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ようこそ末期ギルド支部へ

評価&応援ありがとうございます!

ケルベロス・スロット宇宙ステーション、それはこの宙域で唯一と言っていいほど、数少ないまともな宇宙ステーションだ。

他のステーションはほとんどが非合法なものばかりで、とてもじゃないが行きたいとは思わない。


「ここがケルベロス・スロットの宇宙ステーションか。思ってた通りのところだな。まぁ、他のステーションよりはマシなんだろうけどさ」


「ずいぶんくたびれた場所だねぇ。ここ根城にするの?」


「他のとこよりマシなはずだ。非合法ステーションなんてキョウカを外に出せないだろ。危なくて」


「まぁ、そうだけどさぁ。ここも治安悪そうだよ?」


キョウカは、アイカに手を引かれて艦のタラップを降りていた。さっきまでのおやつテンションはどこへやら、見慣れない景色に目をぱちくりとさせている。


「おにいちゃん……ここ、くさい」


「それはな、治安が悪い場所あるあるだ」


マリナが苦笑いする。


「そもそも宇宙ステーションって言っても、華やかなとこばっかじゃないからね。汚れた空気に、路地裏には違法屋台、スラムの入口にはパーツ泥棒──定番ってやつ」


「お前、なんでそんなに詳しいんだよ……」


「えーと……前の仕事でちょっと?」


「“ちょっと”の規模じゃねぇよな……」


辺りを見渡せば、サビだらけの船体がむき出しになったままの整備ドック、壁面には剥がれかけのネオンサイン。所々で売買されているのは、パーツとも食材とも言い難い何か。


「やっぱ……宇宙の底辺って感じだな。だが、ここをうまく使えれば、しばらくの拠点にできる」


「問題は……このボロさと、こっちをジロジロ見てくる目線の多さだねぇ」


「心配するな。アイカ、ステーション内のセキュリティレベル確認」


「確認しました。この宙域にしては比較的良好。武装ギャングの数は平均以下、腐敗役人の比率はやや高めですが、賄賂次第で交渉余地はありそうです」


「……参考になるようなならないような分析だな」


「とりあえず、ギルドに向かうか。行くぞ、マリナ、キョウカ。アイカは留守を頼む」




そうしてたどり着いた星間海賊ギルド。そこは……


「ずいぶんと寂れてるな。人、いるのか?」


「一応OPENの看板あるよ。電球切れかけてるけど」


「ここも、きたない……」


「いくぞ」




「しゃーせ……ようこそ星間海賊ギルド……ケルベロス・スロット支部へ……」


出迎えてきたのは覇気のない受付嬢。


「依頼っすか……それならそこの端末に……」


受付嬢は、目の下にくっきりクマを浮かべたまま、機械的に指をさす。髪はボサボサ、制服はシワだらけ。お世辞にも“やる気”という単語は見当たらない。


「……すごい。これでやっていけてるのか……?」


「ギルドとしての機能は……一応、あるっぽいね」


「おなかすいてるのかな?」


「たぶん違うな、キョウカ。あれは“社会に疲れた大人”だ」


「そーっすよ……社会が悪いんすよ……」


「うわ、聞こえてた」


端末はというと、時代遅れのタッチパネル式。画面の反応がワンテンポ遅れるたびに、ギルドの財政状況が想像できてしまう。


「……ほとんど依頼ねぇな。緊急警備、貨物護送、賞金首のマークが数件……あとは……」


「“謎の生物調査協力”、ってのもあるね。報酬少なっ」


「どれも割に合わねぇな。ここ、支部ってより“末期”だな」


と、そこで受付嬢がぽつりとつぶやく。


「最近はもう、ギルドもなり手が減ってて……人も滅多に来ないし……」


「それにギルドを介さない依頼が多くて……」


「つまり、競争相手が少ないってことか」


「……逆に言えば、目立てば目立つほど狙われるとも言うっすけどね……」


「それは……まぁ、知ってる」


「でも、目立たなきゃ船も装備も維持できないからな。とりあえず──登録内容だけ確認しておくか」


端末に認証データを通すと、コウキたちの登録情報が表示される。


【艦名】ヘッジホッグ/ハイペリオン

【艦長】コウキ(海賊ランク:C)

【登録乗員】マリナ(本登録)、キョウカ(登録申請中)

【搭載火力】中口径レールキャノン、他多数、牽引ビーム、AIサポートシステム:A等級

【評価】準定期航行艦/独立運用可/拠点利用可


受付嬢がちょっと目を見開いた。


「あれ、思ったよりちゃんとしてるっすね……この艦。A等級AIって、今どき珍しいな」


「まあ、見た目はちょっとクセあるけどな。性能はいいぞ」


「ふーん……じゃあ、Bランク昇格審査、受けてみます? この宙域の実績と評価基準なら、通るかもですよ。それにCランクだと稼げないっすよ、ここ」


「Bランクか……」


マリナがぼそっと呟く。


「昇格できれば、もう少しマシな依頼も回ってくるようになるし……」


「キョウカの登録も、それで通しやすくなるな」


「うん……はやくいちにんまえになりたい」


「よし。なら、やってみるか。条件は?」


受付嬢は、端末をカチカチといじって言った。


「支部長、今昼寝してるんで、起きたら審査手続きしますね……しばらく待合スペースで待っててください」


「……昼寝」


「“やる気がない”のライン、超えてないか……?」




しばらくして、上の階からくたびれた男が降りてきた。


「……俺が支部長のオニックだ。Bランク昇格審査だな。……ふむ、戦闘評価は基準値越え、依頼達成率は……100%か。うん、問題ない。よし、昇格」


「嬉しいけど、いいのかそれで……」


「そこのちっこい嬢ちゃんのID登録も許可。……はい、登録完了。以上。解散」


そう言って、オニックはさっさと上の階へ戻ってしまった。


「……じゃあ、追加された依頼、見てみるか」


端末を操作すると、画面いっぱいに依頼リストがあふれ出す。


「なんだこの量……おかしいだろ。しかも、ほとんどが違法海賊の討伐って……」


「昇格おめでとうございます……ぶっちゃけ、稼げないのはCランクまでの話で……」

「Bランクからは、山ほど依頼だけはあるんすよ。受ける人がいないだけで……」


「それで、“稼げる”ってアイカは言ってたのか……Bランクになれなかったらどうするつもりだったんだ?」


俺がぼやくと、受付嬢がおそるおそる尋ねてくる。


「……あの、ほんとに依頼、受けてくれるんすか?」


「まあ、そのために来たんだしな」


俺は苦笑しながら端末に目を戻す。


「とりあえず、違法海賊狩りでも始めるか」


「おー」


俺たちは、ケルベロス・スロットを新たな拠点とし、活動を再開するのだった。

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