと、短く答える。


「確認する。しばし待て」


通信越しに何やらやり取りをし──


「確認取れた。提督がお会いになる。ついてこい」


「俺が連れて行く。あとは頼んだ」


そう言って、門衛は俺たちを振り返りもせずに歩き出す。


俺たちは無言でその後に続いた。施設内は清潔に保たれているが、どこか時代遅れの空気が漂っている。


――そして。


「ここだ。提督、星間海賊ギルドのコウキ艦長をお連れしました」


重たい扉の向こうから、低く、けれどはっきりとした女性の声が響く。


「入れ」




俺は重たい扉を押し開け、中へと入る。


そこにいたのは、背丈は低いが存在感のある女だった。

銀の長髪を後ろでまとめ、冷ややかな視線をこちらに向けてくる。


「よく来てくれた。私がケルベロス・スロット駐留軍、提督のリサだ」


その目は鋭く、表情は厳しいが、どこか冷静さも感じられる。

少なくとも、実績欲しさに無謀な作戦を仕掛けるようなタイプには見えない。


「星間海賊ギルド所属、コウキ艦長だ。よろしく頼む」


「噂は耳にしている。貴艦はなかなかの戦果を上げているようだな。……期待しているぞ」


俺は肩をすくめる。


「過度な期待は禁物だ。で、具体的な作戦内容と、他の参加者の様子は?」


リサ提督は小さくため息をつき、椅子に腰を下ろす。


「正直、状況は芳しくない。指名は出したが、応じた海賊はごくわずか。実力者はほとんど様子見を決め込んでいる」


「……そりゃまぁ、帝国軍と共闘なんて、普通は警戒する」


「当然だ。だが、相手は“ブル・フォッグ”だ。違法海賊の寄せ集めとはいえ、頭数は多い。放置すれば、確実にこちらが不利になる」


「だから、こっちを呼んだってわけか」


「その通り。……正規軍の戦力も、万全とは言えん。だが、実績ある傭兵たちと連携できれば、勝機はある」


「で、作戦は?」


俺が問いかけると、リサ提督は一瞬だけ視線をよこしたが──すぐに書類に目を落としながら答えた。


「作戦の詳細は当日説明する。現時点での情報漏洩は避けたい。……協力、感謝する。コウキ艦長、よろしく頼む」


そう言って、彼女は一枚の書類をパタンと閉じた。


「作戦開始は明後日。指定時間までに艦を待機座標へ。準備は各自の判断に任せる。──以上だ」


手短で、無駄のない言い回し。

だがその言葉の端々に、こちらの力量を見極めた上での信頼が、わずかに滲んでいた。


……ま、ああいうタイプだ。下手に食い下がっても無駄だろう。


俺は踵を返し、部屋をあとにする。




「おかえりなさい、艦長」


「おかえり~」


「おかえりなさい!」


三者三様の出迎え。……こういうのがあると、「帰ってきた」って実感が湧く。


「帝国軍の指揮官との会談内容は把握しました。しかし、作戦の詳細をもう少し聞き出せなかったのですか?私が同行すべきでした」


「うるせぇぞ、ポンコツ。あの女、誰が行っても同じだ」


「“ポンコツ”、カウント:5。制裁措置を実行します」


ガコンッ!


「いってぇッ!? な、なんだ……タライ?」


「制裁措置:落下式タライ。カウントリセット完了。次はあと5回で再実行されます」


「またこんなもん仕込んで……誰が許可したんだよ!」


「艦内防衛プロトコルの一環です。なお次は鉄製になりますのでご注意ください」


「AIってこんなに私情挟んでよかったっけ……」


マリナとキョウカは、目を丸くしながら笑っている。


「おにいちゃん、あたま、いたいの?」


「物理的にな」




「とりあえず、明後日までに準備を終わらせるぞ。アイカ、燃料と弾薬のチェックを頼む」


「承知しました」


「マリナはハイペリオンの整備。細かいとこまで、しっかりな」


「は~い。ちょっとは感謝してよね~?」


「わたしは?」


キョウカが首をかしげながら聞いてくる。


「キョウカはお勉強な。アイカお姉ちゃんに見てもらえ」


「はーい!」


キョウカは元気よく返事をして、アイカのあとについていった。


その小さな背中を見送りながら、俺は息を吐く。


「さて……明後日までに、万全に仕上げておかないとな」


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