第11話 敵を知るにはまず味方から
初のパーティーでの依頼だが、洞窟入口での見事な連携プレーの後、洞窟内に入るかどうかの話になった。
私は臨時だしどちらでも構わないが、個人的に情報がなく閉鎖的な空間に入るのは危険だと思われる。
しかし、リーダーであるポースはしばらく悩んだのち、進むことに決めたらしい。
危なくなったらすぐに逃げること、そして私にはパーティーが全滅の危機になった時は遠慮なく逃げて欲しいことを言われた。
増援要請をしてもらう目的もあるのだろう。まぁその時はもう手遅れだろうが。
善人だな。どっかの誰かさんとは大違いだ。
松明をつけて洞窟内をしばらく進んでいると、なんだかつけられている感覚がする。
光がなく暗いため他の人は気づいてないが、襲われそうだ。
「ほっ」
「ゲギャッ!?」
「……ヌッ!?」
少しすると案の定、五体のゴブリンが奇襲を仕掛けてきた。
メンバーに気づかれないよう短剣を投げて初撃を防いだら、あとは上手く対処してくれた。
ただ一本道で戦うには厳しいらしく、奥に逃げることになった。
道中ちょくちょくゴブリンを斬りつけながら進んでいくと、ちょっと広い空間に出る。
二、四、六……十二体のゴブリンと、ほかのゴブリンに比べ大型で少し肌色が濃いのが一体、奥に二体いるみたいだ。
「マジか……ホブゴブリンだと?」
ほお、あれが巷で噂のホブゴブリンか。聞いたことないけど。
矮小でライトグリーン色の肌をしたゴブリンに比べて、ホブゴブリンは身長二メートルほどの深い緑色をした筋肉質な人型だ。
パッと見だと人間だな。
ただ侮るなかれ、ホブゴブリンは単体でCランク級らしい。ゴブリンは単体だとDだから急に強くなる。
そしてただでさえゴブリン複数体で困ってるのに、泣きっ面に蜂でポースたちの顔色が悪い。
危険な状況だが、逃げようとしても一本道は塞がれていて逃げられない。
しょうがなく抵抗することにしたらしい。
壁を背にポースとミレスで前線を貼り、オムニが弓で牽制して少しづつ相手を削っていく作戦みたいだ。
私はオムニとおなじ後衛の位置にいる。非戦闘員だが状況が状況なので自衛だけしてくれと言われてしまった。
「グァァ!」
ホブゴブリンが言葉とも言えない声を発してゴブリンたちをけしかけてくる。
部下を押し付けて自分は後方でぬくぬくとは、合理的ではあるがあまりおすすめはしないぞ。
ただこれはポースたちにとっては幸運だろう。一度にこられたらそこで詰みだった。
ポースたちは作戦通りに防ぎながら隙をついては攻撃する感じで耐久していく。
私? 私は気配を消して離脱させてもらう。
そもそも非戦闘員としているのだからいてもいなくても変わらないが、わざわざ厄介事に首は突っ込まない。
彼らには申し訳ないが防衛は三人で頑張ってくれ。救援は呼んでおこう。
「ゲギャッ!?」
「ギャッ!」
影に隠れ闇に馴染みながら彼らから離れる。その際に適当に遠くにいるゴブリンの首をはねていく。
無視して帰っても良かったが、バレないくらいには手助けしておこう。
しかし、ホブゴブリンがどんなものかは気になる。目立ちたくは無いから誰にも見られないところに行けたらいいが。
現状ほとんどのゴブリンはポースたちに集中していて仲間が死んでることにすら気づいていない。
奥にいた二体のホブゴブリンは仲間が死んでることは気づいているみたいだが、私だということはバレていない。
誘導したら来てくれないかな。
ちょいちょい。
「あっ……」
誘い出せないものかと半分ほどゴブリンを殺したところで、残してた後方のゴブリンがクロスボウでポースを撃ってしまった。
何とか陣形を崩さずに復帰しているが、明らかに苦しくなった。
しまったな。私が遊んでるせいで死にかけてる。そもそも別に助ける義理もないが。
……たまにはいいかもしれないな。
「グルァッ!?」
ちょうどポースに剣を振り下ろそうとしたホブゴブリンに向け、短剣を投げつける。
認識外の場所から飛んできた短剣にホブゴブリンが気づくことはなく、首元を狙った刃は頸動脈ごと深く突き刺さり、大量の出血をしてホブゴブリンは倒れた。
「ギャア!」
「グギャッギャッ!?」
ポーズ達の近く、突然の出来事に呆然としていたゴブリン三体に近づき、直剣で首をはね胴を斬り、いつの間にか出てきていた残りのホブゴブリンに接近する。
持っていた棍棒で殴ってこようとするのを剣でいなしながら心臓を狙って助骨の間に剣を刺す。
やはり人と構造が似てるのか、骨に当たることなく心臓を突き刺すことが出来た。
「ギャァ!」
「ふんっ」
剣を抜くと同時にクロスボウを持っていたゴブリンが矢を放ってくるが、それを叩き斬りそのまま直剣を投げて殺す。
最初に殺したホブゴブリンから短剣を抜き取り、一気に最後のホブゴブリンに近づく。
「グルァッ!」
武器を持っていないから爪で攻撃してきたが、肘を使って腕を止め、逆手に短剣を持って首に突き刺す。
そのまま内側に引き裂き、赤い血が勢いよく吹き出す。やべ、ちょっと腕にかかってしまった。洗ったら落とせるかな。
最後に一体ゴブリンが残っていたが、恐怖からか逃げ出そうとしていた。
短剣を投げようとしたら、後ろから矢が飛んで首を貫く。
振り返ると、案外ピンピンとしているオムニと、ポースに手当をしているミレスが目に入る。
傷口に緑色の液体をかけるとみるみるうちに塞がっている。おそらくポーションだろう。
さて、ここからが面倒だ。
「ハァ、ハァ……まずは先に、助けてくれてありがとうございます……お強いですね」
治ったとはいえ、痛みは引かないのかお腹を押えながらポースは立ち上がる。
懐疑的な目でこちらを見ていて、警戒しているようだ。しかしどことなく信用しようとしているところを感じる。
やはり警戒はされるか。
前に宿にいた冒険者から聞いたことがあるが、冒険者の中には実力を隠してパーティーに入り、モンスターに殺されたように扮して冒険者の装備を奪う者がいると。
それらは総じてパーティー内部に潜り込むことからモグラと呼ばれる。
ミレスから剣先を向けられる。
とりあえず両手を上げて敵意がないことを示す。
「……ホブゴブリン三体を一人でなんて、Dランクの芸当では無い。モグラか?」
「待て、そう警戒しないでくれ。ランクの偽造はしていない。すまない、騙すつもりはなかった。冒険者になったばかりでまだ上がってないのだ」
「……本当か?」
「ああ」
見捨てようとはしてたが、ランク詐称はしていない。事実である。
「なぜ俺たちを助けた? あんたなら逃げきれただろう?」
「あ〜……たまたま?」
「……」
まずったか。
険悪なムードが当たりを漂う。
……もう殺すか? そっちの方が早そうだ。
「まぁまぁ! いいんじゃないの! 助けてくれたんだしさ。それに、もしあたしたちを殺すつもりならもう死んでるよ」
未だに警戒し続けるミレスとは反対に、オムニから肯定的な意見が出る。
ポースも言葉には出していないが、同調している雰囲気だ。
「ポーズもか……分かった、信じよう。助けてくれたのは事実だ。剣を向けて悪かった」
しばらく考えていたが、剣を置き頭を下げられる。
ふぅ、良かった。そろそろ面倒になってきて口封じする方が楽かと思ってしまったが、収まってくれそうだ。
「一旦誤解が解けたということで、ここでお願いなのだが、今回のことは黙っててくれないか?」
「……何故だ? 普通の冒険者なら報告してランクをあげにいくぞ」
普通ならランクは上げるに越したことはないからそうするだろうが、私は困る。
「さっきも言ったが私は冒険者になったばかりだ。あまり冒険者についてわかってない状態でランクだ
け高くなっても、面倒事が起きそうだから避けたいのだ」
「……本当にモグラじゃないんだよな?」
「違う」
一般的では無いから信じられない。
私はただでさえ速攻でDに上がったのだ、注目された状態でさらに上がられたらたまったもんじゃない。
高ランク帯は貴族から指名されることもあるらしい。そんなもん誰がやるか。
「まぁ断る理由はないが、ギルマスには報告させてもらうぞ。調査の内容を説明する時に避けられない」
「ギルマス……しょうがないか。ただぼかしてくれよ」
「善処しよう」
ゴブリンの存在証明のために耳を切り落として持って帰るらしい。
帰りは私が先頭になって歩いて行く。
ギルマスに報告……上手く言ってくれることを願おう。