“プリンセス納屋”改め“ヘッジホッグ”、最初の咆哮
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怒涛の改装地獄に、俺はもう疲れ果てていた。
「もう、何もないよな?」
「はい。“プリンセス納屋(仮)”、改装完了です。お疲れさまでした。艦長」
「疲れさせたのお前たちだよな! おい!」
「えへへ~、でもでも、超快適になったよねっ?」
マリナが得意げにソファでくつろぎながら、冷えたパック酒を片手に笑っている。
「艦長、CPUの発熱は問題ありませんでした。室温はわずかに上昇しましたが、ジェットバスの湯温と調整済みです」
「そんな連動システム誰が頼んだ! お前ほんとにAIか!?」
「私は高性能AIです。ラウンジ業務にも対応しています。カラオケ、マッサージ、占い等のサブ機能もございます」
「戦艦とは……???」
マリナとポンコツAIがくつろぐ中、俺だけが疲弊している。
おかしい。これは俺の艦のはずなのに。
「……もう、依頼受けよう。働いてる方がマシだ……」
「え~? せっかく艦が快適になったのに~」
「仕事するぞ! 出撃準備!」
「は~い、出撃モード! あっ、でもカクテル飲んでからね~♪」
「酒下げろ!一回、全員落ち着け!」
──こうして、“プリンセス納屋(仮)”は、未だスナック寄りの母艦のまま、再び宇宙へ旅立つのだった。
「武装はちゃんとつけてあるんだよな? 忘れてたは通らないぞ?」
「問題ありません。高出力レーザー砲8門、機関銃座2門、ミサイルターレット10門、新型レールキャノンを4門を装備しております。脳波コントロールシステムも搭載済みです」
「……ハリネズミか何かか?」
「この改装により、戦艦とも直接やり合える火力を実現しました。理論上は、単騎で敵艦隊への突入も可能です」
「理論上は、な……」
「なお、艦内各所にはシールド自動展開装置を設置済み。酒瓶や家具を破損から守ります」
「そっち優先すんな!!!」
マリナが嬉しそうにソファで伸びをする。
「いいじゃんいいじゃん、うちの“納屋”最強説じゃん~!」
「プリンセス納屋、な……名前に似合わねぇんだよ火力が!!」
「でもそれがいいんでしょ~? 外見倉庫、中身バケモン。ギャップって大事だよねっ☆」
「どこの乙女ゲーだよここは……」
──とはいえ、性能は確かだ。
スナックもホログラムもミサイルも全部乗せ。
俺たちのプリンセス納屋は、今日も爆走準備万端である。
「というか、プリンセス納屋でいいのか? そろそろ正式に名前、決めたいんだけど」
「じゃあ、プリンセス・マリナ!」
「俺の艦だぞ。却下だ」
「では、“アイカ・Mk-III”でどうでしょうか」
「だから俺の艦だってんだろ! 却下!!」
「じゃあもう、コウキがさっさと決めてよ~」
「艦長、艦名命名はギルド登録に必要です。早急に申請を」
「うるせえな……じゃあ、“ヘッジホッグ”で」
「どういう意味?」
「地球で“ハリネズミ”って意味だよ。装備モリモリのうちの艦にちょうどいいだろ」
「地球とか、ずいぶんマニアックな惑星知ってるね。もしかして……オタク?」
「うっせーよ。艦長命令。この艦は“ヘッジホッグ”で決定だ。終了」
依頼を受けて近隣宙域に来たんだが、ナニこれ?
「なぁ、俺受けたの近隣宙域の違法海賊探索と排除だよな?この辺りほとんど狩りつくしたから歩合制の、残党いなかったら赤字になるやつ」
「そうですが」
「そうですが、じゃねぇんだよ!なんだよこの反応の多さはよ!」
「熱源反応51、距離20000、データ識別……違法海賊船団、ジャンカーラビットと認定。敵艦です」
「あはは~。凄い数だね。こりゃ」
「笑ってんじゃねーよ!どうすんだこの数!」
「問題ありません。この距離ではまだ敵艦はこちらを把握しておりません。サーバールームを増設したかいがありました」
「大ありだよ畜生!マジでどうすんだ!?」
「問題ありません。こちらからの先制攻撃で7割排除できる計算です。もし近づかれたとしてもヘッジホッグの装甲であれば対処可能です」
こうなったら腹をくくるしかないか。
「よし、先制攻撃だ。アイカ、脳波コントロールシステム作動!砲門開け!」
視界が広がる。艦のすべてが俺の頭の中に入ってくる。
「つっ」
「どうかしましたか、艦長」
「ちょっと頭痛がしただけだ。問題ない」
「艦が大型化したことで脳の処理が追いついていないのでしょう。無理をなさらず」
「大丈夫だ。レーザー準備」
「了解。主砲レーザー、発射準備完了。ミサイルターレット、全開放。」
「マリナ、ハイペリオンでサポート頼む!」
「任せて!敵を分断して叩き潰す!」
轟音と共に、ヘッジホッグの高出力レーザー砲が夜空を切り裂き、敵艦のシールドが一斉に閃光を放っては消える。
「敵反応、6割減。残存艦は混乱状態だ。ミサイル集中砲火、続け!」
敵の砲撃が迫るが、重厚な装甲がビリビリと振動を伝えるだけで被弾をものともせず。
「まだまだ!迎撃態勢を崩すな!」
マリナの鋭い指示と、アイカの完璧な戦闘支援により、ヘッジホッグは宙域を縦横無尽に動きながら敵を圧倒。
「敵旗艦、前方25キロ。シールド依然健在。」
「全砲門一斉射撃!目標撃破!」
レーザーとミサイルが旗艦を一斉に襲い、シールドがついに崩壊。
「衝撃波、発生!」
旗艦は爆炎に包まれて爆散し、残存の敵艦も混乱し一斉に後退。
「敵艦隊壊滅。戦闘終了。全艦生存率100%。」
「やったな、これがヘッジホッグの力だ。」
「しかしなんでこんなとこにあんな数がいたんだ?」
「この宙域の違法海賊がいなくなったので、空いたシマを横取りに来たのでしょう。結果はご覧の通りですが」
「一網打尽……ってわけだな」
「でも逆に言えば、今後も似たような連中が来るってことじゃない?」
「その通りです。シマを空けたままにすれば、また別のゴミが湧いてくる可能性があります」
「じゃあいっそ、うちらで“ここ”を管理しちゃう? いわゆる、縄張り化ってやつ?」
「俺はそこまでする気はないぞ。そもそも稼ぎが悪くなってきたから別の宙域へって話だったじゃないか。後は自警団にでも任せとけ」
「でもさー、あの人たちじゃ無理でしょ? あっち、こっち、戦える艦もろくにないし」
「それはそれ。うちはもう十分やっただろ」
「……まぁ、たしかに。それもそうか」
マリナが肩をすくめ、俺は操縦席にもたれて大きく息をつく。
「じゃあ、次の宙域に行く準備をしよう。補給して、整備して──あと酒は控えろ」
「むー。じゃあ、冷凍庫もう一台増やしてもいい?」
「だめだ」
──こうして俺たちは、次の“稼げる戦場”を目指して、また宇宙を流れる。
“ヘッジホッグ”とともに。
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