新天地、そして幽霊!?
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ギルドの受付嬢さんが名残惜しそうに頭を下げる。
「そうですか。残念です。新天地でのご活躍をお祈り申し上げます」
ユモトの営業マイさんも、少し寂しげな笑みを浮かべた。
「そのあたりにはユモトの支社はありませんけど……きっとまたどこかで会えます。頑張ってくださいね」
チハラさんにも挨拶しておきたかったが、仕事でこの宙域を離れているとのことだ。仕方ない。
俺は軽く会釈を返すと、通信を切った。
この宙域にはもう用はない。
次の稼ぎ場へ──“ケルベロス・スロット”と呼ばれる新天地へ向かう時が来た。
「じゃ、出発だ。全員、準備はいいな?」
「了解です。目的地、ケルベロス・スロット。ワープゲート起動、カウントダウン開始します」
「へへっ、あたし、スクラップ11から出るのほとんどなかったんだよね~。わくわくするね!」
「浮かれるなよマリナ。油断してると着いた瞬間に撃たれるかもしれんぞ」
「え、怖ッ!? やめてそういうフラグ立てるの!」
アイカの声が船内に響いた。
「ワープ、開始します。注意:慣れていない乗員は座席ベルトを締めてください。あとマリナさん、お酒を手放してください」
「え~、もう飲んじゃったよ?」
「このアル中め…」
ワープゲートが開かれる。
空間がきゅっと歪んで、視界が一気に引き伸ばされた。
「これが……ワープかぁ。なんか、夢みたい」
流星群の中を突き抜けるような光のトンネルを進み──数十分後、俺たちは再び現実の宇宙に戻った。
「ワープ完了。ケルベロス・スロット宙域に到着しました」
マリナがきょろきょろと窓の外を見渡す。
「ケルベロス・スロットってどんなとこなの?」
「そういや、俺も“稼げる”って理由だけで選んだな。ポンコツ、情報出せ」
「私への発言“ポンコツ”が確認されました。現在、ペナルティポイント4。あと一回で制裁措置を実行します」
「まだその制度使ってたのか……もういいから説明しろ」
「ケルベロス・スロットは銀河帝国の端に位置する開発宙域です。主産業は資源採掘。帝国軍の駐留基地も存在しますが──」
「士気最低、練度も低い。って聞いたぞ」
「その通りです。本宙域は事実上“左遷地”として扱われており、軍規違反や士官の失踪も多発しています。かつては基地ごと賊に寝返ったケースも確認されています」
「……つまり、最低の治安とクズな軍がセットでついてくるってことか」
「よくそんなとこ来たね、うちら……」
マリナが不安げに呟いたその瞬間、艦内アラートが鳴った。
「警告。宙域内にエネルギー反応あり。旧式の廃ステーションを探知。構造は不明ですが、生命反応は──現在なし。だが、微弱な信号が断続的に発信されています」
「エネルギー反応? 誰か残ってるのか?」
「もしくは、自動システムが稼働し続けている可能性があります。……接近しますか?」
俺は一拍おいて、モニターに映る古びたステーションを見つめる。
錆びついた外壁、崩れたアンテナ、ガラスの割れた観測ドーム。まるで──幽霊屋敷だ。
「確認だけするぞ。突入はしない。マリナ、臨戦態勢。アイカ、ドローン展開しろ」
「おばけ出ても責任とらないからね~……」
「おばけの前に、地雷とかウイルスの方がリアルだ。気を抜くな」
──こうして、俺たちは新たな戦場へと足を踏み入れる。
“稼げる”の裏には、必ず“ヤバい”がある。
それがケルベロス・スロットという場所だった。
『……ユウセ……イジョ……キョウ……』
「なんだ?ノイズか?」
「不明です。ですが制御ブロックから微弱な信号が検出されております」
ドローンがゆっくりと、錆びついた隔壁の裂け目から内部へと滑り込んでいく。
「映像、出したぞ。こっちにリンク」
モニターに映ったのは、崩れた廊下、宙を漂う配線くず、そして赤黒く焦げた壁。
「……これ、戦闘の痕跡?」
「熱破損痕あり。高熱プラズマ兵器による損傷と推測されます。内部空調は停止、疑似重力制御も死んでいます。ですが──」
「ですが?」
「……わずかに、作動している端末があります。中央制御ブロックの旧式AIユニットと、非常電源が稼働中です」
マリナが椅子から身を乗り出す。
「AI? じゃあ喋れる系?」
「まだ不明だ。ただ、さっきのノイズ……」
アイカが再度、音声ログを再生する。
『……ユウセン……カイジョ……キョウカ……セ……』
「キョウカ……? 名前? それともコード?」
「帝国標準語で“強化”あるいは“強化個体”の略語とも取れます。実験施設だった可能性も」
「うげ、なんか嫌な響き」
ドローンが中央制御室に到達する。
そこは比較的無傷で、中央の主制御パネルには帝国の古いエンブレムがうっすら残っていた。
「うわ……ボタンも画面も全部アナログ。昭和の電卓かよ」
「その“昭和”とは?」
「……いや、地球の話だ。いいから続けろ」
「了解。AIコアに接続試行──」
次の瞬間、画面が一瞬ノイズに包まれ、警告が飛んできた。
「ウイルス検知。通信層に異常パケットあり。強制遮断します」
「おっと!? ワナだったか!?」
「いえ、自己修復を試みた旧式AIの暴走信号と推測されます。害はありませんが、正常対話は困難です」
マリナが腕を組んでうなる。
「じゃあ、コア自体は生きてるけど、もうポンコツってこと?」
「“ポンコツ”という表現は、AI差別に該当する可能性が──」
「やかましいわ!!」
「……廃ステーションのAIが壊れてるのは分かった。でも、なんで非常電源だけ生きてんだ? 普通なら全部落ちてるだろ」
「可能性は三つ。一、誰かが意図的に残した。二、再起動が最近行われた。三──内部に“まだ誰かがいる”」
沈黙が落ちる。
「……誰かが“いる”?」
「生命反応は検出されません。ただし、電磁的反応は継続中。おそらくは……何か、残っています」
俺は無意識に背筋を正した。
「アイカ。艦を少し後退させて、ステーションとのリンクは遮断しろ。マリナ、戦闘装備をチェック。お前と俺で現地入りする」
「え? 突っ込むの? お化け出るよ!?」
「生きてるか死んでるか知らんが、今のうちに確認しとく。下手に放置して、背後から襲われたら面倒だ」
「くっそー……ヘッジホッグ快適生活、早くも終了かぁ~……」
──廃ステーション調査、決定。
次なる一歩は、“過去”の亡霊との邂逅か、あるいは──何かもっと、厄介な“残骸”との出会いになるのかもしれない。
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