前世の天敵から逃れられません③
田中が、腰かけていた椅子をくるりと回して、当該人物と目を合わせる。
「ん? あぁ、君は……」
「失礼します。一年一組の蛇ノ目剣です」
「知ってるよ。君は有名だからね。今回の実力テストも全教科満点、ぶっちぎりトップだったらしいじゃないか」
「一般常識レベルの簡単な問題ばかりでしたからね。小学校で習う内容も含まれていましたし、あれで難しいとか言っているやつは、バカですね」
「そうだよなぁそうだよなぁ。日暮、おまえちょっと蛇ノ目くんの爪の垢でも貰おうか?」
「結構です……」
その場から逃げようにも、田中にがっしりと制服の袖を掴まれて動けない。
死んだ魚のような目になった公花を横に、田中と剣は学力談義に花を咲かせている。
「蛇ノ目くん、君のクラス担当の花坂先生は、それは誇らしげだったよ……それに比べてうちのクラスは前途多難そうでねぇ。あぁ羨ましいなぁ」
田中はこちらをチラチラ見ながら、消え入りそうな声で、だが粘着気味にグチグチと愚痴っている。
私立だけにノルマが厳しいのね――なんて、また他人事のように思いながら、早く説教が終わらないかなと考えていると。
剣は、三日月みたいに細めた視線を、公花のほうへと流した。
「事情は聞いていました。先生も大変ですね」
と、笑いを含んだ硬質の声が耳に届く。
なんでもいいから、早く解放してほしい。
もう別のことでも考えていようと、現実から逃避することにする。
(今日の夕飯、なにかなぁ……)
「よかったらお手伝いさせてください。僕、部活動には入らずに、放課後は本を読んでから帰ろうと思っているんです。その間、彼女に勉強、お教えしますよ」
「……はんびーぐっ!?」
驚きのあまり考えていたことが声に出てしまった。
「ちょ、ちょっと待ってください、今なんて……?」
「だから。一緒に勉強、がんばろう? 日暮さん」
勉強を……一緒に……?
いや。いやいやいやいや。なにをおっしゃる、お蛇さん。
ぶるぶるぶるっと、バターになって溶けそうなほどに首を振る。
「いえいえ! そんな滅相もない!」
「ええっ!? そんな、いいのかい?」
被せてきた田中の歓喜の声に、公花の否定(悲鳴)はかき消された。
公花は必死に訴えた。
「せ、先生! 私、陸上部に入ろうと思っていて、もう入部届も出しましたし」
「部活なんてやってる場合か! おまえは今日から勉強部! 陸上部の入部届は回収しとくからな!」
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