表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
焔は語り継がれる  作者: 華詩手
語り部編
8/26

正義の名のもとに

 夜の街に、黒い影が走った。


 それは風でも獣でもない。

 王国が誇る“影の刃”――《聖環騎士団》の部隊だった。


 彼らの任務はただひとつ。


 「“火”を撒く者を、静かに、確実に“消す”こと」


 


 その日、紙を貼っていた協力者の少年が広場で拘束された。

 翌日には、記録を読んでいた書店が“反教的文書の所持”で焼かれた。


 そして三日目――


 ミィナたちの潜伏先である地下庫にも、ついに《彼ら》の手が届く。


 


「ミィナ様!」


 見張りの魔族少年が駆け込む。顔は青ざめていた。


「外に、白鎧が四名! ……“やつら”です、間違いありません!」


「来たわね……」


 ミィナは静かに立ち上がる。


「記録を焼きに来たのよ。私たちの“声”を潰すために」


 


 セドリックが剣を抜く。


「どうする? 逃げるか? まだ……地下水路を抜ければ――」


「いいえ」


 ミィナは首を振る。目が燃えていた。


「ここで逃げたら、次の“声”が潰される。……だから私は、戦うわ」


「魔として?」


「違う。“名もない人間”として。……“理不尽に沈められた者”として」


 


 足音が近づく。聖具を携えた白鎧が、無言で地下へと降りてくる。


 ひとりが言った。


「ミィナ・クロスレイン。罪状は、“王国への誹謗”。“勇者の名誉毀損”。そして“魔性の煽動”だ。……おとなしく記録を差し出し、投降しろ」


 


 ミィナは答えた。


「罪状が増えたわね。次は、“火をつけた”ことも加えてくれるかしら?」


 


 そして、踏み出す。


 彼女の掌に、赤い術紋が浮かぶ。

 それは魔王国に伝わる――“民を守る者”に刻まれる〈庇護術式〉。


「私は、“火を灯す”だけ。焼くのは、あなたたちの“偽り”よ」


 


 次の瞬間、地下庫に雷光が走る。


 セドリックの剣が白鎧を弾き、ミィナの火球が天井を貫いた。


 瓦礫が崩れ、聖環騎士のひとりが倒れる。


「こいつら……“ただの残党”じゃない!」


 


 戦いは一瞬だった。


 守人が後方で結界を展開し、記録の保管庫を護る。

 残りの記録と逃走経路を、仲間が託される。


 


 そして――


 ミィナたちは、戦いながら逃げた。


 


 だが、街はもう“静かに抗う者”を許さない。


 


 通報、取り締まり、焚書、尋問。

 “声”が大きくなればなるほど、それを封じる手も強くなる。


 


 今、王国の“正義”が本気になった。


 ――これはただの歴史の話ではない。


 “誰が、誰を黙らせるのか”という戦いだ。


 


 ミィナは、崩れた裏路地の影で振り返った。

 燃え上がる地下教会を見て、ぎり、と歯を噛む。


「ごめんなさい、守人……でも、残せた……!」


 彼女の懐には、小さな巻物。

 そこには、“魔王の名誉”が確かに刻まれていた。


 


「……これが、次の“火”になる」


 


 夜風が吹く。


 今度は、“彼らの声”を乗せて。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ