表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
焔は語り継がれる  作者: 華詩手
語り部編
4/26

森を出る日

 森は静かだった。風が草を撫で、鳥が囁き、遠くで獣が吠えていた。


 けれど、その静寂は“平和”の証ではなかった。

 それは、まるで何かが来るのを待っているかのような――不吉な沈黙。


 


 ミィナ・クロスレインは、森の見張り塔の上で目を閉じていた。

 炎に焼かれた夜から、ちょうど七年。彼女は今、十五歳になっていた。


 かつての怯えた面影はもうない。

 淡い銀の髪を短く刈り、黒衣の戦闘服に身を包んだその姿は、まるで“かつての魔王軍”を再現したかのようだった。


 


「――来たわ」


 静かに目を開き、森の向こうを見据える。


 土煙。

 人の靴跡。

 騎士たちの鎧の音。


 “勇者王国”の偵察部隊が、ついにこの森に足を踏み入れたのだ。


 


 塔を降りると、ミィナは一人の少年のもとへと向かった。


「セドリック。予定より早いわ。……迎撃は避けましょう。今は」


 セドリック・ヴァルヘイム。かつて魔王に仕えた〈魔操種〉の孤児。

 鋭い瞳を持つ剣士で、ミィナの右腕とも言える存在だ。


「それでいいのか?」


「まだ“始める”には早いわ。……でも、“出る”時よ」


 


 彼女たちは知っていた。

 森に永遠にはいられない。

 いつか、“真実”を問い直す日が来ると。


 


 ――“なぜ我らは滅ぼされたのか?”


 


 集会所に戻ったミィナは、老兵たちを前に言葉を発する。


「私は、外へ出ます。この森を出て、“世界に問う”わ」


 どよめきが走る。


「討たれた魔王は、誰を殺した? 奪ったという“宝”は、どこにあった?」


 少女の声は震えず、鋼のようだった。


「私たちは“怪物”だったのか? それとも“敵”にされたのか? ……それを、私はこの目で確かめたいのです」


 老兵ゼルダンはゆっくりと立ち上がった。


「ミィナ。……それが、お前の“火”か?」


「はい。……私は、“赦したくない”。でも、“理解したい”とも思っている」


 その答えに、誰も反論しなかった。


 


 そして夜明け前――


 ミィナとセドリックを含む三人の若き魔族が、静かに森を抜けた。


 それは、“第二の物語”の始まりだった。


 勇者のいない世界で、彼らは“魔”として生きる。

 過去と対峙し、“正義”の名を問い直すために。


 


 世界が信じてきた「英雄譚」の裏側に、声なき叫びがあったことを、誰もまだ知らない――


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ