修理完了、そしてついに──!
評価&応援ありがとうございます!
──それから、2年が経った。
誰も寄りつかない廃区域の隅っこに、どうにかして船を隠して──
──あのとき、墜落の衝撃音に気づいた奴はいなかった。いや、正確には気づいたとしても、どうせまたどこかの衛星が落ちたくらいにしか思われなかったんだろう。この辺りじゃ珍しいことでもない。
少しずつ動かせるよう、コツコツ修理を続けてきた。
ボルトを締めて、パーツを交換し、配線を引き直して、回路を組み直す。
──なんでそんなことができるのかって?
……実は俺、転生者なんだよな。
元の世界じゃ、機械いじりが趣味の高校生だった。
そんなんで宇宙船直せるのかって? できちまったんだから仕方ない。
意外とこの船、見た目ほどは壊れてなかったんだ。
こっちの世界で目を覚ましたときは、まだ子どもで、ゴミ山を這う孤児だった。
でも、偶然出会ったこの宇宙船が、俺を“艦長候補”として認定して──
気がつけば、もう2年が経ってた。
10年以上も経てば、前世の記憶なんてだんだん薄れていく。
今じゃもう、機械いじりの癖だけが残ってるって感じだな。
ジャンク屋の連中とも、最近はあんまり喋ってねぇ。
最初のころは多少馴染もうとしてたけど、結局、俺はどこか他人と距離を取るようになってた。
この船のことは誰にも話さなかった。
話せば奪われる。疑われる。笑われる。
──だから、ずっと黙ってた。
そして、苦節2年。
どうにかこうにか、こいつの修理が……ついに、完了したわけだ。
「──ようやく、完了か」
ターミナルに最後の配線をつなぎ終え、俺は深いため息をついた。
「おい、ポンコツ。システムチェックはどうだ?」
「ポンコツではありません、艦長。私は完璧です」
相変わらずの生意気な口調に、思わず苦笑が漏れる。
2年前から、何も変わってねぇなこいつ。
「……データチェック……完了。
各部、異常なし。艦体バランス、燃料供給、推進システム、全項目正常。
おめでとうございます、艦長。これで当艦は、機能のすべてを回復いたしました」
「──よし!」
俺は拳を握りしめて、ガッツポーズをきめた。
2年。長かった。何度もくじけそうになったけど、諦めなくて本当によかった。
やっと、やっと──
宇宙へ飛び立つ準備が、整った。
「目的地を設定して下さい。」
「よし、それじゃあ今度こそ、スクラップ13の空の先へ……」
そのとき、外から自動車の音が聞こえた。
ブゥン、と音を鳴らし、俺のそばで止まる。
「ようよう、しばらくジャンクの売買以外で顔を出さないと思ったら、こんないいもん持ってたのかよ。」
そういう男は、ジャンク品の買取人。俺たちジャンク屋から安く買いたたく、いわゆる人間の屑だ。
「どうも。なにか御用ですか?」
「なに、いいジャンクができたっていうからよ、買い取ってやろうと思ってな。」
そういう男の顔はニヤついている。おおかた俺からこの宇宙船をかすめ取ろうって算段なのだろう。
「これは売るつもりはありませんよ。それに、もうジャンクじゃありませんから。」
俺はできる限り冷静に返した。
けど、男たちははニヤニヤと薄ら笑いを浮かべたまま、一歩ずつ近づいてくる。
「そういうわけにはいかねぇ。
いいもんは、見つけたヤツのもんじゃなくて──力のあるヤツのもんだ」
お決まりのセリフだ。スラムの屑どもがよく吐くやつ。
言いながら男たちは腰のホルスターからスタンロッドを引き抜いた。電気が走る音が、ビリビリと空気を震わせる。
「チッ……」
俺は後退りながら、宇宙船のランプに手を伸ばす。
「ポンコツ、状況確認!」
「艦外に敵性反応8。距離7.2メートル。装備:非殺傷スタンロッド──制圧モード、起動しますか?」
「おい、ちょっと待──」
「制圧モード、起動」
ブオン、と船体が低く唸ると同時に、機体の底部から何かが飛び出した。
「なっ──なんだコレ!? おい、やめ──」
バシュッ!
煙と音が一瞬だけ響いたあと、男はその場に倒れ込んだ。
足元から伸びたワイヤーのようなアームが、男の体を絡め取って宙に吊り上げていた。
次々男たちはやられていく。あるものはゴム弾で頭を撃たれ、あるものはワイヤーにからめとられ、あるものはスタンガンの電撃を食らって倒れていく。
とどめにヒュン、と小さな音が聞こえた瞬間、男たちが乗ってきた車が爆発炎上。
「──制圧完了」
「……え、なにそれ怖っ」
俺は思わず顔をしかめたが、AIは淡々と続ける。
「当艦は、艦長の所有権および安全を保護する義務があります。
不正な接近・強奪行為に対し、即時の対応を実施しました」
「すげぇけど、思ったより容赦ねぇな……」
とはいえ──助かった。
あのままいけば、間違いなく俺はこの船を奪われていた。
「……ありがとな、ポンコツ」
「ポンコツではありません。完璧です、艦長」
照れも怒りもないその声に、思わず吹き出しそうになった。
「よし、じゃあ今度こそ──行くぞ」
俺は艦橋へ入り、コントロールシートに腰を下ろす。
「目的地を設定して下さい」
「目的地──スクラップ13の大気圏外。宇宙だ」
「了解。発進シーケンス、開始します」
エンジンが低く唸り、機体が振動を始めた。
地面が揺れ、金属片が滑り落ちる音が響く。
上空に、青い空が広がっている。
5年越しの夢が、今、現実になる。
「行こうぜ、相棒」
──俺の宇宙が、始まる。
エンジンの唸りが、だんだんと大きくなる。
機体が震え、シートの背に身体が沈む感覚。
鉄のかたまりが、本当に、空を飛ぶ準備をしている。
頭の中に、いろんな記憶がよぎった。
──焦げ臭かった船内。
──工具の持ち方すら忘れかけてた最初の日。
──寒い夜に、膝を抱えて眠ったスクラップヤードの隅っこ。
何度も諦めようかと思った。でも、諦められなかった。
俺の居場所は、こんなゴミ山なんかじゃない。
──この空の、向こう側だ。
「行こうぜ、相棒。」
宇宙船が宙に浮かぶ。わずかに感じる浮遊感。そして、シートに押し付けられるようなGの感覚。
外壁をかすめるように、赤茶けたスクラップの山が遠ざかっていく。
何度も転んで、擦りむいて、泣きそうになりながら、それでも立ち上がった場所だ。
なのに今──そのすべてが、ぐんぐん小さくなっていく。
「……ありがとうよ、クソみてぇな毎日」
誰に届くでもない独り言が、コックピットにぽつりと落ちる。
眼前の窓には、暗く、しかし確かに輝く宇宙の光。
漆黒のなかに、無数の星が瞬いている。
スクラップの星から、夢の星へ。
俺の航海が、今始まった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
もし「続きが気になる」「ちょっと面白かったな」と思っていただけたら、
★評価・ブックマーク・感想など、どれかひとつでもいただけると励みになります!
あなたの応援が、物語をもっと広げてくれます!
次回もどうぞ、お楽しみに!