第17話 前準備
思い立ったら吉日。まぁ翌日なんだが、Bランク昇格の試験を受ける前に防具を見に行く。
試験はB以上のハイランクの冒険者が行い、装備品は普段使っているものをそのまま使えるらしい。
私は短剣と直剣を一本ずつが基本で防具はつけていない。
だがこの前のブラックオーガ戦で結構いい一撃を貰った。その時は何とか耐えはしたが、あれ以上の攻撃が来た場合重傷を負う可能性がある。
私はどちらかといえば機動力で掻き回すタイプの戦闘スタイルだから防具は邪魔だと思っていたが、もしものためにとりあえず見に行くことにした。
「おねーさん! これなんてどうです?」
試験を受ける前に防具を見に行くと行ったらなぜかついてきたシエルから、よくありがちなレザーアーマーを薦められる。
うーん……頑丈そうな皮鎧ではあるが、如何せん動きにくそうだ。スマンが却下で。
「私は結構動くタイプだから合わないかもしれない。もっと軽くて動きやすいものとかないのか?」
「えー? これ以上は危ないですよ? 胸の部分しかないようなものばっかりです。お腹とかスカスカです」
確かに残りは心臓しか守ってなさそうな軽装ばかりで、着ない方が安全じゃないかと思うものばかりだ。
もっとこう、服なのに硬いみたいな防具があればいいのだが……。
「店主。もっと軽くて頑丈なのはないか?」
「それが一番軽いよ。もっと少ないのなんて防具として意味が無いからね」
「頑丈な服みたいなのってないのか?」
「そんなもんウチじゃ取り扱ってないよ! 確かに服で硬いのもあるけど、それは高級品だ」
魔物からとった糸を使えば実現できるらしい。
ただバカみたいに高額で王族くらいしか使わないみたいだ。
さすがに期待しすぎたか。
そうなると、買いたい防具がない。
できる限り機動力を落とさずに防具を買いたかったのだが、買っても買わなくてもしょうがないものばっかりだ。
仕方ないので店主に挨拶して店を出る。
「お店出ちゃいましたけど、買わないんですか?」
「買いたいものがないからね」
「でも、着ないと危ないです。おねーさん襲われやすいから余計にダメです」
え? そんな印象持たれてたの?
心配してくれたのは嬉しいけど、お姉さんそんなに弱くないからね?
「防具買わないとおねーさんとは話しませんよ!」
「そんなー……ん? ここは……?」
「わあ! 綺麗な魔石です」
防具についてどうしようか悩みながら歩いていると、ある宝石店のようなところに着く。
妙な感覚がする店だが、シエルが誘われるがままに入ってしまった。
キラキラ光る宝石に見蕩れているみたいだ。
どうやら魔石を加工してアクセサリーにしている店のようで、大中小さまざまな魔石が宝石のように輝いていた。
そういえば、仲良くなった人に魔石をプレゼントする文化があると言っていたな。
「シエル、気に入ったのか?」
「んー……気に入ったというか、なんか落ち着く感じです」
「どれが一番落ち着く?」
「えっと……あの白いのです」
シエルはダイヤモンドのような透明感を持った白い魔石が彩られたペンダントを指さす。清廉潔白なイメージを与える綺麗な魔石だ。
価格は大体二千万円くらいか。余裕だな。
「では店主。それをくれ」
「え!? ちょっと、おねーさん!?」
「前にくれた魔石はダメにしてしまったからな。お返しだ」
ポコポコ叩いてくるが効かん。
前にプレゼントされたっきりだったし、ちょうどいい感じの臨時収入も入ったしでタイミングが良い。
大人しく受け取るがいい。
「私もロヴィーナに住んでから結構な日が経ったのだ。一度くらいは現地の文化といものを味あわせてくれ」
「もう……分かりました。素直に受け取ります。でも、防具はどうするですか?」
「それは……また今度に買うさ」
忘れてなかったか。
まぁいつか良さそうな防具を見つけられたらそれでいい。
◆◇◆
シエルと一緒にレナトスに戻り、冒険者ギルドに一人で向かう。
今日は一応Bランクの昇格試験を受けようとしていたのだ。いろいろ脱線していたが、本来の目的に戻る。
いつも通りにラミーネさんに話しかける。
依頼を受ける時もほぼ全てラミーネさんに担当してもらっているし、実質専属みたいになってきた。
昇格試験を受けたい旨を伝えると、どうやらギルマスがなにか言われているらしく、呼びに行くので待っていることになった。
「こんにちは、カンナさん。先日ぶりだな」
「ああ、どうも」
適当に空いてる席に座って待っていると、クリードに話しかけられた。
後ろにはパーティーメンバーだろうか、何人かがこちらを見ながら談笑している。
ひとりは少し後ろめたそうな表情をした見覚えのある男がいる。
「ハハ、ひとり知ってる奴がいるだろう?」
「マーガレットだったか? どうしてあんな感じなんだ。私が何かしたか?」
「君に何かある訳では無いさ。あいつは繊細でね。普段しないようなことしちゃってずっと気にしてんだ」
ああなるほど。前にレナトスで危うくシエルを怪我させかけた事件か。
あの一件以来、確かにレナトスで見かけなかったが、大柄なのに繊細なハートだな。
「ところで、こんなところにいるなんて珍しいな。普段はさっさと依頼を受けて残らない印象だったが」
「確かに普段ならそうだが、今回はBランクの昇格試験を受けようと思って。ギルマスが来るらしいから待っていた」
「昇格試験? 失礼だが、いつから冒険者を?」
「三週間前くらいだ」
「三週間前でもう昇格試験を? はやいな……試験官は誰が?」
「それは知らされていない」
「なるほど……」
「おうおう、この街のトップが揃いも揃って、何やってんだ」
何か考え始めたクリードが少し気になるが、階段からギルマスが降りてくる。
そういえば試験官は誰がやるのとか聞いてないしついでに聞いとこう。
「試験の用意ができたぞ」
「ギルマス。昇格試験はいつでもいいと言っていたが、一体誰が担当するんだ?」
「それはもちろん、俺がやる予定だが?」
「……遠慮しておくと言ったぞ」
「仕方ないだろう。この街で試験官ができるのはごく一部の人間しかいないからな」
なんとなくだがギルマスとはやり合いたくない。何と言うか、ギルマスからはバトルジャンキーの雰囲気を感じる。
戦いだしたら非常に面倒なことになりそうだ。
「ハッハッハ! そんな嫌そうな顔すんなよ! 俺だってやりたくて試験官をやるわけじゃない」
「信用出来ないのだが」
明らかにやる気に満ちているではないか。目に宿った闘志が怖い。
元冒険者だと言っていたし、やはり冒険者は戦いたい習性なのか?
「……失礼だがギルマス。その試験官の役目、俺に譲って貰えないだろうか」
「クリード? 確かにあんたなら条件は満たしているが……どういう風の吹き回しだ?」
ああそうか、それだ。
そういえばクリードは単独ではAランクの冒険者。試験官としてはこれ以上ないほどの適任だろう。
「カーゴを打ち破り、ブラックオーガを単独討伐、わずか三週間でBランクに上がる実力……是非とも体験してみたい」
鋭い眼光が獲物を狙い定めるようにこちらを見てくる。
くそっ、こいつもバトルジャンキーだったか。
「……少し残念だが、現役のAランク冒険者がやった方が確かに試験的にはいいか。いいだろう、今回は譲ってやる」
「カンナさんもそれで構わないかな」
「問題ない」
もうこの際どっちでも変わらんだろう。
誰でも掛かってこい。
アルカディアでは七日で一週間、四週間で一月、月の最後に記念日かなんかで一日増えます。
そして一、六、七、十二のタイミングで月の初めも記念日かで増え、世界の誕生を祝うということで十三日間の祝月があり、合わせてちょうど365日になってます。
一年が地球と同じです。偶然かな?