お城探検
九時になったので、ヘッドセットを付けてURLのリンクを開いた。
「さくらさん、こんばんわ。」山田の声が聞こえてきた。
「山田様、皆様、お集まりでしょうか?」
「全員、揃いました。」
「では、ツアーにご案内いたします。」
「今日のツアーの案内役は、ジョン・クロスビーになります。」
と言うと、白髪の60才くらいのスーツを着た男がパソコンの画面に現れた。
何故か、白いネズミを肩に乗せていた。
「今日、ご紹介するのは、場所はお伝え出来ませんが、築1200年のオーストリア郊外のお城になります。」
「第2次世界大戦時に、この状態で保存出来ていたのは、奇跡と言うしかありません。」
「今日、このお城をご紹介できるのをうれしく思います。」多分、相手は、現地語もしくは、英語でしゃべてるのだろう。音声と画像が数秒のズレがある。でも、話す言葉自体の違和感がないので、最近のAIを使った同時通訳システムは、すごいな!と思いながら思わず画面に見入ってしまった。
「通常は、現在の為替レートで30億円ほどの価値のある物件ですが、今回は、現持ち主様から、日本人なら特別に永久使用権を6千万円程度で良いとのことです。それと、現地のお祭りに現地の領主として、年1回参加して頂きます。」
「維持費は、国からの援助を差し引くとお城のメンテナンスで年間100万円程度必要ですが、ご自分でされる場合は、その状況に応じて変わります。MAXで、100万円程度とご理解いただければ幸いです。」
「お城自体は広いので、毎日1時間の紹介ツアーで7回のご視聴が必要です。その後、ご購入される場合は、弊社の日本支店まで、ご来店いただき本契約になります。グループでのご購入も可能です。」
「実際に、今、お使いの方が、リホームされてますので、暮らすには、問題ないと思います。」
「その前に、現地をご確認されたい方向けに、特別価格のツアーをご準備しております。」
「では、お城ご案内ツアーを開催いたします。」
「まずは、全体を見て頂きます。」
そこには、ルーマニアのペレシュ城にそっくりなお城が映っていた。
「前に、湖そして、後ろを深い森に囲まれています。入り口は、湖の上にかけられたつり橋を通って入ります。」
ペレシュ城とは、周りの環境が違うな。
お城の前の広い庭を通りって、ここで5分以上庭の映像が続いた。
歩く速さが時速4㎞として、300mもあるのか?結構、広い庭だな。
どれだけ広いんだよ。サッカーできるな!
そして、馬車がそのまま入れそうな玄関のとびらを開けると200㎡もありそうな玄関が現れた。
そこには、人物の彫刻があった。
「こちらの胸像が初代の伯爵様です。」
そこで、カメラが、360度回転して、玄関の全体像を見せてくれた。
その奥にもう一つ扉があった。
「この扉を開けて頂くと、大広間になっております。」
といって、ジョンが扉を開けた。
そこには、100人ぐらいが一斉にダンスができるほどの広さと、色々なオブジェが飾られていた。そして、正面には、若い男性の絵が飾られていた。
いかにも、ヨーロッパのお城って感じの内装だった。
「何か、ご質問等ございましたら、ご説明の途中でも結構です。マイクでしゃべってください。」
いつの間にか、ジョンの肩に居た白いネズミが消えていた。
マイクのスイッチを入れた。
「さっき、使用権が6千万円とおっしゃってましたが、本当ですか?」
「本当です。但し、皆様がお亡くなり後継者がいらっしゃらなくなった場合は、持ち主に変換されます。また、途中での解約も出来ます。その場合は、弊社の手数料6%を引いた金額になります。」
「よろしいでしょうか?」
「では、次に大広間を抜けて奥の部屋に参ります。」
「この奥は、台所になります。」
そこには、近代的なキッチンセットとオーブンと冷蔵庫そして、ちょっと大きめの調理台が有った。
「宿泊施設としてもお使いできるサイズになっております。」
台所も360度カメラを回して見せてくれた。
「台所の奥が、食品庫、そしてこの扉が、地下のワインセラーに降りれる階段になっております。
地下は、また後日ご紹介します。」
「本日は、こちらまでとなります。明日は、上階のお部屋にご案内いいたします。」
と言って、画面が切れた。
しばらくして、スマホが鳴った。
山田からだった。
「どうですか?さくらさん。使用権だけですが、一緒に購入しません?」
「会社も、在宅勤務を認めてるから、半年は、向こうで仕事をしながら、お城生活もよくないですか?」
「楽しそうね。でも、6千万円なんて無いわよ。」
「大丈夫、一人1千万円でいかがですか?他にも4人仲間がいて、みんな乗り気です。」
「部屋もいっぱいあるので、滞在が重なっても全然問題ないです。寧ろ、重なった方が、食事とかは便利かもしれません。」
「とりあえず、後6回紹介画像を見て決めるわ。」
「そうですね。明日もまたよろしくお願いします。」
「あっ、早々山田、案内役の肩にネズミが乗ってたけど、ネズミなんて出ないよね?」
「さあ、自分は、気付かなかったですね、もしかすると案内役のペットかもしれないけど、明日、聞いてみます。」
「私、ネズミ駄目だから。」
「わかりました。そう言えば、さくらさん、Dランドも行けなかったですよね。」
「そうよ。」
「じゃ、おやすみなさい。」
「良い夢を。」
そう言って、スマホが切れた。
あれだけ、はっきり映っていたのに、気付かないなんて変ね。そう思いながら、残りのビールを飲みほした。