蛇ノ目剣は裏で暗躍する①
シロツメ草が咲き乱れる野山を、一匹の白蛇と、一匹のハムスターが駆けまわっている。
『アハハハ……待て待て~』
『ウフフフ……捕まえてごらんなさ~い』(※イメージ映像です)
耳をすませば、心地よい葉擦れや、せせらぎの音。
遠くでは、薪を取りにきた人間が、生活に必要な分だけの木を切る音がこだましている。
神々しい白亜の体、宝石のような金色の瞳。
そんな自分を、ふもとの村の人間たちは、「白蛇は神の使い」だと言って尊重してくれていた。
山の祠には供え物が絶えず用意されている。
長生きをしているらしい自分は、すでに「妖」の類に足を踏み入れており、山の生き物たちからも一目置かれる存在だった。
自然に囲まれ、空には鳥が飛び、さまざまな生き物たちが自由に生きる。そんな時代に、生きていた記憶。
――実はずっと、忘れていた。そんな「生」があったことを。
「メモリが抜け落ちている」ことなどどうでもよかったし、そのことに気づいてもいなかったのだが。
廊下で公花と出会い、目と目が合ったとき、雷が落ちたような衝撃を感じて、思い出がフラッシュバックした。
しょっぱなのイメージ映像は、いくらか脚色もかかっているが、おおかた合っているはずだ。
浮き立つような気持ちは、たぶん本当に感じていたはずだから。
(あの頃は、楽しかった、気がするな……)
思い出した記憶は部分的であって、すべてではない。
長い時を生きてきた自分は、抱えるには多すぎる過去がある。
それらは意図することなく忘却の彼方へ流してきたはずなのに、公花と過ごした世の一部の記憶だけ、取り戻せたのはなぜだろう。
それも、はっきりとわかることは自分が白蛇で、公花がハムスターだったということだけ……前後の記憶は雲の中、だ。
公花とはその後どう過ごしたのか、どんな別れをしたのかも、おぼろげで思い出せない。
蛇は一定の寿命を迎えると、古い体を脱ぎ捨てて、新しい生を生きる。
あれからいくつもの世を渡り、いつしか妖の領域からその上の神域にまで達し、気がついたら四百年以上が経っていた。
神に通ずる力――神通力を使う者。
今の自分は、「御使い」とも呼ばれる、人とは非なるものだ。
自分を信仰する、妖の血を引く者たちも現れ、現在では組織化された「蛇ノ目家」の当主として――「蛇ノ目剣」の名で、ここに立っている。
一方、公花のほうは、前世の記憶は持ち合わせているものの、こちらのような特殊事情はないようだ。普通の人間の女の子であり、無駄に運はいいようだが、特異な能力も、今のところ感じない。
ただ遠い昔の記憶をなぜか持って生まれてきたのだと、そう本人は言っている。
それもやはり完全ではなく、こちらと同じく「ほんの一部」のようだ。
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