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第2話 異世界

 ありのまま今起こったことを話すぜ。私は飛行機が墜落すると思ってたらいつのまにか森の中にいた。


 本当に意味がわからない。

 たしかに飛行機は墜落した。衝突の瞬間を覚えてる訳では無いが、あの機体は確実に下に向かっていたはずだ。

 ではこの状況はなんなのだ?

 たとえ奇跡的に生きていたとしても、私に限って無傷というのはありえない。


 夢かとも思ったが、さっき尻もちをついた時、臀部に鈍い痛みを感じた。

 それに今いるこの場所の空気感も、触っている草の触感も本物だろう。


 とりあえず立ち上がり辺りを見回す。

 どこかの森のようだが、私の脳内地図ではどこなのか全く見当がつかない。

 周辺に生えている植物も初めて見るものばかりだ。


 まずは一旦周囲を探索してみよう。

 墜落したはずの飛行機は近くには見えないし、救助を待つにしろ森を脱出した方がいいだろう。

 一定方向に進めば出れるはずだ。


 木々をかき分けずんずんと先に進む。

 未知の森林だが、結構心地のいい空間だ。特に理由は無いが、気分がいい。

 このよく分からない木も結構頑丈で、木造建築に向いてそうだ。

 安定した食料とかあったらいっそ住んでしまおうかな。



「……ッ……!」



 そんなことを考えながら耳を澄ませてると、なにか声のような音が聞こえる。

 人か? 他にも生き残ってる遭難者がいるのだろうか。


 少しペースを早めて音の聞こえた方向に近づいていくと、はっきりと聞こえ始めた。

 荒い呼吸音と走っているだろう足音が複数。ひとつと複数で足音の違いがある。複数は四足歩行タイプだ。

 なにかに追われているのかもしれない。


 木の根を蹴りいっきに近づいていく。

 もし人だとして、獣に襲われたら非常に困る。貴重な情報源を失う訳にはいかない。

 風で髪がなびく中、木々の隙間から少し先に小柄な少女が見えた。やはり襲われているらしく、四頭くらいのオオカミに追いかけられている。


 ここからだと間に合わないかもしれない。木が邪魔だが、射程圏内に入ってる。

 地面に落ちてる石を拾い、オオカミに向かって大きく振りかぶる。

 

 メジャーリーガーさながらのフォームから想像する一球は、放たれる前から絶望感を与える。

 腕はムチのようにしなり、手から放たれた石の弾丸はあの大谷選手を超える時速二百キロの豪速球である。

 石はライフリングを通ったかのようにキリモミ回転しながら隙間を正確に抜け、先頭のオオカミの頭に激突する。


 結構皮が厚いのか、貫通はしなかったものの少しふらついている。そのままオオカミに近づき、足蹴りを食らわす。


 横腹に狙いを定めた豪脚は、サンドバックを三個まとめて破壊するレベルの脚力である。

 無防備な状態でその衝撃を受けたオオカミは後ろの木に背中を打ち付け、一瞬にして息絶えた。


 奇襲と蹴りを合わせたコンボ技、通称サプライズキック。特殊な歩法や気配の消し方を組み合わせた私オリジナルだ。

 相手は死ぬ。



「っ!?」



 突然現れた謎の人物に少女は驚いてるようだ。

 てか、どうしよ。せっかくの人間が食われたら困るから何の策もなしに飛び出したが、よく知らない野生動物三頭を相手取りたくはない。



「グルルゥ……キャウ!?」



 とりあえず戦闘態勢をとっておこうとオオカミの方に視線を向けたら、一目散に逃げていった。

 見ただけで逃げるなんて、臆病な性格なのか?


 一応、これで難は去ったか。

 危うく貴重な情報源を失うところだったが、守れてよかった。


 しかし、ここからが問題だ。

 少女は長めの銀髪で、黄緑色の目をしたヨーロッパ系に近い顔立ちをしている。

 パッと見、十歳前後だな。

 ただ幼いながらも意志の強さのようなものが見え、可愛らしさと凛々しさが両立してるように感じる。


 何だか妙に惹かれる。普段は人嫌いで誰とも喋らないことも多いのだが、なんというか、この少女からは家族みたいな親近感がある。

 そして、とても現代人とは思えない質素な服装をしている。

 さっきは音だけだったし遭難者の可能性も考えたが、これは確実に現地の人だろう。


 そうなると、コミュニケーションが取れるのか分からなくなってくる。

 少なくとも日本語は通じなさそうだ。

 とりあえず万能な英語からいこう。



「あー、ハロー?」

「……かbroaば?」

「は?」



 何だ? 何を言ってるのかさっぱりわからんぞ。

 いろいろあって大体の言語なら理解できるが、今のは全くもって聞いた事のない言葉だ。

 少数民族の言語か? それにしては服装や見た目からはある程度の文明が感じられる。


 それに飛行機の経路的に島に墜落したとしてもこの森はかなり広い。地図上に描かれているだろうし未知の世界では無いはずだ。

 航路に知らない国なんてなかったはずなんだが……まさか、いやそんなことあるか?


 そうこう考えてると、少女が立ち上がり、ショルダーバッグからなにかの葉っぱを取り出す。

 すると、空気がそこに集まるような感覚がしたあと、葉が溶け少女の傷が治り始めた。


 ……薄々感じ始めていたが、やはりここは地球ではないのだろう。

 墜落したはずなのに私は生きているし、飛行機は見当たらないし、目の前で謎の力が使われるし。

 非科学的で信じられないが、私はいわゆる異世界転生、どちらかと言うと転移をしてしまったのだろうか。



「……あうs」

「ん? なんだ」

「ばhr bsgせん ろーzs ur kねん ぎおん」



 呼ばれた気がして返事をする。

 続けて何か言ったが、さっぱり分からないので肩を竦めてみる。

 伝わったのか、ついてこいというような視線を向けて、どこかへ進もうとする。

 集落とかに行くのだろう、ついていこう。

 蹴り殺したオオカミもとりあえず持っていこう。

 木の傍で息絶えてるオオカミを担いで少女について行く。



 しばらく進むと段々よく踏まれたような道になっていき、平野に繋がる。

 奥の方ではかなりの大きさがある城壁のようなものが見える。

 村や町レベルかと思っていたが、街や都市級にはあるな。少なくとも中世以上の文明だろう。


 そのまま少女について行き、城壁にある門に辿り着く。

 高さは三メートルくらいのあまり大きくない門だ。



「hsばえい!」



 街に入ろうとしたら門番に止められてしまった。

 さすがに見覚えのない者、しかもオオカミの死体を担いだ人間が来たら止められるか。



「sばい rksknyる か?」

「日本語でおk」



 相変わらず何を言ってるのか分からない。とりあえず日本語で返答したが、伝わって無さそうだ。



「あ、あua、syろあう! kせ laき あえん」

「sエル?」



 どうしようなく途方に暮れていると、少女が門番に懸命に話している。

 私について説明してくれてるのだろうか。


 待ちぼうけていると、門番が近づいてくる。

 着いてこいというようなジェスチャーのあと、変な水晶玉に手を置くよう指示してくる。

 見た目は占い師が使ってそうな水晶玉で、透明感が凄まじい。


 言われるがまま水晶玉に手を置くと、黒よりの灰色に変色する。これも異世界の道具だろうか。よくある占いなら興味はないのだが。


 水晶玉が示した結果に門番は困ったような顔をする。

 少女と少し会話をして、しばらく考え込んだ後、塞いでた道をどいてくれた。通してくれるみたいだ。

 ただ、どうやら一緒についてくるらしく、やはり警戒されているのだろうか。

 まぁとりあえず少女についていくしかない。

 

 門をぬけ、街の中に入ると、人間の文化らしさを感じる建造物がずらりと並んでいる。

 中央にある大きな一本道を挟むように家が並んでいる感じだ。基本的に石と木材でできていて、中世ヨーロッパの街中のような見た目だ。


 特に曲がることなく真っ直ぐ歩いていると、ひとつの宿屋のようなところで止まる。



「shsのaう!」



 少女が勢いよく扉を開けると、中には一人の男が椅子に座っていた。

 短い茶髪で緑眼の、目付きが鋭く体格ががっちりしている強面タイプの巨漢だ。



「sエル! gsks いkn は? oるかr ha」



 その男は少女を抱きしめる。親子なのか? だいぶ見た目のタイプは違うが。

 それにしても、門番も言っていたが、sエル……シエル? は少女の名前だろうか。ほかの言葉に対してシエルは固有名詞のように感じる。


 しばらくすると少女が私のことを男に紹介する。

 作法はよく分からないのでとりあえず会釈をしておく。

 男はその後、ついてきていた門番と会話をし始めた。話しかけられた門番はなんだが顔が強ばっている。体がガチガチで、緊張してるように見える。


 怖いのか?

 いやどちらかといえば恐怖よりも尊敬、羨望のようなものが見える。

 まぁいい、そんなことよりもう少し室内を観察しよう。


 建物の中は明るい茶色を主に使っていて、広々とした空間に合わせて開放感を感じる。

 机と椅子が多く置かれていて、恐らくここは酒場かなんかなのだろう。

 中央に受付のような所と、右側に階段が置かれている。照明になるものが見えないが、どうしているのだろうか。



「すぃーあou、kshhr ぎon!」

「ん?」

 


 そうやって観察していると、少女に手を引かれる。

 階段を指さしていて、どうやら二階を案内してくれるらしい。

 大人しくついていくと、上は何個も部屋があるような作りになっていて、ホテルのようになっている。

 ここは酒場兼、宿屋なんだろうか。


 そのまま少女に手を引かれ、ひとつの部屋に入る。

 部屋の中は木製のベッドと、羊毛でできた布団、そして机と椅子が置いてあり、一人分としては十分な広さだ。


 少女は私をベッドに座らせ、どたどたと階段を降りていく。なんだなんだと思い、しばらく待っていたらりんごのようなものを持って帰ってきた。

 そしてリンゴを指さしながら「eruds」と言ってくる。

 次に自分を指さしながら「sエル」と言ってくる。


 ……なるほど、要するに言葉を教えようとしているのか。

 最初はリンゴについて、次は自分についてだろう。

 なら私も自己紹介をしよう。

 

 そう思いながら自分を指さすが、そのままっていうのは少しまずいか? 異世界で日本語の名前だとキラキラネーム的になって目立つ。

 無くなった海外旅行の代わりって訳では無いが、せっかくの異世界だ。そのままは面白くない。

 そうだな……じゃあ何となく。



「カンナ」



 そう答えると、少女は一瞬の硬直の後、嬉しそうに目を輝かせて興奮しだす。



「カンナ、カンナ!」

「そう、カンナ」



 嬉しさのあまりかバタバタ動き回り始めた。

 まさか名前だけでここまで喜ばれるとは、偽名だから少し罪悪感が出てくる。


 だがまあ、これで一歩前進だ。

 これからこの世界で生きていくには意思疎通ができるようになるのは必須。

 ササッと覚えて、次のステップに踏み出そう。

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