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実戦投入、ポンコツとアル中

評価&応援ありがとうございます!

俺はスクラップ11から程よく離れた宙域、ダストベルトZ9に艦を進めていた。

ユモト社の新装備、小型レールキャノン。その実戦データを集めるため、

適当に違法海賊でもしばくかという流れになった。というか、させられた。


「にしても、この辺に本当に違法海賊なんているか? この前、小隊潰したばっかだけど」


「それだけでいなくなるわけないじゃん。あいつら、雨後の筍みたいにポコポコ湧くよ?

 むしろ潰したあとが一番チャンスって顔して寄ってくるタイプ~」


「先日の艦隊は小隊規模。むしろ“撒き餌”にすらなりません。

 この宙域を根城とする違法海賊が撤退する可能性は、統計的に見ても極めて低いです」


「……はいはい、ポンコツAIのくせに理屈だけはご立派だな」


「“ポンコツ”は名誉毀損に該当します。ペナルティポイント、現在3です。あと2回で制裁措置を行います」


「うわ、めんどくさっ……」




俺たちがダストベルトZ9に進入して十数分。

不規則なデブリの海を慎重に航行しながら、俺はレーダーとにらめっこしていた。


「……なあ、これ本当に反応ないんだけど」


「ふふん、そうやって油断してるとね~、後ろからドカンだよ?

 宇宙ってのは、敵よりデブリと油断が怖いのさ~」


操縦桿を握るマリナが、妙に楽しそうに言った。

酒は抜けてるはずだが、妙にハイテンションなのはいつものことだ。


「地味にうるさい。静かにしてくれ」


「黙っててください。無駄なおしゃべりは判断力を鈍らせます」


「うわ、なにこれ、ダブルでツッコミきたんだけど。ねえ艦長、どっちか静かにさせてよ」


「両方だよ」


 


──その時だった。


「……来ました。艦長、船体後方左舷四〇度、遠距離スキャンに反応。

 熱源六、うち推定艦艇サイズ三、ミサイルポッド搭載型です」


アイカの声に空気が引き締まる。


「違法海賊、か?」


「確度85%。宙域ログに未登録の軍用艦シルエットあり。“バラして売る”目的で密造された艦艇と推測します」


「出たわね、ザコども! さぁて、新装備のお披露目タイムといこうじゃないの!」


マリナが操縦桿を握り直し、アイカのナビゲートと共に機体を旋回させる。


 


「艦長、指示を」


「交戦許可。なるべく船体損傷を避けて、レールキャノンと支援兵装で制圧。

 ──ただし、無理はすんな。マリナ、わかってるな?」


「はいは~い、了解であります、艦長さま~♪」


言ってる口調は軽いが、操作は確かだった。

マリナの手が、コンソールをなめらかに滑る。

レールキャノンが標準チャージに入ったのを確認しながら、俺は背もたれに体を預けた。


「ターゲットロック……第一波、三機、うち一機は砲撃タイプ……距離、4000」


「近いな」


「こっちに気づいたか、陣形が割れた。砲撃機が後退、突撃型が前に──」


「さて、誰から撃ち落とそうかしら♪」


 


──マリナの指先がトリガーを引いた。


 


ズガァンッ!


小型レールキャノンが放った高速弾が、先頭を飛ぶ突撃型の艦を真横から撃ち抜く。

防御フィールドを貫通し、機関部に直撃。火花を上げながら、そいつは無様に回転し──爆散した。


「っしゃあ! 一撃で沈んだ! このレールキャノン、やっば! 気持ちいい!」


「調子に乗らないでください。残り二機、こちらを包囲しつつあります。マリナさん、迂回回避を」


「やーだ。回避より迎撃! 撃てば勝つ! でしょ?」


「否定。避けてから撃つ。これが“AI標準戦術”です。非合理な接近戦は推奨できません」


「AIってほんっとつまんないこと言うよねー!!」


 


──俺は、通信が盛り上がっていくのを聞きながら、思った。


この艦、静かになる日は……たぶん、こない。


 


──そして次の瞬間。

戦闘宙域の闇に、赤い警告アラートが鳴り響いた。


「艦長! 増援機反応あり! 後方セクターから6機、こっちに向かってきます!」


「なにっ……?!」


「よっしゃ、追加オーダー来ました! 全機ぶっ飛ばしてやろーじゃん!」


「やっぱり静かにならねぇぇぇ!!」


 


──戦闘は、ここからが本番だった。



「来るぞ……!」


俺の言葉と同時に、増援機のうち先頭の2機がダストベルトZ9のガス層を抜けて姿を現した。

スラスタ痕と船体塗装からして、ローカル違法海賊団フレアフィッシュの残党か。


「ユモト社の人、いい素材くれてありがとー! 本気出しちゃうよ〜!」


テンションMAXのマリナが操縦桿を握り締める。


「接近角35度。高速機2、火力支援型4……このままだと包囲されます、早期回避を提案します」


「うっさいな〜、こっちは今、ゾーン入ってんの!」


「貴女の“ゾーン”は信用スコア的に赤点領域です。現実を見てください」


「おーしわかった、なら見せてやんよ。AIでもヒヤッとする“人間の本気”ってやつをね!」


 


──言って、マリナは操縦桿をスライドさせ、急旋回に入った。


「マリナ、何やって──」


「ふっふっふ、ヒューズキャンセルからのブースト旋回! G耐性? 根性でなんとかするッ!」


「やめてええええぇぇ!!」


俺の絶叫もむなしく、艦が横滑りしながら斜め回頭。レールキャノンの砲口が正面の高速機にピタリと合う。


「食らいなさい、“気合いの一撃”っ!」


ズドォン!!


発射されたレールキャノンが、回避機動を仕掛けた海賊機を先読みして吹き飛ばした。


 


「っはーーー! 気持ちいいぃぃ! 人間ナメんなよ、AI!」


「……命中率の計算が意味をなさない動き方……非常識です。非常識ですが──」


アイカが一拍おいて、言葉を継いだ。


「──効果は、確認されました」


「でしょ~!? ほら、ちょっとは見直したでしょ?」


「見直しました。予測不能という意味で」


「ぬあぁああ〜〜それ褒めてる!?」


 


通信の喧騒の中、残りの海賊機が突撃してくる。

支援型が牽制弾をバラ撒き、高速機が艦の死角へと入り込もうとする。


「後ろ取られるぞ!」


「対応します。カウンタートラップ展開──コウキ艦長、後部デッキ開放許可を」


「許可。全部ぶちまけていい!」


「了解。バーストモード、起動」


 


艦尾から展開されたトラップユニットが、海賊機の進路上に電磁弾をばら撒く。

それを回避しようとした敵機が僅かにコースをズラした瞬間──


 


「マリナさん、今です。角度87、速度マイナス3、撃て」


「っしゃ、ありがとアイカ! ──てぇい!!」


バシュンッ!


レールキャノンの収束弾が、ちょうど電磁干渉に引っかかった敵機のコックピットに直撃。

光が弾け、通信ノイズが一瞬走ったのち、撃破音が響いた。


 


「っしゃあ、三機目撃破ァ!」


「ふむ……意外と役に立つのですね、アルコール入り人間」


「だからその言い方やめろっての!」


 


その後も数分間の交戦を経て、残りの海賊機は逃走に移った。


「艦長、敵影の離脱を確認。これにて戦闘終了です」


「ふぅ……損害無しで勝てたのは、上出来ってとこか」


「でしょでしょ? これが人類の底力ってやつさ〜」


「あなた一人が人類代表みたいな顔しないでください」


「うぐっ……言い返せねぇ……」


 


──戦闘は終わった。けれど、俺の頭痛はまだ終わらない。


「これ、あと何週間続くんだ……」


「三週間です。延長オプションは無効化申請済みです。安心してください」


「ちょっとぉ!? 私、追い出されるの!? こんなに頑張ったのに!? ほら見てよこの汗、涙、努力の結晶!」


「酒臭さが全部打ち消してます」


「アイカてめぇ~~~!!」


 


──今日もハイペリオンはにぎやかだ。

たぶん明日も、その次の日も。

少なくとも三週間は、この二人の小競り合いが、宇宙に響き続けるだろう。


そして俺は──その中心で、頭を抱えることになる。たぶん。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!


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次回もどうぞ、お楽しみに!

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