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第27話 紅い竜

「グアアアァァァァァァァ!!」



 レッドドラゴンの咆哮が空気を揺らし、風圧が髪をバラバラに動かす。そこら辺の建物よりもでかい体はそれだけでも脅威になるだろう。


 冒険者ギルドではSランクの魔物に分類され、ほとんど存在しないと言われる災害級以上を除けば、実質的な生物界の頂点だ。

 目立つ紅い鱗は持ち主の強さを見せつけているようで、実際に攻撃を受けたとしてもびくともしないだろう。



「火炎が来るぞ! 避けろ!」

「クソっ!」



 黒瀬の掛け声に反応し、シエルを連れて全力で横に回避する。

 予期したとおり火炎が先程までいた場所に放たれる。幸いここは開けた場所であり周りの木に燃え移ったりはしなかったようだ。


 無理やり動いたからか背中の傷が痛む。ズキズキとしてて意識が飛びそうだ。



「おいこっちだ! クソトカゲ!」



 黒瀬が罵倒の言葉を浴びせながら魔法で攻撃している。火、水、風と多種多様な魔法だ。


 シエルがショルダーバッグからありったけの薬草を取りだして抽出している。出来上がったものから背中にバシャバシャとかけているが、あんまり効いてないみたいだ。

 泣きそうな顔で必死に繰り返している。

 


「シエル、ありがとう。もう充分だ」

「でも、でも、まだ傷が!」

「これ以上は待ってられない」



 そうだ、これ以上グズグズしてられない。まだ黒瀬がなんとか避けながら牽制しているが、限界があるだろう。戦闘経験はあまりないらしいし、私が行くしかない。


 剣を構えてドラゴンに突撃する。

 向こうも接近する私に気づいたのか、翼をはためかせて離れようとする。図体がでかい割に小心者だな。


 高く飛ばれる前に剣を地面に突き刺し、それを踏み台にしてジャンプする。

 足に手をかけどうにか食らいつき、短剣で鱗に攻撃する。



「くっ、やっぱり硬い!」



 予想してい事だがやはり硬い。感覚的にはあのブラックオーガ以上だ。このままじゃ刃が通らん。

 鱗の隙間とかないか? 逆鱗みたいな。

 そういうものはだいたい喉の下とかにあるものだが……全然わからん。


 ドラゴンがバタバタと足を動かす。まとわりついてくる虫を嫌うかのようだ。

 なんとかしがみつくが、背中の痛みで力が抜けそうだ。



「グアアァァ!」

「うっ、やば」



 タイミング悪く、ドラゴンが大きく足を動かすのと同時に背中が痛む。

 そのせいですっぽ抜けてしまった。傍から見ればドラゴンから投げられたように地面に向かって飛ばされる。



「おねーさん!」



 地面と衝突する前にシエルが受け止めてくれた。と言うよりは間に入ってクッションになってくれた感じだ。

 シエルには申し訳ないが助かった。



「気をつけろ! また来るぞ!」



 黒瀬が注意を促しながら私たちの前に立つ。

 地面に手を向けると、そこからボコボコと土の壁が作られた。

 直後、膨大な熱量が襲いかかってくる。どうやらドラゴンがまた火炎放射をしてきたらしい。安全地帯から遠距離攻撃とかFPSだと嫌われる行為だ。


 だが命が掛かっている戦闘なら最善の選択だ。このままだと蒸し焼きになるぞ。



「ぐぅぅ、あっつい! このままじゃボクら焼き殺される!」

「何とか逃げれないか? 意識が朦朧としてきた」

「逃げるたって、策がない!」

「なんかこう……魔法で水を作って相殺するとか」

「無理だ! 火力が違いすぎる!」



 轟音と熱量で上手く頭が回らない……アラクネで苦戦したのにドラゴンとかどうしろってんだ。

 だが考えるしかない。ここで諦めたら人生終了だ。

 たとえ私が死んだとしても、少なくともシエルは無事に逃がさねば。

 そうでなければイリークさんに合わせる顔がない!



「……そうだ。シエル!」

「はいぃ!」

「今から私が言うことをイメージするんだ!」



 以前、シエルが自分のスキルについて説明した時、大事なのはイメージすることだと言っていた。

 薬草やクラルス草から有効な成分を抽出するイメージ。曖昧な方法だが実際にシエルは純度の高い薬液を生み出している。

 ならばできるはずだ。より高純度な物を。



「ショルダーバッグに入っているニトロ草を全部とりだせ! そして爆発の主成分を抽出するんだ!」

「は!? お前何考えてるんだ!?」



 さすがスーパーエリートの社長といったところか、私の作戦に勘づいたようだ。

 ブラックオーガと同じように、このドラゴンは恐ろしく強いが所詮生き物だ。ならば口内は弱点だろう。

 ブラックオーガよりも硬いし、火炎放射をしているから恐らく耐性があるだろうが関係ない。高純度の爆発の純粋なエネルギーで破壊できるはずだ。


 こいつを倒そうにも撤退しようにも誰かが犠牲にならなければいけないのなら、私がその役目を引き受けよう。



「シエル、出来るか」

「できはしますけど、それだとおねーさんが……!」

「打破するにはこれしかない。大丈夫、心配するな。私は死なん」



 これは宣言であり覚悟だ。

 たとえどんな重体になろうが絶対に生き延びる。そもそも死ぬにはまだ若すぎるし、シエルに後悔はさせない。


 私の言葉を信じたのか、シエルはニトロ草から爆発成分の抽出を始める。

 恐らくだがその成分はトリニトロトルエン、いわゆるTNTだ。そして非常に高純度で不安定な代物だろう。だから勝負は一瞬だ。



「本当にやるつもりか……?」

「ああ。それしか勝ち目は無い」

「オーケー、分かった。ボクの魔力ももう限界だ。次に火炎放射されたら耐えられない……横に向かって壁を作る。そして奴に接近しろ!」

「了解。速戦即決だ」



 作戦概要を決めたすぐあとにシエルの抽出作業が終わった。

 高純度のTNTは淡黄色の液状で、薄い膜のようなものに包まれている。これをドラゴンの口にぶち込むのが私の仕事だ。



「できました……! 火をつけたり衝撃を与えれば爆発します」

「準備は整ったな? 合図をするぞ。……スリー、ツー、ワン、行け!」



 TNTを持ち、黒瀬の合図と共に横に駆け出す。

 どうやらまだ気づかれていないようだ。ドラゴンは炎を吐き続けている。

 相変わらず背中は痛むが、歯を食いしばって我慢する。


 全速力で接近し、先程地面に刺した剣また踏み台にして大きく飛び上がる。

 このタイミングでドラゴンも接近に気づき、火炎放射を止め離れようとするがもう遅い。一気に口元まで近づき口を閉じられる前にTNTを放り込もうとする。



「ぐ、クソ……ッ!」



 しかしほんの少し遅かった。接近に気づいたドラゴンが上昇したため、TNTを直接口に入れようと思っていたが出来なかった。

 だが閉じることは阻止した。上顎と下顎の間に入り、完全に閉じ切られる前に妨害する。

 相当な力が全身にのしかかり、骨はミシミシと音を鳴らし背中の傷口が開き血が出る。

 TNTは足元に転がっている。あとは起爆するだけだが、力が強すぎて動けない。


 こうなったらもう一か八かだ! 離れられないならこのまま爆発するしかねぇ!



「黒瀬! やれ!」

「あぁ、死んでも恨むなよ!」



 私の一言で黒瀬はすぐさま動き出す。

 手をドラゴンの口、TNTがある場所に向かってかざすと、手元から火の玉が現れる。

 その火の玉は矢のような形状に変化するとすぐさま射出され、真っ直ぐ目的物に近づく。



「おねーさ―――」



 矢がTNTにぶつかる瞬間、シエルの声が一瞬聞こえる。

 だがその全文を聞くことは叶わず、瞬く間に視界が閃光に染まり強い衝撃を感じた。

 その瞬間、私の意識はブラックアウトする。

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