第12話 成長する短剣
ゴブリン調査依頼から数日、特に何事もなく過ごしていたが、ついにギルマスに呼ばれた。
いつも通り簡単な依頼をこなして報告していたら、ラミーネさんに呼び止められたのだ。
三階に案内され、応接室と書かれたなんか高そうなものが置いてある部屋に入る。
中央にあるソファーにギルマスとポースが座っていた。久しぶりに見たが、結構元気そうだ。
「よぉ、来たな」
「お久しぶりです!」
にこやかに挨拶された。悪いことの呼び出しでは無いみたいだ。
「急にで悪いな。この前、嬢ちゃんが行ったゴブリン調査の結果諸々を伝えるために来てもらった。こいつからも色々話を聞かせてもらったぞ」
そう言いギルマスはポースに視線を向ける。
ポースからは私に向けた不信感などはなく、なにかに納得したような面持ちだ。
誤解が解けているならいいのだが。
「先日は申し訳なかったです……助けて頂いたのに怪しんでしまって」
「まぁそこは、私でも疑うから気持ちは分かる」
「あの後、ギルマスに報告した後、決闘とかの話も聞いてパーティー内で話し合ったんです。ランクは冒険者になったばかりだし、助けてくれた恩人なのだから怪しむのは失礼と。『ベラトール』の代表として謝罪します」
深々と頭を下げられる。
実力を隠してパーティーに参加して、モグラだと怪しまれるのは自業自得でもある。
謝罪は素直に受け取ると、顔を綻ばせこれからも仲良くして欲しい旨を言われる。
もしかしたらまたパーティーを組むことがあるかもしれない。
「さて、話は終わったか? 次はこっちの話だが、調査の報告を貰ったあと、個別にその洞窟へ調査をしに行った。まさかホブゴブリンまでいるとは思わなかったからな」
普通、ホブゴブリンは森林の奥の方で生活をしており、あんな浅いところにはいない。
群れから外れたはぐれ個体が一体でいることは稀にあるが、今回は三体のホブゴブリンが集団でいた事が問題になっているらしく、独自に調査を行ったらしい。
「結論から言うと、洞窟内部にはホブゴブリンを含め、何も無かった。もちろん、アンタらが持って帰った証拠を疑ってるわけじゃねぇ。血は残ってたらしいからな」
は? どういうことだ? 確かに死体を置き去りにしたはずだ。
あの日が夢だったなんてことはない。
「俺らの見立てだと、なにかしらの大きな魔物がいて、 ゴブリン共はそれから逃げてきたのではないか、という話だ。確証は無いがな」
「死体を持ってかれたということか?」
「それはわからん。まぁこれについては調査中だ。情報が来るまでは何も出来ん。そして、ここから嬢ちゃんについてなんだが……」
「なんだ? 勿体ぶらないでくれ」
「ランクを上げないで欲しいっていう話、無理だ」
ニカッと歯を見せるいい笑顔で言われるが、誤魔化せると思ってるのか。
ポースに目を向けるが、サッと逸らされた。
こっち見ろ。
「嬢ちゃんのランクはCに上げさせてもらう」
「……理由を教えて欲しい」
「まず、この前も言った気がするが、冒険者は人手不足だ。即戦力たりえる人材はすぐさまランクを上げていきたい。だから有能な冒険者はギルマス権限で上げている。嬢ちゃんはすぐDにしたが、これは滅多に居ない。誇っていいぞ?」
「そして、ソロでホブゴブリン一体ならまだしも、三体にプラスアルファで勝てるやつは最低でもB以上のランクが妥当だ。そもそもの話、決闘でカーゴに勝ってる時点でCでも良かったのさ」
カーゴ……B-の冒険者か。
確かに合理的な理由がある。冒険者全体での利益を考えての行動だろう。そんな簡単にあげちゃっていいのか疑問だが。
まぁ上がったとはいえCランクか。
ぎりぎりヨシ!
「それについては分かった。Cランクなら納得しよう」
「そうか! よかったよかった。じゃ、これが新しいギルドカードだ」
用意がいいな。新しいギルドカード、白金色の板だ。
簡単に折れそうだな。
「そんじゃ、この話は終わりだ。突然呼び出して悪かったな。これからも良き冒険者ライフを」
「お疲れ様でした! またパーティーが組めたら幸いです!」
用は済んだみたいだしとっとと出よう。
ポースはまだやることがあるとかで残るみたいだ。
一階に降りてクエストボードを眺める。
めでたくCランクに上がったわけで、受注できる依頼の幅がかなり広がった。
ソロの場合は一段階上、Cプラスまでだ。
グリーンウルフの討伐、クラルス草の採取、多岐にわたる。
グリーンウルフは私が最初に倒した魔物だが、その時は奇襲だった。実際は群れで動き、連携攻撃が非常に厄介な魔物だ。
クラルス草は最近流行り始めている病気に効く薬草だ。これ以外に効能がないため、この時期以外だと一切依頼がない可哀想な草だ。
そのくせ抽出に時間がかかるという面倒くささがある。ちなみにニトロ草と群生地が被っているから火気厳禁だ。
まぁ薬草採取はやったことあるしグリーンウルフの討伐依頼でも受けようか。
「すまない、ちょっといいかい」
良くない。
今私は自分の未来について吟味しているのだ。
「俺はクリード。Bランクパーティー『ディケイオス』のリーダーだ。カンナという方を知っているか?」
「私がそうだが、なんの用だ」
意志の強い目をした誠実そうな好青年だ。
頑丈そうな防具に妙な雰囲気の剣を持っている。見た目はただの剣だが、どこか違和感がある。
「申し訳なかった!」
クリードは私が本人だと知ると、突然頭を下げて謝罪してきた。なんか最近謝罪されることが多くないか?
「なんだ突然。どういうことだ?」
「君はマーガレットやカーゴという者について聞き覚えはないかい」
詳しく話を聞いてみると、どうやら前にレナトスで暴れていたマーガリン……マーガレットやカーゴが同じパーティーメンバーだったらしく、謝罪をしに来たみたいだ。
カーゴは元メンバーみたいだが。
「君には多大なる迷惑をかけてしまった。用意がなく粗末なものだが、どうかこれを受け取って欲しい」
そう言われると鞘に入った短剣を渡される。
とりあえず抜いてみると、刀身によく分からん文字が刻まれたもので、なんだが手によく馴染む。
かなり高そうな代物だ。
「それは俺たちがダンジョンを攻略している時に出た遺産だ。持ち手に合わせて変化する成長する短剣だ」
「成長する短剣?」
「その名の通り、持ち手の戦い方や魔力を糧に姿を変える武器だ。うちに使い手はいないし、遠慮なく受け取って欲しい」
遺産はダンジョンと呼ばれる場所から出る武器やアイテムの総称の事だ。
私に恐らく魔力はないが、どうやって成長するんだ?
「高価そうな物だが、いいのか?」
「ああ。というか、俺たちも処理に困っていたんだ。成長する系は初期の段階はあまり人気がなく買取が少ない。成長するのに時間がかかるからな。聞いたところによると冒険者を始めたばかりみたいだからちょうどいいと思って渡しにきたんだ」
成長する武器自体は遺物の中ではありがちで、ある程度使い込まされ成長した武器が好まれるらしい。
成長さえすれば使えるものだから捨てるにも勿体ないと。
まぁくれるなら貰っていくが。
「受け取ってくれてありがとう。もし何かあったら俺のパーティーを尋ねてくれ。ある程度までなら手助けできるはずだ」
「親切にどうも……ところで、その大剣。それも遺物なのか?」
「ん? ああ、これか。そうだ、これは炎の大剣で、火をまとって攻撃出来る。その短剣と同じ成長する武器だ」
なるほど。私も使い続ければその大剣のようになる可能性があるのか。
ひとつの指標になった。
クリードは暫くはこの街にいるみたいだ。どうやら単独だとAランクのようで、貴族から指名依頼を受けたらしい。
やはりランクはあげるものじゃないな。
最近は依頼続きだしトラブルも多発気味だし一旦帰ろう。冒険者の活動が多すぎるし、明日はシエルとデートしよう。