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焔は語り継がれる  作者: 華詩手
語り部編
1/26

それでも我らは、守ろうとした

 火の手が上がる。空は裂け、雷が大地を割く。

 地獄とは、人の正義が揃って笑う場所かもしれない。


 魔王城――否、“我らの国”が、勇者によって陥とされたのは、昨夜のことだった。


「……子どもたちは、無事か」


 燃え落ちた塔の影で、副官ラディスはかすれた声で問う。


「地下へ避難させました。残りの民も……ほとんどが、まだ……」


 報告する兵士の肩は、血に濡れて震えていた。鉄臭さと、焦げた肉の臭いが鼻を刺す。


 それでも、彼は泣いていなかった。


 泣くことが、許されぬ戦いだった。


「魔王陛下は……?」


「……最後まで、玉座を離れなかった。……笑って、おっしゃっていた。“せめて、この命が時間になるなら”と」


 そこに、嘲笑が落ちる。


「魔王、討伐完了!」


 高らかに叫ぶのは、人間の勇者。聖なる剣を手に、血を滴らせて立っていた。


 その足元にあったのは、確かに――王の亡骸だった。


「魔を討ったぞ! これで世界は、平和になる!」


 人間たちは喝采した。剣を掲げ、祈りを捧げ、天を仰いで笑った。


 だが。


 ラディスはその光景を見て、ただ、静かに剣を抜いた。


「……世界の平和が、“我らの死”で成り立つなら」


 「それは、どこまでも一方的な、虐殺だ」


 魔王軍。

 かつては、七つの種族の同盟国家だった。


 人に追われ、居場所を求め、ようやく得たこの地に、名を“魔王国”とつけた。


 爪が生えていても、牙を持っていても、心までは奪われないと信じて。


 


 だが今。


 炎の中で、すべては灰になろうとしていた。


 それでもラディスは、背後にある避難壕の扉を見やり、呟いた。


「逃がす……せめて、次の世代だけは」


 魔に堕ちたのではない。


 ――人に殺されたのだ。


 


 これは、正義の勇者によって滅ぼされた“魔王軍”の、最後の希望の物語。

短編です。26話で終わります。

良かったら最後まで見ていってくださいね

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