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焔は語り継がれる  作者: 華詩手
語り部編
3/26

隠れ里《ネル=アーク》

 森は、全てを隠してくれる。


 炎に焼かれた国も、英雄に討たれた王も、何一つなかったかのように。


 


 逃げ延びた者たちは、南方の“深緑結界”へと辿り着いていた。

 大陸でも最も古く、魔王国が成立する以前から存在していた森――“アンスレアの禁林”。


 そこに、魔族の古き血が護ってきた隠れ里《ネル=アーク》がある。

 その存在は、魔王にすら告げられなかったという。

 それは、いざという時の“最後の逃げ道”として守られてきた。


 


「……ラディス様が、戻らないままなんて」


 か細い声で呟いたのは、あの赤い瞳の少女――ミィナ・クロスレイン。

 まだ八歳の彼女は、父も母も王城で失った。だが泣くのをやめたのは、もう二日前のことだった。


 


 焚き火の傍、彼女の隣に座るのは、角の折れた老魔族。

 元・軍医のダリオ・グレイズ。彼は灰を見つめながら、静かに言った。


「ラディス様の決断を無駄にするな。……今、生きている者の責務は、未来を作ることだ」


「でも……どうすればいいの? みんな、怖いって言ってる。人間は“正義”で、わたしたちは“魔物”で……」


「そうだ。連中は、そう言う。だがな、ミィナ」


 彼は、焚き火にくべた枝を指差す。


「あの火は、燃えるから悪いのか? あたたかさを与えるから良いのか?」


 少女は小さく首を傾げた。


「意味を与えるのは、火ではなく、見る者だ。……“正義”も、同じことだよ」


 


 その夜、里の集会所では、老兵たちが集まっていた。


「このまま育てるだけではいずれ追いつかれる。森の外に出る者が必要だ」


「スパイか? 潜伏か? どちらにせよ、命を落とす」


「だが、魔王国は滅んだ。いま、我らには“国”も“名”もない。ただの亡者に過ぎん。……ならば、選ばねばならん。“どう終わるか”ではなく、“何を残すか”を」


 静かに語るのは、元将軍補佐・ゼルダン。


 彼は手の甲に刻まれた〈魔紋〉を見つめながら言った。


「子らを鍛えねばなるまい。剣も、術も、言葉も。“虐げられた者が、抗う術”を」


「その先に何がある?」


「選ばせるのだ。戦うか、赦すか。復讐するか、誇りを守るか。……我らは、その土台を作る」


 


 そして月日が流れた。


 


 燃え尽きた魔王国の、最後の火種は。


 やがて“ひとつの意志”を持ち始める。


 


 ――「勇者は、なぜ我らを滅ぼしたのか?」


 その問いを胸に、少年少女たちは剣を取り、魔術を学び、言葉を交わしながら。


 もう一度、世界と向き合う日を待っていた。


 


 それは、やがて訪れる“復誓の章”の序曲である。


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