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第13話 デート

「おねーさん! こっちです!」



 シエルに手招きされ、道案内をしてもらう。

 最近、冒険者やらなんやらでシエルとあまりイチャイチャできてなかったため、今日は街の案内ついでにデートをしに来た。


 よくよく考えるとロヴィーナに来てからかなりの時間が経ったが、レナトスとギルドくらいしかまともに行ったことがなかった。

 他は食材の買い出しで少し売店に寄った程度だ。

 一応、街全体の構造や客から聞いた有名なお店とかの知識だけはあるが、実際に行ったことはない。


 そのことをシエルに話したら、もっと街のいい所を紹介したいと言われて今に至る。

 最初はとりあえず服屋に行く予定だ。


 この世界は一部時代に合わないような文化レベルがあり、服もそのひとつだ。

 中世的な世界観だが、豊富な生地素材がある。

 単純なウールもあればシルクも一般的に使われ、魔物の素材も多く使われる。


 庶民はウールを基本に、少し高価な買い物としてシルクがある形だ。

 貴族は魔物産の高級シルクで作るらしい。


 現状、私の普段着は動きやすいようにシャツを腰あたりで縛った単純な服装だ。個人的には適当な古着でいいのだが、シエルが納得しない。

 まぁ困るものでもないので文句は無いが。



「これとかどうです?」



 せっかくならシエルに似合う服でもと探していると、フリルがついてる可愛らしいスカートをすすめられた。



「かわいいね。似合う」

「そうでしょう! おねーさんにとっても良く似合うと思うんです」

「いや、シエルに。あとこれとか」



 へ? と呆然としている間にシエルに合いそうな服を選んでいく。

 フリルがついているのもいいが、飾りの少ないスタンダードなタイプも良く似合う。


 スカートじゃないのもいいな。

 ズボン系は機動性が高く、活発なシエルと相性がいい。ポニーテールとかよく似合うだろう。


 あれもこれもとどんどん服が増えていく。試着もできるらしいのでシエルに選んだ服を試着してもらう。

 予想通りというか、どれもこれも可愛くて仕方ない。なんだこれ、神か?



「ちょっと! 今日はおねーさんの服を選びに来たのに! いつの間にか私が中心になってないですか!」

「いいじゃないか。よく似合ってるよ」

「嬉しいですけど、そうじゃない!」


 

 ぷりぷり怒ってるところも可愛いな。


 試着も終わり、いくつかの服に厳選する。

 正直全て買いたかったが、荷物になるしそんな予算もないため何着か特段似合うものだけだ。

 私のは適当に動きやすそうな服を買っておく。


 買った服はシエルが持ってたショルダーバッグの中に入れる。

 どう考えても容量不足だったが、魔法とは便利なもので。圧縮魔法と空間拡張魔法が組み合わさった特殊な遺物だ。

 昔宿に来た髭が長いお爺さんから貰ったらしい。



「あっ、シエルちゃん。ちょっといいかしら」

「はい、なんでしょう?」

「風邪薬お願いしてもいい? 最近また流行り始めたらしくて、切らしてたの」

「構いませんよ!」

「助かるわ〜! シエルちゃんのは良く効くからありがたいのよ〜。今薬草持ってくるから待っててね」



 服屋のおばちゃんは二階に上がり、クラルス草を持ってきた。

 これはシエルの持つスキルの話だ。

 スキルは基本的には才能に関係するもので、例えば剣士や、瞬足といった技術や身体能力が多い。


 しかし一部のスキルはそのようなものではなく、例えばシエルは『錬金術』というスキルで、抽出や分解ができる。

 

 クラルス草は非常に抽出が面倒な薬草だ。

 魔力が十分な水に三日間漬け、そこから魔力を混ぜながらすり潰していき、魔力水に混ぜて濾した後にさらに時間をかけて煮ていく。


 単純に時間はかかるし魔力を使うのが一般庶民が行うにはハードルが高く、専門家しか作らないから供給が少ない。

 しかし定期的に出てくる流行病に対しては特攻レベルに効き、この時期になると薬の価格が高騰する。


 だがシエルのスキルはそんな面倒な抽出を片手間レベルで簡単にでき、さらに不純物が少ないため効能が高い。

 それを薬草さえ用意していたら無償で行っている。マジで天使だな。


 初めてシエルと出会った時に薬草から直接怪我を治していたが、それもこのスキルを使っている。

 かなり便利だ。ほかのことにも応用が利くだろう。



「はい、これでどうですか?」

「助かるよ〜! いつも迷惑かけてごめんなさいね」

「いいんですよ! 困った時はお互い様です」

「終わったか?」

「はい! お待たせしました」

「ありがとうね! また来てくれたらサービスするよ〜!」

 


 挨拶をして店を出る。

 試着に時間を使いすぎてもう昼過ぎだ。

 シエルもお腹がすいてきたみたいだしランチといこう。


 一応簡単な予定は立ててたが初っ端に崩れたのでもう関係ない。この前宿に来た冒険者から聞いたおすすめの食事処に向かっていく。


 ロヴィーナは中央に銅像があり、東西南北に十字状の大通りがあるような構造だ。

 北西方向に王都があり、そちら側にこの地を管理する領主邸もある。


 北東には教会があり、神創教に属する神父が駐在する。

 大通りに服から食事、武器などのさまざまな売店が並び、南側は孤児院もある住宅地になる。


 貧困差はあまりないものの、迷いの森という魔物が多く出没する場所があるからか、冒険者が多く治安が良いとは言えない。

 定期的に喧嘩は起きるし、周りを巻き込みかねない暴力沙汰になることもある。そのためか、この街は衛兵が多く街中での騒ぎは彼らが片付ける。

 当然だが、衛兵が多いとはいえ全ての事件をカバーすることは出来ない。



「うわっ!」

「盗っ人だ! とっ捕まえろ!」

「ハッ! この俺に追いつける奴がいるもんかよ!」



 優雅にシエルとランチを楽しんでいると、どうやら近くの売店で買い物をしていた客がバッグを奪われたらしい。

 明らかに足が速いため、恐らく身体強化かスキル持ちだろう。


 中央から東門がある方向へ向かっているみたいだから、ちょうど私たちの前を通る。

 普段なら確実に無視するが、今はシエルの前だ。せっかくだからカッコつけさせてもらおう。真っ直ぐに走ってくる男の正面になるように立つ。



「おねーさん……?」

「ハハッ! ……はっ!?」



 目の前に人が立ちはだかるとは思ってなかったのか、後ろしか見てなかった男はスピードを緩めず突き進んでくる。


 何とか避けようと体を逸らしているが、スピードを出した車は止まることも曲がることもろくにできない。

 当たり前だが、そのまま受け止めたら私まで突き飛ばされて大怪我だ。


 わざわざ男を受け止める必要はない。盗難物だけ貰い、あとは適当にすれば勝手に自滅する。

 体を一瞬だけ男と同じスピードに合わせ、手首を使い後方へ男をそのまま流す。ついでに手に持ってた盗難物をするりと奪い、足をかけて転ばす。

 

 なかなかの速さで動いていたものだから男はしばらく空中に浮いた後、母なる大地を顔面から受止め十メートルくらい擦ってから止まった。

 ピクピクしながら動かなくなった男を、いつの間にか呼ばれていた衛兵に渡す。

 身体強化はしていたのか、思っている以上の怪我はなく、ポーションでもかければ治るだろう。


 盗難品はそのまま被害者に返却する。お礼をさせて欲しいと言われたが断っておく。

 そんなことより今はデートの方が優先だからな。



「おねーさん凄いです!」

「難しいことでもない。シエルも簡単に習得できるさ」



 ふふん。これを求めていた。

 実際、これはあまり難しいことではない。相手の動きに合わせて自分の動きを合わせるだけだ。

 ある程度の動体視力や反射神経は必要かもしれないが、身体強化とかあるのだしいけるだろう。


 さて、まだ時間はたっぷり残ってる。デートもとい街案内の続きといこう。

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