第一話 綺麗にするには時間がかかる
ワシの名前は多田野。
今年に新入社員で入った新人現場監督だ。
今は一人暮らしをしている。
今日は五時のアラームで目が覚め、二度寝をした。
それから、五時半のアラームで座椅子から重い体を起こしていた。
「昨日はご飯を炊いていなかったから、早めに起きなきゃいけなかったけど、やっぱり眠たいなぁ」
それから、米を炊き、待っている間に卵焼きを焼き、冷凍食品を温めて、現場に持っていく弁当の準備をしていた。
「早く本格的に料理を作ってみたいな、弁当も今のままじゃ味気ないし、なんかいいの思い浮かべばないかな……」
昨日から弁当を作り始めたワシは、色々と妄想していた。
キャラクター弁当だったら。
やっぱりデ◯モンと少年キャラのを作りたい、と言った絵が上手くもない、描こうともしない人間(多田野)が吐く戯言を妄想していたのだ。
そして、弁当の準備ができ、荷物の準備もでき。
ワシは家から出て現場に向かって車を走らせていた。
誰よりも早く現場の事務所に着きいつものように机を拭いていると。
「おはよう」
いつもより早くきたこの現場の所長だった。
彼の名前は勝田さん。
几帳面な性格で優しくも厳しい人だ。
ワシはいつものようにおはようございますと返事をして机を拭くのを再会していたら。
「おはようございます」
ほんの数秒遅れて現れたのは。
この現場の副所長いわゆるサブとの人だ。
彼女は現場監督では珍しい女性の監督だ。
名前は冬華さん。
気配り上手で会社の中では一二を争う優しさを持っていると言われている。
勝田さんと冬華さんはワシの数百倍は頭が良く、監督に必要な資格を所持できている人だ。
「今日も寒いね」
「そうですねぇ、今日も寒いですねぇ。それに」
勝田さんが一言を話し、冬華さんが軽い返事をした後に世間話を始めていたが、ワシは間に入らずにただ話を聞いていた。
二人とも凄いなぁ普通に会話ができて、……って会話に入る努力をしろよあんたは、なんでそんなこともできないの?
まぁ、ワシは話すより聞くほうが好きだし。
そんな言い訳はいいわけ。それにあんたは話すのが好きなはずでしょ?
それもそうなんだけど、失言とか上から目線の話し方とか気にしてて、それに間にいつ入っていいのか分からないんだもん。
分かったわ、今日はいいけど、いつか自分を変える日を考えるなら、それは直した方がいいわよ。
分かったよ。いつか、ね。
はぁ、こんな調子で大丈夫かな……。
こんな妄言をしているワシは、いつになったら変われるのやら。
それから、朝礼の時間になり。
いつものように職人が集まって冬華さんが朝礼をして仕事が始まった。
今日は新規の職人がいるので現場に入るための書類【会社名や個人情報】を書いてもらい記入ミスの確認と現場のルール説明をワシがしなければいけない。
書類の記入ミスもなく、一通り現場のルールを説明して、最後に
「体調は大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
「それでは、新規説明を終わります。ご安全に」
「ご安全に」
この一連の流れと最後の台詞だけは、どこの現場に行ってもワシの勤めている会社では変わらないと思っている。
それから、書類を事務所に持っていき、ある作業が始まる。
「今から、トラを使うから、この場所に道具一式持って行ってね」
冬華さんがトラを使って何かを見るらしい。
トラとはトランシッドの略であり、距離や方向を見るための測量機である。
ワシはトラとトラを据えるための脚と道具一式が入ったカゴを持って現場に向かった。
「多田野はそこでトラを据えよって」
そう言ったのは勝田さんだ。
ワシはまだトラを数回ほどしか据えたことがない、勝田さんは練習のためにワシに頼んだのだろう。
勝田さんと冬華さんは現場で別の作業を始めていた。
あの作業が終わるまでが、多分タイムリミットか、頑張らないと。
まずは脚を少し伸ばして。
ここの釘に脚の真ん中を合わせて。
次にトラを据えて。
ちゃんと下が見える穴からトラを釘の真ん中に合わせて。
泡を真ん中に合わせて。
この泡を真ん中にやるのが一番面倒くさいんだよな。
何回か脚を伸ばしては縮ませて泡を真ん中に合わせて。
よし、ちゃんと釘が真ん中に来てるかな。
合ってないな、微調整するか。
トラを少しずらし釘の真ん中にして。
スタートを押したら、泡が真ん中にあるかの表示がでるので。
0.10以内になる様に調整をしていると。
「多田野こっちに来い、冬華さんやっといて」
タイムリミットがきてしまった。
勝田さんがくれた時間が過ぎてしまったようだ。
それから、冬華さんがトラを据えている間、ワシは荷物を持って勝田さんに着いて行った。
冬華さんがトラを据え終えると勝田さんが鉄筋を持って冬華さんから指示を貰っていた。
冬華さんが指でどこに鉄筋を打つのかの合図をし、勝田さんが鉄筋を打ち、ワシは荷物を持って打ち終わった鉄筋にスプレーを振っていた。
そこで一つ疑問がワシに思い浮かぶ。
なぜ、所長が鉄筋を打つ役割をしているか。
いつもそうだよなあんたは、少しは自分が鉄筋を打ちますって言ったらどうなの?
でも、打ってて言われてないし、スプレーを振ってて言われただけだし。
はぁ、もっと積極性をもったらどうなの、あんたの倍近い年齢の人が、しかも所長が、力仕事をしているのよ。まだ若いあんたの方が、どこからどうみても適任でしょうが。
そうだけど、自分がして上手くできるのかな。
上手くできるものクソもないの! いつかはしなきゃいけない事をただ逃げてるだけじゃない、どうしてあんたはいつもそう。
……
そんな脳内会話を繰り広げているが、ワシの口は動かなかった。
ただ一言、自分がしましょうか、の言葉が出なかった。
そして、鉄筋が打ち終わり、勝田さんから
「この鉄筋からあそこの鉄筋までPPロープに巻いちょって」
そうか、これは根切りのために鉄筋を打っていたのか。
ワシは何をしているのかの質問もできない下劣な人間なのだ。
だから、作業が終わった後の状況で今している事を判断している。
このままではダメだと分かっている。分かっている……だけなんだ。
PPロープも巻き終わり。
そして、時間が経って昼休みになり、昼食をだべ終わった後に勝田さんがワシに話しかけてきた。
「多田野、俺はもう力仕事無理だわ、だから後の力仕事は任せたきの」
「はい、わかりました」
ワシは少しホッとしていた。
力仕事は任せたという言葉に。
ただ、キッカケが欲しかっただけなのだ。
何かを言い出せるキッカケが。
それから昼休みが終わり。
頼まれた現場仕事をし。
仕事の終わりが近づいた数十分前に三人で現場のある場所に行っていた。
「多田野、こっからここまでの仮囲いしているシートを剥いで、仮囲いの後ろに折りたたむようにしちょって」
勝田さんからシートを撤去するためにまとめておいてほしいと言われた。
こっからここまでシートをか。
まぁ、折りたたむくらいならできるかな
「それと見栄え良く、綺麗に」
勝田さんはよくこの言葉を使う。
なんでも見栄えは一番大事だ。
よく、内面を磨く前に、まずは外見からだと世間では言われている気がする。
それを勝田さんはよく分かっているのだろう。
「じゃあ、あとは任せたきの」
勝田さんと冬華さんは事務所に戻っていた。
綺麗にこの数十分でまぁできるかな。
時間が経ち、作業は終わりを迎えている。わけもなく。
シーツは風で飛ばされそうになるは。
インシュロックは取りにくいわ。
インシュロックを付けようにも届きにくいは。
あぁ、あんまり作業が長引くと、二人のどっちからか電話が掛かってきて、「ひと段落ついたら帰ってきていいよ」か「ひと段落ついたら帰ってきていいぞ」って絶対に言われる。
あんまり、迷惑はかけたくないんだけとな。
「よし、今日はこれでいいか」
できたシートはヨレヨレで見栄えも悪く、綺麗とは程遠い代物だった。
これでいいのか。
一回事務所に帰るか。
ワシはシートが気になりながらもトボトボと事務所に向かっていた。
事務所に着いて椅子に座ると勝田さんから。
「きりが良くなったら帰っていいぞ」
ワシは絶望した。
もう少し作業ができたのではないかと。
自分が早く楽になりたいからとわざと帰ったのではないかと。
それから、ワシは二人を残して事務所を後にし、車に乗って、モヤモヤとした感情のまま、家に向かっていた。
どうして、どうしてワシは。
悩み考えていると
ふと、同じ会社の現場監督の武史さんから言われた言葉を思い出していた。
「勝田さんはゆっくりでも一生懸命やる子が好きだからな、それは覚えといた方がいいぞ」
忘れていた。武史さんから言われた大事な言葉を。
ワシは失念していた。
ゆっくりでもいいんだ。
一生懸命であれば。
そうだ、この気持ちを忘れないためにも、毎日書き続けよう。
明日の自分は今日の自分を超えて、必ず成長してみせる。
そして、ワシの夢を叶える。
これは、一級建築士、1級建築施工管理技士、その他を資格を取り、現場所長となって。
最後にはデジ◯ンの専門ショップを開き、執筆中【構想中】の小説の書籍化、アニメ化、フィギュア化、ゲーム化を達成する物語である。