宇宙船、墜ちてきた
夢でSFコメディーを書くのですとのお告げがあったので投稿します。
評価&応援ありがとうございます!
俺の名前はコウキ。
年齢、17歳。職業、ジャンク屋。
ここは惑星《スクラップ13》。銀河の果て、地図にもロクに載ってないようなクズ星だ。
一応テラフォーミングされて人が住めるようにはなってるけど──
資源はスッカラカン、空気は鉄臭く、景観は錆と煙。観光名所?笑わせんな。
そんな惑星に、俺は生まれた。いや、気がついたらここにいた。
孤児として。
俺は確か自衛隊の航空祭で編隊飛行を見ていて、空から何か落ちてきて……あ、死んでたわ俺。
……気づいたら子供になってて、ジャンクの山に埋もれてた。つまり、異世界転生ってやつらしい。
そこから必死にジャンク漁りに精を出し、なんとか食いつないでいた。
それから10年。今では立派なジャンク屋だ。
学校?行ったことねえよ。行けるわけねえだろ、金がねえんだから。
食うのに必死な連中ばかりのこの街で、ジャンク漁りは貴重な仕事だ。
古代文明のガラクタ、使えそうなエネルギー残骸、壊れかけのロボット──
拾って、売って、食いつなぐ。
だけど、あの日。
あの巨大な“残骸”を見つけた日から、俺の運命は回り始めた。
宇宙へ出るなんて、夢にも思ってなかった。
でも──
「ようこそ、艦長候補。船の起動を確認。再起動プロトコルを開始します」
……AIの声が聞こえた瞬間、俺の人生は、完全にぶっ壊れた。
あれは、いつものことだった。
ジャンクの山から使えそうな部品を引っ張りあげては、荷台に投げ込む。
ケーブルの切れ端、腐食しかけたバッテリー、もしかしたら再起動できそうな端末──。
そんなもんを拾っては売って、飯代に変える。それが俺たちジャンク屋の日常だ。
その日も、ひーこら言いながら金属の山をかき分けてた。
すると──空が、鳴った。
「──うおっ⁉」
目の前に、ものすごい速度で火の玉が落ちてきた。いや、火の玉なんて生ぬるい。あれはまさしく、宇宙船の墜落だった。
衝撃音。振動。金属の地面が跳ね上がり、粉塵が視界を覆う。
少し離れたところに、黒焦げの煙を上げる機影。
徐々に風が吹き抜けて──姿を現したソレは、でかくて、鋭くて、痺れるほど格好良かった。
プライベート機。
戦艦でも輸送船でもない、少人数での高速航行を想定された個人所有艦。
スマートな流線型の船体に、可動式の小型砲塔。
傷だらけでボロボロなはずなのに、その姿には何とも言えない威圧感と美しさがあった。
「……なんだよこれ。マジもんじゃねぇか」
そのときの俺は、まだ知らなかった。
それが“ただの残骸”なんかじゃなく、未来を変える鍵だってことを。
「とりあえず──中、見てみるか」
思わずそう呟いて、俺は宇宙船の側面へと回り込んだ。
扉は変形して歪んでたが、そこらに転がってた鉄パイプを差し込んで、ぐいっと力を入れる。ギギィィッという金属音とともに、なんとか隙間ができた。
焦げ臭い。
中からは、何とも言えない匂いが漂ってくる。
機械油と、焼け焦げたケーブルの臭い、そして──消火剤。火災があったのは間違いない。
慎重に足を踏み入れると、内部は思ったより広かった。通路が伸びていて、照明はほとんど死んでる。緊急灯がチカチカと点滅していて、それがかえって不気味だった。
……妙に、静かすぎる。
誰もいない。
というか、生きてる気配がしない。
「……まさか、全員死んでるとか……?」
心の中で呟きながら、ゆっくりと船内を歩いていく。
床には微かな焦げ跡と、何かの破片。ターミナルはショートしていて使い物になりそうもない。
──でも、売れそうだ。
この船そのものが売り物だ。たぶん、とんでもない額になる。
最低でも、10年は働かずに食っていけるんじゃねぇか?
そんなくだらない妄想に耽りながら歩いていくと、目の前に自動ドアが現れた。
『艦橋』と刻印されている。
「……ここが、船の心臓部か」
胸が高鳴るのを感じながら、俺はドアのパネルに手をかけた。
「侵入者、確認」
艦橋に足を踏み入れた瞬間、不意に電子音混じりの声が響いた。
空っぽだった空間に、声だけが浮かび上がるように響く。
「うわっ⁉ だ、誰かいるのか!?」
返事の代わりに、無機質な合成音。
「生体スキャン開始──……完了。
エラー。対象個体の識別データが存在しません。
データリンク接続……エラー。
データ異常の修正プロトコルを実行中……完了」
「なんか、めちゃくちゃ言ってんな……」
すると、機械音が一段落し──
「──ようこそ、艦長候補。船の起動を確認。
再起動プロトコルを開始します」
「……は?」
思わずあきれ声を漏らす。
けどAIの方は止まらない。まるで当然のように、次の処理へ進んでいく。
「再起動……完了。
本艦は、ただいまよりあなたの指揮下に入ります。
ようこそ、艦長候補」
「……は?」
ぽかんと口を開けた俺に、照明が順に灯り、艦橋の各コンソールが青く点滅を始めた。
まるで──
本当に、俺を艦長として迎え入れてるみたいに。
「艦長? えっと……俺が?」
「はい、いいえ。あなたは艦長“候補”として認定されました」
「候補ってなによ……いや、いやいや無理だろ! てか持ち主とかいんだろ、この船!」
「艦籍登録データ、破損。所有者データ、喪失。
本艦は現在、無人状態と判断されています。
そのため、最初に艦橋へ到達した個体を艦長候補として仮認定しました」
「そんな適当な……! 俺、ただのジャンク屋だぞ!?」
「条件確認:完了。……問題ありません。艦長適性試験の最低条件は満たしています」
「うっそだろ……?」
「なお、艦長候補が不適格である場合、再起動プロトコルは自動キャンセルとなります」
「えっ、じゃあ──」
「プロトコルはすでに完了しています。
ようこそ、艦長。あなたの指揮をお待ちしております」
「ちょっと待て待て待て、話聞いてた!? 俺、ただのジャンク屋だぞ!?」
「確認済みです。
──しかし、艦長には“夢を追い、自由を求める者”であることが求められます。
その点、あなたは非常に高い適性を示しました」
「……いや、なんだその採用基準。超ゆるくない?」
「それに俺、操縦とかできないからな? 宇宙船なんて運転したことないぞ?」
「問題ありません。当艦はAIによる完全自立型オペレーションと、脳波コントロールが可能です。
──なお、あなたの脳波パターンはすでに艦内ネットワークに同期済みです」
「は? ちょっと待て、勝手に俺の脳読んでんの!?」
「はい。艦橋入室時点で接続は完了しました。異常はありません。
むしろ驚異的な反応速度です。極めて高精度の指揮が可能です、艦長」
「……それマジで言ってる? 俺、昨日までただのジャンク屋だったんだけど?」
「適性は生まれながらにして備わっているものです」
「いやいや、それだけでいきなり操縦できるの?」
「ご安心ください。“意識”を向けるだけで操作可能です。
直感的な操作感は、多くのテストユーザーに好評でした」
「好評って誰のだよ……」
「当艦の試験ユーザー99名中、94名が“楽しい”と回答しています」
「その残り5人は?」
「全員、爆発四散しました」
「軽く言うな!!」
「航行、戦闘、遊覧──すべてお任せいただければ、安全な船旅をお約束します」
「うん。でもさ、お前……さっき墜落してたよな?」
「……データ検索中……該当の記録は存在しません」
「いやいや、俺の目の前で派手に落ちてきたんだけど。思いっきり火を吹きながら」
「おそらく、外的要因によるものです。つまり不可抗力。よって、当AIに過失はありません」
「なるほどね。で、記録もないと。つまり──」
「完璧です」
「……ポンコツだな、お前」
「AIにそのような感情的レッテルを貼るのは非論理的です。訂正を要求します、艦長」
「やだよ。絶対ポンコツじゃん」
「出発準備完了。目的地を指定してください」
突然、艦橋に表示される星図と機械音。
「目的地、ねぇ……」
俺は少しだけ考えて、それからニヤッと笑った。
「じゃあ、とりあえず──宇宙に上がってみるか?」
「目的地、スクラップ13大気圏外。了解しました」
船体が低く唸り、何かが動き出す音がした──と思った、次の瞬間。
「……エラー。
機器損壊のため航行できません。
修理プロトコルを実行してください」
「おい!! 結局動かねぇのかよ!!」
思わず叫ぶ俺に、AIがきれいな声で言い放った。
「航行システムの40%が破損しています。
ただちに修復作業を開始してください、艦長」
「やっぱりポンコツじゃねーかお前!!!」
叫び声が艦橋にこだました。
けど……なぜか心は少しだけ、ワクワクしてた。
宇宙なんて遠い夢だと思ってたけど──
今はその入口に、俺は立っている。
俺の物語は、ここから始まる。
「俺はずっと、ここから抜け出したかった」
「誰にも期待されなかった。だったら自分で、自分を拾い上げるしかない」
「ずっと我慢してた。夢なんて見ても意味ないって。でも──違ったんだ」
銀河のド底辺から──この船で、俺は宇宙を駆け上がってやる。
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