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第10話 泣きっ面に蜂

 こんにちは! 僕はポース。Cランクパーティー『ベラトール』のリーダーです。

 この街、ロヴィーナではここ半年でぐんぐん成長している新人パーティーとして有名な僕達ですが、最近困ったことが起きまして……なんと、メンバーのヴェンが足を捻挫してしまいました……。

 

 しかも原因がトイレ行くために外でたら足元が見えてなくて転んだだけ。

 普段から不注意で怪我しやすいからちゃんとしろって言ったのにこれですよ。



 僕達は四人パーティー、人数制限ギリギリでひとりでも欠けるとパーティーではなくなってしまいます。

 ゴブリンの調査依頼を受ける予定だったのに、このままでは先延ばしになってしまう。


 ちょうど装備の新調にお金は使ったばっかりだし、妹の病気もあるし、報酬が良い依頼だから是非ともやりたい!

 どうしたものかといったその時! パーティーの司令塔であるミレスがとある提案をしてきました。

 

 それは最近巷で噂の冒険者で、銀髪で鮮やかな紫色の目をした人がソロで活動しているらしい。

 宿屋レナトスでお仕事もしている人で、決闘に勝ったかなんかでDランクに最速ランクアップした人との事。

 

 同じ駆け出しだし、その人を一時的にパーティーに加入して貰うという提案です。

 確かに知り合いの冒険者から似た話を聞いたな〜と思いながら、とりあえず会ってみようということになりました。


 

 実際、探してみたら案外すぐに見つかりました。

 少しくすんだ銀髪を肩くらいまで伸ばした、お肌の白い困り眉な美人さんで、ご貴族の方かと思ってしまうほどでした。


 正直急な話だし、べっぴんさんだしで断わられる覚悟を持ってお話してみたら、なんと参加してもらえることになりました!

 

 お名前はカンナさんで、街に来たのも一ヶ月くらい前と、どうりで見覚えがないと思いました。

 冒険者にはなったばかりで、ランクは僕たちの方が高いので戦闘ではなく人数合わせとちょっとのお荷物を持ってもらうことにしました。

 

 構わないとの事で人員不足の問題が解決。思ってる以上に簡単に進んで良かったです。


 いろいろ話し合って、初日はパーティーに入ってもらい、依頼だけ受注して次の日に出発になりました。

 早朝に調査を始めて、できれば油断しているところを狩りたいという作戦です!




 ◆◇◆




 当日の朝、ギルド内で予定の時間より前にヴェンと話していたら、カンナさんがやって来ました。

 戦闘はしないが、一応装備は持っていくと一本ずつ直剣と短剣を持ってです。

 

 名前だけだったヴェンを紹介しているうちにまだ来てなかったメンバーも揃い、いよいよ本格的に動きます。

 軽くギルドで作戦の確認をして、早速出発です!


 

 森に入ってしばらくして、目標の洞窟付近までたどり着きます。

 驚いたのが、最初の方はカンナさんに合わせて動いていたのに、気がついたらもういつもの自然なスピードになっていたことです。

 

 カンナさん、Dランクとはいえ冒険者になってそんなに日が経ってないのに、平然と僕たちに付いてこれるし、動きに全く音が出ません。何者なんです?

 

 とはいえ、ここまで来るのに戦闘もなくスムーズにこられて運が良かったと思います。

 ただ、洞窟には入口あたりにゴブリンが三体ほど居座っています。

 うち二体は談笑中で油断しているようですが、あと一体が周りを警戒していますね……しかも角笛持ち。


 

「面倒ですねぇ……」

「ポース、奇襲を仕掛けよう。角笛を吹かれたら厄介だ」


 

 パーティーの司令塔であるミレスからの提案です。

 僕たちのパーティーは近距離で戦う僕とミレス、そして遠距離のオムニです。

 

 僕たちは茂みを使って近づき、オムニに角笛持ちを打ってもらいます。

 そして混乱した中を一気に叩き込む、いつもの奇襲作戦です。

 特にメンバーから異論はなく、カンナさんは非戦闘員なのでオムニの近くに待機。僕たちは早速配置について取り掛かります。


 

 結果としては、問題なく作戦通りにでき、仲間を呼ばれる前に仕留めることが出来ました。


 辺りの安全が取れたので、一旦集まります。

 思ってるより洞窟が奥深く、あまり情報もなく危険性が高いため、相談が必要だからです。

 今回は臨時メンバーで非戦闘員のカンナさんがいることだし、無闇矢鱈に突っ込むことができません。


 

「洞窟は結構深いですね……途中で道が曲がってて奥まで見れません。今朝の作戦では討伐まで話をしていましたが、どうしましょうか」 

「あたし的には行っちゃってもいいと思うけどね〜。さっきのゴブリンは弱かったし、最悪あたしが火魔法打って逃げればいいと思うし〜」 

「俺は反対だ。依頼達成の条件は調査まででも良かったはずだ。報酬は減るが、情報がないのにリスクを負ってまで行くのは危険だ」


 

 オムニは賛成、ミレスは反対。


 

「私は非戦闘員だからあまり関与はしない。撤退でも進むでもパーティーの決定に従おう」


 

 カンナさんはどちらでもないですか……。


 

「……行きましょう。今回の依頼は討伐までできたらかなりの報酬です。オムニが言ったみたいに最悪逃げれば問題ないでしょう」

「おっけ〜」

「……ポースが言うならそうしよう。危なくなったらすぐ逃げるぞ」

「カンナさんもそれでいいでしょうか」

「ああ、問題ない」


 

 少し迷いもありますが、先に進むことにします。今回の調査依頼は討伐までいけたらBランク相当の報酬です。

 多少のリスクがありますがそれ以上に見合う報酬があります。それに所詮ただのゴブリンです。逃げ切ることに徹すれば容易でしょう。



 洞窟は狭めなので一列で僕が先頭に、ミレスが最後尾にいる形でいきます。

 

 足音が立たないように慎重に進んでいきます。

 この洞窟、思ってる以上に深く、曲がった先も道が続いていました。

 奥は光が届かず、松明で明るさを取っている状況です。しかし、拍子抜けするほどにゴブリンがいません。

 

 なんだか嫌な予感がしてきました……。

 

 

「ゲギャッ!?」

「……ヌッ!?」


 

 後方で鳴る金属同士が当たった音に驚き、後ろに目をやると、先程まで見えていなかったゴブリンが五体ほどミレスに襲いかかってます。

 ゴブリンが奇襲攻撃を?


 

「グッ、ポース、ここは狭い! 一旦引こう!」

「……はっ、オムニ、引き撃ちを! カンナさん、一旦引きましょう!」


 

 突然の出来事に少し動きが止まりましたが、すぐさま引きながら戦う指示をします。

 後ろにはゴブリンがいるので前に行くしかありません。この狭い一本道では一人で五体も相手にできないのでしょうがないです。


 大剣でゴブリンからの攻撃をミレスに受け止めて貰いながら奥に走ります。

 オムニが援護射撃を行いながら先に行くと、光が見えてきます。



 外かと思いましたが、そこは何本もの松明で明るく照らした広い空間でした。

 ……そして十数体のゴブリンに、一体の大柄なゴブリン、ホブゴブリンがいます。一部が暗く良く見えませんが、相当数がいます。

 信じたくありませんが、どうやら罠にかかってしまったようです。


 

「グギャッ! ゲギャギャ!」 

「マジか……ホブゴブリンだと? 十何体のゴブリンだけでもキツイってのに、Cランク級の魔物がいるなんて……どうする? リーダー」 

「……とりあえず固まりましょう。壁を背にすれば完全に包囲されることはないです。一体一体対処すれば、なんとかなる、はずです」

「策は無いか……俺とポースで前衛を維持、オムニは弓で攻撃しながら少しづつ倒すぞ。カンナさんは後ろで待機、守り切れるか分からないから自衛を頼む」


 

 さすが司令塔、すぐさま陣形を取ります。

 後ろから追いかけていたゴブリンも合流し、合計で十五体ほど。

 後から来たものはある程度削っているとはいえ、これでもだいぶきついです。今はまだ動きがありませんが、あのホブゴブリンまでやってきたらもう戦いになりません。


 

「グッ、ハァッ!」

「くそ、まだ減らんかッ!」


 

 複数飛んでくる爪やら棍棒やらを防いでは斬り、防いでは斬りますが、致命傷まではいかず中々数が減りません。

 

 親玉が動く前にある程度まで減らしておきたいところですが、変に追撃しようとして攻撃を貰う訳にはいきません。

 頑張って耐えてはいますが、少しづつ体力が削られていきます。


 

「ハァ、ハァ……ウッ、なん、だ?」

「ゲギャギャ!」


 

 腹部に鋭い痛みが入り、何かと思うと、矢が刺さっています。

 奥の方に小さいクロスボウのような物を持ったゴブリンが見えます。醜悪な顔を笑顔で歪めています。

 どうやら撃たれたみたいです……。

 

 真ん中ではなく浅めだったので引き抜かずに根元を折り、止血処理をしてすぐさま戦線復帰します。

 今は一人でも欠けたらパーティーが崩壊します。痛みに耐えながら戦闘を続けるしかありません。


 

「グルル……」


 

 四、五体ほどゴブリンを倒したところで親玉が動き始めます。拾ったものなのか、ボロボロの鉄剣を持って近づいてきます。


 まだゴブリンだけで五体ほど、ここにホブゴブリンまで入ってくる。が、こちらはもう満身創痍。矢は切れ、出血もしています。

 思考がままならないです……。

 

 カンナさんはいつの間にかいなくなっています。隙をついて逃げたのでしょうか。逃げ切れたらいいのですが。

 しかしここを持ちこたえれば可能性はある。頭がクラクラしますが、あとはここだ、け……。


 

「嘘だろ……?」

「ハァ、ハァ……くっ」


 

 ここさえ乗り越えれば、そう思っていた時。奥の暗くて見えなかったところからもう二体ホブゴブリンが出てくる。

 

 一体でもCランク級の魔物が三体、Bランクパーティーでもなければ対処できません。ましてやただのCランクパーティーだなんて……。


 ほかのメンバーも戦意喪失したのか、武器を構えれていません。かく言う僕も諦めていますが……。

 まだ冒険者になってから一年も経ってないのに、ここで終わりですか……よく言われている新米冒険者の半数は一年以内に死ぬとはこのようなことなのでしょう。


 ごめん、ヴェン。ごめん、サヤ。

 

 こんなことになるならもっと美味しものでも食べさてあげれば良かった……もっと遊んであげれば……


 

 死に際だからか、嫌になるほど頭は冴えていた。

 だからなのか、ひとつの違和感に気がついた。

 

 

 どうしてゴブリンが五体しかいないのか?


 

「グルァッ!?」


 

 ホブゴブリンが鉄剣を振り下ろそうとした瞬間、誰もいなかった洞窟の入口側から短剣が飛んでくる。

 喉に深く突き刺さり、大量の血を吹き出しホブゴブリンは倒れた。


 血が足りず、呆然とした脳にはただただ疑問が浮かぶだけだった。


 何が起きている?

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