さらば棺桶ルーム、こんにちはプリンセス納屋(仮)
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スクラップ11を拠点として、それなりの時間がたった。俺の名前もそれなりに知られ始め、指名依頼、なんてのも来るようになった。……のだが。
「最近稼ぎ悪くなってないか?」
「肯定です。この近辺の違法海賊は、ほぼ討伐済み。それに伴い、収入も減少傾向にあります」
「マジか~……。ちょっと、順調すぎたか?」
戦えば名が上がる。倒せば金が入る。
そんな単純で、気持ちのいい日々は、どうやらもう終わった。
スクラップ11のギルド支部。
カウンター越しに、例の受付嬢が端末を叩いている。
「……うーん、このへんの依頼、マジで渋いな」
「はい。違法組織の活動が低下しており、報酬ランクも相応に低下傾向です」
「言い換えれば、俺が優秀すぎたってことか?」
「言い換えずとも、艦長の功績は実績に反映されています」
「うん、素直に褒められると照れるな……って、それで次どこ行きゃいいんだよ?」
そんな会話をしていると、横で待っていたマリナが不満げに口を開く。
「てかさー、次の宙域もいいけど、その前にさー……」
「ん?」
「まともな部屋欲しい」
「はい?」
「もうね、棺桶ルーム、ムリ。天井低いし工具刺さるし、寝返り打つたび肘が鉄骨にガンッてなるし」
「それ、お前が勝手に酔っ払って寝相悪いだけじゃ……」
「わたしは! 人間らしい生活がしたいの! 風呂とベッドとミニ冷蔵庫と──あと、冷凍庫! 絶対冷凍庫! パック酒冷やしたい!」
「……お前、酒しか考えてないだろ」
「それはそれ、これはこれ!」
「もうどうにでもなれよ……」
そういってマリナはカタログを俺に突きつける。
「ちなみに、これユモト社が最近出した新型艦。発艦機能搭載型だから、今の艦も載せられるし、居住性もすごいんだってさ~!」
「ね、見に行こ!ほら、ねぇ、見に行こ!見るだけだから!」
「いや、見るだけって言って、絶対買わされるパターンじゃ……」
「だいじょーぶだいじょーぶ。見るだけ見るだけ♪」
──こうして俺たちは、また無駄に高そうな買い物リストを片手に、ユモト社の展示ブースへ向かうことになった。
「ようこそ。ユモトインダストリー商品展示ブースへお越しくださいまして、ありがとうございます。コウキ様ですね。いつもお世話になっております」
銀髪ロングのスレンダーな女性が、丁寧に頭を下げた。
「私は営業担当のマイと申します。本日はどうぞよろしくお願いいたします」
「こちらこそお世話になってます。今日は今の艦が搭載できて、居住性の良い艦を探しに来たんですけど、何かあります?」
「それでしたら、これなんかおすすめです。二世代前の機体なんですが、コウキ様の機体でも問題なく積める積載量、輸送任務も行けちゃいます。居住性もばっちりで、それからエネルギー効率は旧型の32%改善、レーダー波長の拡張によって対応宙域が広がり、さらに副次機能として──」
「……ちょ、ちょっと待って!? 早い早い早い!」
マリナが割って入る。俺も正直、3割くらいしか聞き取れてなかった。
「えーと……とりあえず、でっかくて、居心地よくて、今の艦載せられるってことで合ってます?」
「はいっ! あとは武装オプションによって戦闘機能の強化も可能でして、たとえばこのスロットに──」
「ちょ、もう一回ゆっくり! 頼むから一回黙って深呼吸して!?」
女性スタッフは一瞬、ぽかんとした顔をして──次の瞬間、はっとしたように頬を赤らめた。
「あっ……失礼いたしました。つい、説明に熱が入りすぎて……」
「いや、説明じゃなくてマシンガンだったよ……」
マリナが呆れながらも目を輝かせる。
「でもさ、積めるってことは、わたし用の部屋も作れるよね!? 壁ピンクにして、冷蔵庫二台置いて、ふかふかソファも──」
「それ、お前の部屋だけグレード跳ね上がってないか?」
「だって! もう棺桶ルームはごめんなんだもん!」
「はい、その点もカスタムルーム対応で自由に内装可能となっております。ちなみに──」
「すみません! ちょっとだけ、また黙ってもらっていいですか!?!?」
「……あっ、申し訳ございません」
マリナが俺の腕をぐいっと引っ張る。
「見よ見よ! もう見ようよ! 中! ねぇ、展示モデルとかあるんでしょ?」
「あるにはあるけど、値段次第だろ……どれくらいなんだ?」
「はい、標準装備状態で──三百五十万クレジットです」
「………………」
「………………」
「はい、帰ろっか」
「えええええええええ!?!?」
マリナの叫びが、展示ブースの天井に虚しく響いた。
「ちょっと待って、ちょっと待ってよ。ねぇ、もうちょっと安いのない?あるでしょ!?」
「えぇっとですね、一応、同時期に開発されたもので、似たようなものはあるのですが……」
「ですが?何か問題が?」
「可愛くないのです」
「……別に艦に可愛さは求めていないんだけど」
「でも、こちらをご覧ください」
そう言って彼女が指差した先にあるのは──
なんかこう、重厚で、ずんぐりしてて、見た目が完全に“倉庫”。
「……うわ、なにこれ」
「名前は《ロジスティクス・シリーズ改F型》。現場整備士からは“鉄の納屋”と呼ばれております。頑丈さと拡張性は抜群です」
「えっ、なにこれ逆にアリかも。なんか……こう、無骨で、男のロマンって感じするじゃん?」
「やだ! わたしこんなの絶対いや!!」
マリナが即拒絶。
「居住性はある意味完璧です。中はほぼ空間。何でも入ります。風呂もキッチンもホログラムジムも置けます」
「だからってこれで宇宙飛ぶの? ぜったい変な目で見られるでしょ!? あっ、しかも名前!名前がやばい! ロジスティクスって!!」
「では──名前を変えるのはいかがでしょう。例えば“プリンセス・メリー2”とか」
「えっちょっと待ってそれはそれで恥ずかしいんだけど!?」
俺は黙って、両方の艦のスペック表を見比べていた。
こっちは高性能だけど高すぎる。
こっちはダサいけど安くて広い。
「……なあ、ぶっちゃけこれ、改装すれば見た目もどうにかなるんじゃないの?」
「改装というか、塗装を変えるだけで印象はかなり変わります」
「でしょ? マリナ、外見はあとでどうにかなるって。中が快適ならそれでいいだろ?」
「う~~~~ん……」
「ほら、“プリンセス納屋”って名前にでもしてやるから」
「やだやだやだやだやだ!!」
マリナが床に転がって抗議ポーズをとる横で、スタッフのお姉さんはにっこり笑って言った。
「なお、今ならこの“プリンセス納屋”、在庫処分価格で通常の半額。さらに初期改装プランつきです」
「……それ、最初に言えよ……」
「では、ご購入でよろしいですか?」
「えっ、買うの!? マジで買うの!?」
──こうして、俺たちの新しい艦──“プリンセス納屋(仮)”が決まった。
次回、改装地獄の幕開けである。
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