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焔は語り継がれる  作者: 華詩手
語り部編
10/26

声が届く時

 王都、中央議会塔。


 そこは、勇者の名のもとに築かれた統治機構の心臓部。

 あらゆる法律、命令、そして“記録”が、この塔から生まれる。


 その重たい石の扉を、今、一人の男が押し開けた。


 


 リュシアン・アラフォード侯爵。


 歴史院の筆頭顧問。

 “英雄の物語”をまとめ上げた、王国の正義の語り部。


 だがその彼が今、右手に抱えているのは――


 “英雄譚”を否定する、一巻の記録だった。


 


「……リュシアン卿? 本日は御前会議の予定では――」


 受付官僚が言いかける。

 だがその視線は、彼の持つ革表紙に吸い寄せられた。


「これは……“聖剣編纂記録”……? いえ、違う……これは、未発表の――」


「“削られた”真実だ」


 リュシアンは言い、足を止めずに歩いた。


「私は、この国の“歴史”を書いた。だが――

 この国は、“過去”を書かなかった」


 


 数時間後。


 議会の予備会談の場。

 高位官僚と学匠らが並ぶ円卓に、リュシアンは記録を広げた。


 静かなざわめきが、石造りの天井に広がっていく。


「……魔王国の市民記録……? 生存者の……手記……?」


「馬鹿な。これは偽物だ。七年前にすべて焼却されたはず……!」


「誰が、そんな命令を出した? そして、何のために?」


 リュシアンは静かに言った。


「“魔王国は悪だった”と、誰が決めた? 我々は、何を見て、それを信じた?」


 


 一瞬、会議室に沈黙が落ちる。


 だがそれは長くは続かなかった。


 


「――この記録を、公に出すつもりか?」


 重臣のひとりが、低く問う。


 その声の裏には、“脅し”と“警告”があった。


「私は、この国を壊したいわけではない。ただ、“もう一度考えてほしい”のだ。

 あの戦いが、本当に“正義”だったのかを」


「……軽率な発言が、民を混乱させることになるぞ」


「混乱ではない。これは、誤魔化してきた“痛み”の代償だ」


 


 リュシアンは席を立ち、言った。


「私は、“火を灯された”。……あとは、あなた方が“目を開く”かどうかだ」


 


 その夜。


 王都の広場に、一枚の紙が落ちていた。


『魔王国は、生きていた。

 記録は、燃え残っていた。

 そして今――再び声を上げている』


 


 それを拾い上げた少年は、小さな声で呟いた。


「これ……読んだことある内容と、全然違う……」


 


 言葉は火になる。

 火は街を伝い、やがて――“嘘を包む布”を焼き破る。


 


◆  ◆  ◆


 


 一方、ミィナたちは王都の下層区に潜伏していた。


 だがそこにも、変化があった。


 市場では小声で“魔王国”の名前が囁かれ、

 広場では子どもたちが“もう一つの昔話”を口にし始めていた。


「……効いてる。私たちの“火”が、届いてきてる」


 ミィナは呟いた。


「だけど、次はもっと大きな“刃”が来る」


 


 セドリックが頷く。


「記録じゃ防げない攻撃もある。……今度は、こっちが“刺す”番だな」


 


 彼らは新たな作戦に移行する。


 ――王都演説、暴動の扇動、そして、“魔”としての宣戦布告。


 歴史は、静かに転覆を始めていた。


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