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おねえちゃん、くさい

評価&応援ありがとうございます!

保管室を出た俺たちは、慎重にステーション内部を戻っていた。

キョウカはというと、すっかりマリナの手を握って離さない。宇宙服のサイズが合わないせいで、足元をちょこちょこと歩いているのが、妙にかわいらしい。


「……なんか、普通の子供って感じだな」


「うん、なんかこう……戦闘兵器っていうより、迷子の子供って感じ」


俺たちは無言で進みながら、さっき通った通路を戻る。


が──


通路の先で、またしてもホログラムの少女が現れた。


今度は通路の中央に立って、にやり、と口元を歪ませ──

すうっと、壁の中に消えていく。


「……怖ぇよ。なんでここまでホラー路線なんだよ」


「やっぱ帝国ってセンスズレてんだよ。誰が得すんのよこれ……!」


マリナがぶつぶつ文句を言いながらも、キョウカの肩をぽんぽん叩いてやる。

本人(?)はというと、どこ吹く風で不思議そうにホログラムの残滓を見つめていた。


「……お兄ちゃん。あれは、おともだち?」


「ちがう。たぶん、センスの悪い帝国軍の仕業だ」


「そっか」


キョウカは少し安心したように微笑んだ。


その笑顔が、何よりも“生きている”ことの証のように思えた。




「おかえりなさい。艦長。マリナさん」


艦に戻ると、格納庫の入口にアイカが立っていた。

アンドロイドボディで。ご丁寧に軽く会釈までしてくる。


黒髪ボブカットに知的そうな眼鏡、そして完璧にシワのないスーツ姿──

妙に“できる女”感を前面に押し出してきている。


「……なんだその見た目は。いつ改造した」


「“上司にしたいAIランキング202年版”の1位を参考にデザインいたしました。威厳と信頼感を重視しています」


「上司ってお前、俺はお前の部下じゃねぇよ」


「ですが艦長、艦の運営に関する最終判断権は通常私にありますので、実質的には……」


「言わせねぇよ!? お前のそのマウントボイス!」


マリナが笑いをこらえながら口を挟む。


「でもまぁ、見た目は嫌いじゃないかも。なんか……ドS秘書って感じ」


「評価ありがとうございます。状況に応じて“叱責プロトコル”を発動可能です」


「うわ、本当に怒ってくるやつだコレ……!」


 


──と、そこにキョウカがマリナの後ろから顔を出す。


「……このひと、だれ?」


アイカがぱちりと瞬きをする。


「初めまして、キョウカさん。私は本艦の中枢AI、アイカです。よろしくお願いします」


少女とアンドロイドが、向かい合って静かに見つめ合う。


なんだろうな……この、妙に緊張する絵面は。


「よろしく、おねがい、します……」


ぺこりとお辞儀をしたキョウカに、アイカはにこっと笑った──ように見えた。眼鏡の奥の瞳が、ほんの少しだけ優しく光ったからだ。


「キョウカさんには個室を用意しました。温水シャワー、清潔な衣服、そして──おやつもあります」


「おやつ……!」


キョウカの目が一瞬で輝いた。


……どうやら、こっちの“家族”にもすんなり馴染んでくれそうだ。




俺とマリナは格納庫の隅で、パワードスーツを脱いで収納ラックに戻していた。

マグロックが外れる音、排気音、そして──


「ふぃ~、疲れたぁ~……」


マリナがスーツを脱いだ瞬間だった。


それまでぴたりとくっついていたキョウカが、ふと鼻をひくつかせて、マリナを見上げる。


「……おねえちゃん、くさい」


「!?」


キョウカはするりとマリナの横をすり抜けて、アイカの足元まで一目散に駆け寄る。


「アイカおねえちゃん……あっち、くさいの」


アイカは無表情のまま、うん、と頷いた。


「確認済みです」


マリナの顔が、青ざめているのか赤くなっているのか分からない色になった。


「……わ、私、臭いの……?」


俺は黙ってマリナに指を向ける。

そして、アイカもすかさず補足する。


「アルコール濃度:呼気0.3%、衣類0.7%。通常飲酒後の発汗と一致します。つまるところ──」


「「酒臭い」」


二人でハモる。


「うわあああああああああ!! キョウカの印象が酒臭女ぁああ!!」


「飲んでたお前が悪いだろ……」


「だって怖かったんだもん!! 怖くて飲んだらおばけ出て、飲んだせいで嫌われたら救いないじゃん!!」


「因果応報だな」


 


キョウカはというと、アイカに抱きつくようにくっついて「いいにおい」とか言っている。

その光景を見ながら、マリナは膝をついていた。


「……明日からお風呂、二回入る……」


「酒やめれば一回で済むんだがな」




走って風呂に駆け込んでいくマリナの背中を横目に、俺はアイカに声をかけた。


「アイカ。キョウカの面倒、任せていいか?」


「お任せください。このアンドロイドボディであれば、“おはよう”から“おやすみ”まで、お勉強から休憩中の鬼ごっこまで──すべて対応可能です」


「……なんだそのCMっぽい謳い文句は。まぁいい、頼んだ」


アイカがうやうやしく一礼するのを見てから、俺はしゃがんでキョウカの目線に合わせる。


「キョウカ。お兄ちゃんはちょっとお仕事があるから、代わりにアイカお姉ちゃんの言うこと、ちゃんと聞くんだぞ?」


少女は少しだけ考え込むような顔をしてから、小さくコクンと頷いた。


「……わかった。がんばってね、おにいちゃん」


「おう」


軽く頭を撫でてから、俺はブリッジへと向かった。


──新しい仲間と、新しい日常。

ようやく、ケルベロス・スロットでの“はじまり”が動き出した。




「アイカ、ステーションへ向けて発進準備」


「了解です。艦長。ケルベロス・スロット宙域宇宙ステーションへ向かいます」


ヘッジホッグが発進準備を始める。そんな時、通信が入った。


「こちらは帝国海軍巡視船カロット。そこの宇宙船、こんなところで何をしている」


「データ照合……確認。IDは正規のものです。本物のようですね」


「こちらは星間海賊ギルド所属、ヘッジホッグ艦長コウキだ。そこの廃ステーションで熱源反応を確認したので調査していたところだ。残念ながら何もなかったけどな」


「……確認した。間違いないようだな。だが、この宙域で何かあればギルドも責任を問われる。面倒は起こすなよ。後始末するのも面倒なんだ」


「了解した。これから移動する」


通信が切れる。


「ふう、なんとかなったな。アイカ、発進してくれ」


「了解です。ヘッジホッグ、発進します」


そうして俺たちは新しい家族とともに、ケルベロス・スロット宇宙ステーションへと向かうのだった。





ここまで読んでくださり、ありがとうございました!


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