第二話 新人監督の留守番はやれる事がない
今日は所長の勝田さんと副社長の冬華さんが夕方までいない日だ。
とある現場の一年点検をするために行くらしい。
そのため、何もする事がない。
何もする事がないと言っても、工事写真撮り、昨日怠った仮囲いのシーツを綺麗にすること、その他コマゴマとした仕事はあるが、二・三時間で終わる事だろう。
とにかく、今日やるべき事がない。
なので、一つ、ワシの勤めている会社について少し説明をしよう。
ワシの勤めている会社は新人社員が入ってこず、中途が多い。
ワシが入社して数年ぶりに新人社員を雇ったと言われているほどだ。
そのためか、近い年齢の人も片手で数えられる程度でワシよりも年齢が上の人が多い職場になっている。
会社に入ってからの支給品は仕事用の折りたたみ式の携帯電話いわゆるガラケーと言われるもの、デスクトップパソコン、制服、安全靴、安全帯、と言った必要最低限のものだ。
それだけなのと思っている人もいるだろうが。
一度でも現場に入れば、経費を使って仕事に必要な身の回り物、ペンやメジャーや小物入れ等を買える。
現場所長によっては値段に文句を言われる可能性もあるが。
ワシの初めて勤めていた現場所長は会社の中で一番優しいと言われている、男性の現場だったからか、一・二万もの大金を使っていいと言われて必要な物はある程度揃った。
気前もよく、ワシには優しい人と組ませるようにしている、気を配れる、物腰の柔らかい社長のいる会社だ。
一つ、疑問に思っている人もいるかもしれないが。いや、いないかもしれないが、ワシの働いている会社は父親とは違う会社だ。
それだけは言っておこう。
理由はまた別の機会に話さそうと思う。
さて、会社のちょっとした説明も終わり。
夕方になって、勝田さんと冬華さんが帰ってくる時間だ。
「お疲れさま」
勝田さんが帰ってきた。
冬華さんも帰ってきて、ワシに話しかけてきた。
「多田野くん、今日は楽しかった?」
冬華さんの質問にワシは愛想笑いをしていた。
勝田さんもワシに話しかけていた。
「俺たちがいなくて一人で楽しかっただろう」
「い、いや、そ、そんなことは」
「もしかして寂しかったのか」
「ま、まぁ。寂しかったですね」
ワシの答えに二人は微笑んでいた。
そして、二人は席に座って、残っている仕事を始めていた。
はぁ、あんたはダメね。点検はどうでしたか? の一言も言えない様じゃ。
いま、これを書いている途中に気づいたんだもん、しょうがないじゃないか。
そういうのはいいの、昨日から自分は変わるんだって意気込んでいたのに、これじゃ先が思いやられるわ。
大丈夫だよ。シーツも綺麗に変えたし、今日やっている仕事も慎重にやってたんだから。
何が、大丈夫よ。慎重にやるのは普通のことなの。まずは一歩でもいいから自分から話しかける努力をしなさい。
努力か、頑張ってみるよ。
はぁ、頑張ってみるよじゃなくて……実践しきゃ意味ないのに……。
それから、時間が経って帰りの時間になった。
今日は三人で定時に帰ることになった。
「お疲れさまでした」
ワシは元気よく挨拶をし車に乗って帰った。
ワシは今日も話せなかった。
そんな事を思いながら車を走らせていると勝田さんから言われたある事を思い出す。
「明日の夜、三人で食べようと思ってるけど、大丈夫か」
そうだ、明日の夜は食べに行く予定だった。
その事を思い出したワシは、明日に一つの希望を見出していた。
明日の夜ごはんでどうにかできるのか。
ワシから話出せるのか、二人の会話に入れるのか。
これから先のことを考え。
眠りについた。