OL、異世界転生する
「なんでこんなせかいにてんせいさせたんですか!!ひどいです!!」
3歳の幼い女の子がそう言って長身の男性を詰っているという光景ははっきり言って異様だと思う。
長身の男性は190センチは軽く超えるだろうと言えるほど高く、少し長めの黒髪にキリッとした赤の瞳、鼻はとても高く大人っぽいが、ムッと引き結ばれている口は彼の精神的に幼い部分を表している様で可愛らしい。
そこがまたアンバランスで魅力的。
女の子はこの世に存在を疑うほど美しい。
サラサラとした黒髪、ぱっちりと大きい紫の瞳、鼻筋はスッと通っていて、つやのあるコーラルピンクの唇で、肌は透けそうなほど白く、将来が絶世の美女であることが約束されている容姿。
おまけに大国の王の可愛い1人娘。
この女の子が私、ドリーミー王国第一王女、リサ。この国の王族には苗字は無いのでリサだけだ。アイデンティティが少なくて悲しい。
ニホンで過ごしていた前世の記憶を持って生まれてきた私の脳内では時たま現れている、バクと呼ばれているこの世界の創造主と会話することができた。
そいつを定期的に脳内で罵詈雑言を浴びせていたところ、3歳になった今日、実体をもって現れたので睨みつけている。
「なんであなたはわたしを、そうぞうりょくでれんあいするってゆう、さいあくのせかいにてんせいさせたの!?」
悲壮感を漂わせながら男に詰め寄る。(多分男)
「何でって…。ぶらぶらっと歩いてたらぴかって光ってる魂があったから持ってこよーって思っただけー。でもこの世界、自画自賛じゃないけど、評判良いし、楽しいからだいじょーぶ!なんかあれば俺もサポートするし!」
男は呑気な笑顔で言うが笑い事ではない。
こいつは前世で創造力が無さすぎて会社をクビにされた私を、創造力で結婚相手を決めるという意味不明な世界に転生させた張本人なのだ。
思い出すだけで悲しくなってくる前世での記憶を軽く思い浮かべる。
私は前世ではニホンの広告代理店に勤めていた。
でも出した案は全て却下。
会社の経営が苦しくなると自主退職を促されて会社を去った。
それ以降の記憶は無いが気がついたらこの世界に転生していた。
前世で恋愛していた記憶が無いので今世ではぜっっっっっっっっっっっっっっっっっっったいに世界一の恋をしたい。
この世界というのは目の前の男が作った世界だ。
ニホンはこの世界からすると異世界らしい。
この世界はニホンでの恋愛評価基準に加えて心を通わせた人の夢に入って得る創造力の美しさ?とやらで恋愛を楽しむらしい。
はっきり言ってよく分からないが、とりあえず私のコンプレックスを強く刺激した。
どういうことなのかと周りの人達に聞いても、こいつに聞いても「大人になってから」とはぐらかされる。
色々考えるとモヤっとしてきてつい膨れっ面をしてしまう。
「そんな怒らなーいで。みんなから愛され王女様だから不自由することも無いし、むしろ最&高の待遇じゃない?俺からのお墨付きだしね!」
私はこいつからのお告げによって生まれた、容姿端麗美少女の愛し子だ。
生まれる前のことなので聞いた情報だけだが、全世界の人が知っているらしく、内容は簡単に言うと
「俺好みの超絶美少女愛し子がドリーミー王国の王女として生まれるからよろー!」
ということらしい。
正直この容姿は私好みだし、両親は1人娘にゲロ甘だし、文句と言えば創造力で恋をするという点しかない。
恋愛さえ諦めれば幸せになれる。
3年間考えた結果、創造力が無くても恋愛できるという、とても奇特な人を探すことにした。
実はこんなやりとりは何回もしてきたので諦めの境地にも達しようとしているところだった。
ため息をつく。
「もうこのじじつはかえようもありませんよね。そのかわり、さぽーと、よろしくたのみます!」
3歳らしからぬ諦念を帯びさせたあと、ビシっと決めて言う。
バクは詰られるばかりだった私からそんなことを言われたので、一瞬虚をつかれた顔をしてから、また人好きのする笑みを浮かべながら
「任せてよね!俺の愛し子ちゃん。」
笑顔も声もホワイトチョコレートみたいに甘ったるく、バクはそう言った。
なんとなく契約がちゃんと成立したような、不思議な気分になったので手を差し出して握手を求めてみる。
「あくしゅ。」
今回もバクはまた同じように驚いてからすぐに戻ってニコッとして、
「うん、任せてね。絶対守るから。」
力強くそう言って手を握り交わすと、数秒してから離して、「じゃ、またね。」とひらひらと手をふってからスッと姿を消した。
バクが忙しいのは時たまとはいえ、3年間話してきたのでわかる。
そして私をすごく特別な待遇で転生させてくれたのも実感した。
ただ姿を見るとつい詰りたくなったが、恐らく死んだであろう前世の私の魂を理由は分からないが転生させてくれたのだから感謝しかない。
「ありがとう。」
前途多難だけど。
3年で私はこの世界に転生したという事実を受け入れることができた。
色とりどりのバラが綺麗に咲き誇る王宮庭園のベンチの前で、まだバクの温もりの残る手を確かめながら、この世界での私の人生はスタートしたのだった。
初投稿です!至らないところも多いと思いますが、よろしくお願いします!
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