剣の異変③
『ただし物事を望むなら相応の対価が必要になります。それは形あるものかもしれないし、目に見えないなにかかもしれない。
あなた自身のみならず、彼女にも影響は及ぶでしょう。力のある者ならいざしらず、無力な彼女には存在に揺らぎが生じ、多くの苦難を伴うかもしれない』
「それでも構わない」
(――自分が守ればいいのだから)
断固たる意志で、そう答える。
『わかりました。……全ては摂理のもとに。紡がれる生命の螺旋に祝福があらんことを』
すると、周囲の霧が強く発光するように輝いた。
思念体が動いたのを感じる。
光が、境界の世界を埋め尽くす――。
目がくらんでなにも見えなくなる前に、蛇は愛しき存在へと視線を向けた。
――彼女の薄い瞼が開き、白く濁りかけた瞳がのぞいた。
『ひとりにして、ごめんね……』
「……ひとりにはならない。ずっと一緒だ」
『またいつか、会えるよ……』
「ああ。すぐに会える」
「『いつか、必ず……』」
最後にそう呟いたのはどちらの声だったか。
「……っ」
愛するものに触れようと身を伸ばした。
だがその前に互いの姿は光に埋もれ、意識も、記憶すらも、奔流の渦中へと押し流されてしまう。
そうして、彼女との別れが訪れた。
時間はかかるかもしれない。けれど、必ず巡り合う。見つけ出す。
そしてまた、一緒にいよう――。
*
カーテンを透かして、白っぽい太陽光が保健室内に差し込んでいる。
職員室で用事を済ませ、消毒液の香りのする仕事場に戻ってきた養護教諭は、休んでいる生徒の様子を確かめるため、ベッドのそばへと直行した。
「蛇ノ目くん、具合はどう? 開けるわよ?」
カーテン越しに問いかけても返事がない。深く眠っているのだろうか。
保健室の常連となった貧血気味の男子生徒。
体育祭の途中で倒れたらしいが、あまり続くようなら病院での精密検査を勧めることになるかもしれない。
顔色を確かめるため、ベッドを囲っている目隠し用の布幕をそっと開けた。
「えっ?」
抜け殻のように布団は膨らんでいたが、休息をとっていたはずの少年の姿は、影も形もなくなっていた。
――まるで煙となって消えてしまったかのように。
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