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第15話 黒き鬼

 すぐそこにいるオーガに向けて、剣を抜き臨戦態勢を取る。

 少しまずいかもしれないな。


 実際に戦ったことは無いが、オーガ自体は問題ない。力が強く、直撃したらひとたまりもないがあまり速度がないタイプだ。

 単調な攻撃が基本で死角に入りながら戦えば十分に対処出来る。


 ただ問題なのは、目の前にいるオーガは黒い個体であることだ。

 ブラックオーガと呼ばれるこいつは、いわゆる亜種というやつだ。

 魔物の中には一部、遺伝子的な問題なのかは不明だが、同種の魔物と比べて異なる姿をしている。それらを総じて亜種と呼ばれる。


 そして厄介なことに、大半が通常個体より強力な性質を持つ。


 純粋な肉体性能の強化ならまだいいが、例えば魔法を使うとか、特殊なスキルを持つとかだったら面倒極まりない。

 さすがに亜種までの魔物は把握していない。このオーガはどんな特徴を持っているかが分からない以上、慎重になる。



「グオオォォォォォォ!!!」



 やかましい咆哮を放ってから、ブラックオーガは一直線にこちらに走ってくる。

 ゴブリンみたいな素早さは無いが、体が大きく重厚感があって凄まじい。ダンプカーが突っ込んできてるみたいだ。

 上から棍棒を振り下ろしてくる。


 受け止めるなんて選択肢はないので全力で避ける。

 身体能力は思っているより高く無い。見てからでも動ける。

 前方に詰め、ブラックオーガに近づくように避けてから太もも付近を切りつける。



「硬っった」



 ガキィンと、とても皮膚を斬ったとは思えない音を出して剣が弾かれる。

 傷すらつかないのは予想外だ。通常のオーガなら切れはすると聞いたから、こいつは恐らく防御特化タイプなのだろう。


 ブラックオーガは剣で斬られたことなぞ気にしていない様子だ。手に持った棍棒を振り回している。

 一旦後ろに引くが、どうしようか。ろくに攻撃は効かなさそうで、撤退するのも視野だ。

 正直、逃げることは容易い。


 スピードはそこそこだが所詮そこまで。森に入って木の間を通っていけば撒くことはできる。

 ただ、私の勘だが、こいつはここで殺した方がいい気がする。なんとなくだが、ここで取り逃がすと面倒なことになりそうだ。



「私の勘はよく当たる方なんだ。だから貴様にはここで死んでもらおう」

「グゥゥゥ……グォォォォォ!!」



 剣先を向け、伝わるかどうかは分からないが挑発する。

 ブラックオーガは鬼のような形相を浮かべ、怒り狂ったように棍棒を振るう。


 避けに徹して、隙あらば斬ってみるものの、相変わらず効いてる様子はない。

 戦うことにはしたが、有効打がない。このままでは持久戦になるだろう。だが向こうは私を無視して逃げ出すことが可能な以上、不利になる。


 ならばどうにかダメージを与えるしかない。

 攻撃を同じ箇所に当て続けるか? いやそれでは時間がかかりすぎる。それにいつ通るようになるかも分からないし却下だ。

 


「グルァァッ!!」

「ッ、ヤバ」



 考え事に気を取られすぎて良く見てなかった。

 脇を狙った横振りを、剣の腹を使って全身で受ける。空中に吹き飛ばされるが姿勢を整えて着地する。

 衝撃はかなりのものだったが何とか耐えられた。


 しかし、今回は私の油断だったが、持久戦になれば攻撃を避けきれなくなる。こんなもの何度も受けていられないぞ。

 いちはやく打開策を見つけなくては。

 分かりやすく弱点があればいいのだが、それらしいところは……待て。魔物だが、こいつも生物なんだよな?


 ならばそこは弱いはずだ。



 そうと決まれば速戦即決、直剣は邪魔なのでブラックオーガの顔に向けてぶん投げる。

 ブラックオーガが腕を使って防いでいる様子を見るに、さすがに顔まで硬いことは無さそうだ。少なくとも目は弱いだろう。

 

 短剣を取りだし、近くにあるはずの赤い草を探す。

 ここはクラルス草の群生地、ならば分布が被っているニトロ草があるはずだ。

 そしてシエルから貰った火の魔石のペンダント。つまりそういうことだ。心苦しいが使わざるを得ない。

 地面が湿っている事がネックだがもうこれ以外にない。


 ブラックオーガに向かって全力で走りながら、その辺にあったニトロ草の根元を切り、葉を口に咥える。

 ついでに地面の土を掬い、オーガの顔に投げつける。目くらましだ。



「グァッ!?」

 


 剣を防いだ直後だったからか油断していたオーガは土をそのまま受け、視界を塞がれる。

 知性は少なめか?


 棍棒を持っていない方の手で土を払いのけようとしている隙に、オーガに接近する。

 私が近づいているのが分かったのか、棍棒を一心不乱に振り回すがもう遅い。背後から腰蓑を掴み、頭部にあるツノを掴んで上にあがる。



「よっ、ほっ」

 


 ツノがちょうどいい位置にあって掴みやすい。安定感が増す。肩に足をかけ、はらい落とそうとしてきた手を蹴りで弾く。

 短剣を逆手に持ち、目玉に向けて思い切り突き刺す。



「グオオォォォォォォ!!!」

 


 勢いよく血が吹き出し、オーガは大声を出して口をかっぴらいた。

 そこにニトロ草と魔石を突っ込む。


 魔物についてはまだまだ分からないことだらけだが、生物なら口内は弱点だろ。

 魔石についてもよく分からないが、とりあえず衝撃でも与えればいいか。短剣を引き抜き、飛び降りながら下顎に向けて蹴りをかます。

 

 ブラックオーガは、片方しかない怒りに満ちた黄金色の瞳を私に向けた。

 それが最後の光景だろう。せいぜい楽しめばいい。

 


「じゃあ、な!」

「グルルァァァ……ガッ!!」



 鋭い牙で魔石が割れ、オーガの口内から赤い光が漏れ出す。ニトロが爆発するには十分な熱量があるはずだが、これは……。



「マズイ!」



 本能的だがこの爆発はまずい。咄嗟に腕を前に構えて膨大な熱を受けれる用意をする。

 直後、一瞬の閃光の後、現代のダイナマイトを彷彿とする大爆発を引き起こした。



「おー……いってぇ」

 


 想像以上の爆発力だ。少し詰め込みすぎたか?

 何とか第六感みたいなのが働いて防御体勢を取ったが、腕は焼かれてしまった。

 三度燃焼までいってなければいいが。


 爆発源に目を向ける。

 驚いたことに、内側から爆発したブラックオーガは見るも無惨な姿になると思いきや、口から煙をモクモクと出す程度だった。


 てっきり内側から爆ぜてぐちゃぐちゃになると思っていたが耐え抜くとは、見事な耐久力だな。

 やはり正攻法でいったら持久戦になっていたか。


 だが口内から爆発して生きられる動物など存在しない。ブラックオーガは力が抜けたようにうつ伏せになって倒れた。


 とりあえず一件落着か?

 投げた直剣を拾い、鞘に収める。

 勘だったが、コイツはここで殺す必要があった。もし逃がしていたら取り返しのつかないことになりそうだったからな。


 ……てか、なんか短剣がドクンドクンしてて気持ち悪いんだが?

 なにこれ。別に動いてる訳では無いが、短剣から鼓動のようなものを感じる。


 よく見ると、刀身に付いていたはずの血が減っている。どうやらオーガの血を吸い取っているみたいだ。

 そして若干だが腕が治っているような気がする。さっきまで感じていた火傷の痛みが和らいできた。


 マジか。そういう方面で成長していく感じか? 私が魔力を持たないからか?

 ……まぁいいか。別に困らんだろう。



「おーい! 嬢ちゃーん!」



 遠くから聞き覚えのある声が聞こえる。

 ギルマスが複数人の冒険者と共にこっちに向かってきているようだ。

 


「爆発音が聞こえたから見に来たんだが、こいつは……」

「爆発は私が引き起こしたが、そんなに大勢の冒険者を引き連れて、どうしたんだ?」

「いや、それなんだが……解決したみたいだ。実は、嬢ちゃんが行った後にブラックオーガの目撃情報が届いてな。動けるやつかき集めて探してたんだ」



 つまり情報を聞いて討伐に来たギルマスより先に私がブラックオーガに出会ってしまい、そのまま私が討伐してしまったと。


 何故かギルマスは残念そうにしているが、引き連れていた冒険者の中にはポースやクリードの姿も見える。



「ただのブラックオーガなら放置でも良かったんだが、金色の瞳を持っている可能性があってな。杞憂だったみたいだが」

「金色の瞳? 確かにこいつの目は金色だったが」

「……はぁ、もうあんたには驚かされすぎて慣れてきた。こいつは一人で倒せるようなもんじゃないぞ」



 あれ、またなんかやっちゃいました?

 いろいろ気になる点はあるが、アドレナリンが切れてきたのかドッと疲れが来始めている。

 そこを考慮してか話はまた明日にしようとギルマスが提案してきたので了承する。

 

 ブラックオーガは一旦街まで持って帰るみたいだ。運搬は他の冒険者たちに任せてお先に失礼させてもらう。

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