13-最終章・拡散する美への追究
国境を越えた、夜の都市。
ネオンがちらつき、異国の看板が浮かぶ。人々はスマホを片手に交差点を渡り、笑い、写真を撮る。
ここは、真帆も悠真も名前しか知らない国、知らない都市。
ビルの六階にあるシェアアパートの一室で、一人の若い女性が鏡を見つめていた。
彼女の名はエミリア。
留学生で、語学学校に通いながらモデルの仕事を夢見ている。
細い指先が、スマートフォンの画面を撫でた。
アプリストアには、見覚えのないツールがあった。
「BEAUTIES……? 何これ、初めて見る名前」
説明文は英語でこう書かれていた。
”このアプリはあなたを美しく変貌させます。
これは運命の姿を映す鏡です。”
「運命の姿を映す鏡……ふうん、ちょっと大げさだけど」
興味本位で、彼女はそれをインストールした。
カメラが起動し、静かな起動音が流れる。
画面に映った自分の顔は、普段と少し違っていた。
頬が高く、鼻筋が細く、目の奥に光がある。
不自然ではない。むしろ、完璧すぎるほどに自然。
「……キレイ。これ、本当に、私?」
自分でも知らなかった自分。
なりたかったのに、届かなかった理想。
その“答え”が、今この鏡の中にある気がした。
画面の下に、一行のテキストが現れた。
“あなたの顔を記録しました。
次回から、より理想的な姿を提示します。”
そして、鏡の中の“彼女”が――ほんの一瞬だけ、瞬きをしなかった。
*
同じ頃、どこか別の国の、別の言語で、
またひとつ、“BEAUTIES”というアプリが静かにインストールされていた。
誰が作ったのか、誰が動かしているのか、今はもう誰も知らない。
ただそれは、人の願いに潜り込み、
その“理想”を鏡の中から見つめ続けている。
誰かが、自分を嫌いになった瞬間。
誰かが、もっと綺麗になりたいと願ったそのとき。
それは、目を覚ます。
再び、誰かの顔を奪うために。
BEAUTIES
――あなたの理想、その奥に。




