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第18話 昇格試験

 階段を降り、いつぞやで見た闘技場の台の上に上がる。

 前回と違うのは、目の前にいる相手があんな口だけの悪党とは違い、正真正銘のAランク級の冒険者であることだ。



「さて、これよりBランクの昇格試験を始める。知っているとは思うが、一応のルールを説明する」



 立会人としてギルマスが私とクリードの間に立ち、昇格試験のルールを説明していく。

 そんな難しいものでもなく、やりすぎて殺さないようにすることと、装備は普段の冒険者活動で使うものにすることくらいだ。


 普段の冒険者活動で使うものというのは、昇格試験だけドーピングとかしないようにするためだろう。

 ズルして上がっても依頼で死ぬだけだろうからやったところでの話だが。


 もう少しで試験が始まる。直剣を構え、いつでも抜けるように短剣を調整しておく。

 


「以上がルールだ。たまにだが死亡事故も起きてるから十分に気をつけるように。では、始めッ!」


 

 戦いのゴングは鳴らされた。

 しかし両者ともに動かない。

 互いに相手の出方を伺っている状態だ。

 

 相手の戦い方が分からない以上、どちらも簡単には動けないだろう。

 クリードは背丈ほどある大剣を構え、観察するようにこちらを見ている。向こうから先に仕掛けたくないはずだ。

 私は直剣を構えてはいるが、いつでも腰にある短剣が使える。隙を晒すような戦い方はやりたくないだろう。



「あんまり自分からは行きたくないところだけど、一応試験なんでね……行かしてもらおう!」



 クリードがそう言うと、地面を蹴り急激に間合いを詰めてくる。

 手にした大剣を上から叩きつけるように振ってきた。

 

 かなり速い。受け止めるのは無しだ。

 横にステップを踏み、攻撃を躱す。

 

 回避した流れのままクリードに攻撃しよう。

 振り下ろした直後ならすぐには動けないはず……いや待て、マズイッ!


 

「そんな至近距離でいいのかいっ!」

「はやい……ッ!」



 その体勢から繋げられるのか!

 

 クリードは振り下ろした大剣を半回転するように回し、遠心力を利用した回転斬りを放ってくる。

 少なく見積っても数十キロ、なんなら百も超えそうな重さの大剣を力だけで振り回してやがる。


 ギルマスが前にハイランク冒険者はみな身体強化をして戦うと言ってはいたが、そこまでだとは思わなかった。

 技術もクソもない完全なるパワーだが、これが欠点がなく厄介だ。


 予想外の一撃だったが、どうにか剣で攻撃を受け止める。

 しかし威力が強く打ち飛ばされる。

 なかなかなパワーだが、遠くに飛ばされたのはちょうどいい。追撃を受けないよう短剣を投げつける。


 

「ふっ!」

「やはり投げるか!」


 

 読まれていたのか簡単に弾かれたが、所詮ただの牽制なので構わない。

 一方的な力の蹂躙が始まる前に戦いの主導権を取ることが先決だ。


 構え直される前に急激に接近する。

 スピードを乗せ、胴を狙い横に剣を振るう。


 バックで避けられだがそのまま密着し、縦に横に斜めに追撃する。さすがAランクといったところか、攻撃は安定した防御で防がれる。



「やるね……思ってる以上だ」

「そりゃどうも」



 下から斬りあげ、そのまま振り下ろす。

 剣で受け止められたが、鍔に剣を引っ掛け、がら空きになった腹部に足蹴りをする。



「足癖が悪いなあ、マーガレットはこれを受けたのか……んをっ!?」

「考え事とは、余裕そうだな」

「そっち方面でも出来んのね……!」



 足蹴りをした時に少し距離を取られたが、すぐさま直剣を投げて牽制、肉弾戦に移行する。

 クリードは武器である直剣を投げたことに驚きつつも冷静に回避し、私の足技に合わせて剣で防いでいく。


 何度か鎧に攻撃は届くが、どれもあまり手応えがないものばかりだ。

 冷静に攻撃を見極められている。

 


「君、本当に身体強化してないの?」

「嘘だと思うか?」

「一体どんな鍛え方をしているんだ……人間かどうかも怪しく思える、なッ!」



 攻撃に反転されないよう間髪入れずに打撃していたが、無理やりタックルで突破された。

 蹴りを入れながら離脱し、落ちていた直剣を拾っておく。



「いろいろ気になるところはあるけれど、ここからが本番だ……」

 

 

 空気が流れるような感覚がする。

 それはクリードの持つ大剣に集中し、鍔の中心から炎が刀身を伝うように燃え上がる。

 前に聞いた炎を纏う大剣だろう。


 

「耐えて見せろッ!」


 

 最初と同じように大剣を構え突っ込んでくる。

 肩に構えた大剣を斜めに斬りかかってきた。


 後ろに回避するが勢いを止めず、そのまま横斬りから回転斬りと連続で攻撃をしてくる。

 剣は避けれるが如何せん熱い! 熱にやられそうだ。

 それになんだか全体的に速くなっている気がする。


 距離を取りながらどうにか反撃できないか見計らってみるも、演舞のように舞うクリードに出来た炎の壁のせいで碌に近づけん。

 向こうは燃えた大剣なんて持って耐えられるのか疑問だが、あまり戦いを長引かせたくない。

 仕方ないか。突っ込むしかない。



「フー……」

 


 意識を集中させるために深呼吸をする。

 脳に入る情報を限りなく少なくし、ただ目の前にいるクリードの一挙手一投足に集中していく。

 時間感覚が引き伸ばされ、鼓動すらも止まったように感じる。


 ……今だッ!

 

 クリードが縦斬りをしたタイミングで剣を構え突っ込む。

 クリードはまたかというように身体を半回転させ、回転斬りをしてくるが二度も同じ手は喰らわん。

 


「なにッ!」

 


 腰の位置に合わせた回転斬りに膝を曲げ、全身を沈ませるように落とす。

 くしゃりと崩れたかのように低姿勢になり、慣性で少し遅れた髪の先に炎がチリつく。

 

 そのままバネのように曲げた膝を戻し、一気に剣をクリードの首元に向けて振るう。

 驚愕と焦りに満ちた顔をしたクリードが見える。


 取った。


 

「ストップ。試験終了だ」



 勢いを乗せた剣先がクリードの首に襲いかかろうとした瞬間、間にギルマスが割り込み、攻撃を止める。

 鳴止んだ鼓動が復活し、情報を逃さんと拡大した瞳孔が収まっていく。

 

 今にも斬り掛からんとする首元の剣を下ろす。


 

 ……Aランクは伊達じゃないか。

 私の胴の横には大剣が迫っていて、ギルマスがそれを止めていた。

 結果としては相打ちだろう。


 

「さて、どうだった? クリード」

「……聞く必要もないですよ。文句なしです」

「ということで、見事だった。Bランク昇格だ」

 


 お眼鏡にはかなったようだ。

 試験は勝つことが条件では無いから、恐らく問題ないのだろう。

 闘技場を離れ、受付でBランクのギルドカードを貰う。正確に言うとB-だな。

 


「用意がいいな」

「どうせ上がると思っていたからな。まさか相打ちまで行くとは予想外だったが」

 


 私も勝ったと思っていたのだが、Aランクの壁は相当高いみたいだ。

 というか、前も私の拳が受け止められたが、あの大剣の一撃を当たり前のように受け止めたこのギルマスどうなってるんだ?


 この街周辺の魔物は最高でも迷いの森のBランクしかいないのに、かなりオーバーな力を持っていると思うのだが……。

 まぁいい。トップが強いのはいいことだ。多分。


 

「さて、Bランク昇格おめでとう! これから依頼として護衛依頼が受けれるようになり、滅多にないが、指名依頼がくることもあるから楽しみにしておけ」

「滅多にないんだよな?」

「ああ。ない」


 ……フラグになっていないことを願おう。

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