表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
焔は語り継がれる  作者: 華詩手
語り部編
11/26

偽りの上に立つ者へ

 王都、第五広場。


 その日は、例年の“勇者顕彰祭”の前日で、街は装飾と喧騒に包まれていた。

 大通りには旗が踊り、商人たちが喉を張り上げる。


 だがそのざわめきの中に、ひとつだけ異質な“声”が混ざっていた。


 


「皆さん。……少しだけ、耳を貸してください」


 


 声の主は、旅装に身を包んだ少年――いや、変声術を使った《語り部》の仲間のひとり。

 彼は木箱に立ち、手にした巻物を高く掲げた。


 


「私は、皆さんが知らない《もう一つの昔話》を語りに来ました」


 


 最初はただの道化芝居だと思われた。


 人々が足を止め、子どもたちが笑い、大人たちは聞き流す。


 ――だが。


 その語りが、「勇者アルベルトの軍勢が討った“魔王国”が、実は民を守る国家だった」と語り始めた時。

 空気が変わった。


 


 ざわめきが、凍った。


「……嘘だろ?」


「魔王国が……? 民の国だった……?」


 


 少年は怯まない。


 その手に握られていたのは、ミィナたちが地下で守り抜いた“市民記録”。

 パン職人の日記。看護師の手記。幼子の願い。

 それを、声にして読み上げる。


 


「……私は、ただ麦を焼いていた。焼きたての匂いが好きだった。

 でも、あの日……空から火が降って、弟の手が、もう、動かなかった……」


 


 誰かが息を呑んだ。


 


「――我らが信じてきた“英雄”は、すべてを救ったのか?

 それとも、“すべてを焼いた”のか?」


 


 兵士が動く。

 群衆の中に紛れていた《聖環騎士団》の騎士が、合図もなく抜刀する。


「――この者は偽りを流布する扇動者! 王命により拘束する!」


 


 刃が振るわれた瞬間――


 


 炎が走った。


 


 広場の中央で、黒いフードを脱いだ少女が、掌を前に掲げていた。

 ――ミィナ・クロスレイン。


 


「私は、“魔王国の生き残り”です」


 


 聖環騎士の動きが止まる。

 人々の目が集まる。

 言葉が、時間を支配していた。


 


「七年前、勇者に焼かれた国の中で、私は生きていた。

 それは国ではなかったのですか?

 火を放たれた瞬間まで、私たちは、“悪”だったのですか?」


 


 ミィナは一歩、前へ。


「勇者は英雄でした。……でも、誰かの英雄は、別の誰かの災厄です。

 だから私は、問うだけです。

 ――“あなたの信じる正義は、本当にすべてを救いましたか?”」


 


 その声に、広場の誰もが、ただ息を止めていた。


 


 そして、剣が振り下ろされた。


 だが、セドリックがそれを受け止める。


 鉄と鉄が激突し、火花が散る。


 


 ついに――


 言葉と剣の両方が交錯する、全面衝突が始まった。


 


 騎士団はミィナたちを討とうとし、民衆はその言葉の真偽に動揺し、

 そして、記録は再び空を舞い散る。


 


 火は、もはや一ヶ所に留まらない。


 ミィナの声は、確かに届いていた。


 


“魔王国は、ただ生きようとした。

 それだけの理由で、火に焼かれた”


 


 誰かが、その巻物を拾い上げる。


 誰かが、それを読んで、震える。


 


 誰かが――それを、信じ始める。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ