表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

93/312

14話――王都よりも遠い場所⑦

 今の岩は、恐らくあの執事の剣によるもの。つまりあいつは魔法剣士ということになる。


(ぬかった! それなら確かに、少人数でも問題ねえ!)


 ドルクは、一瞬で女たちの戦力をかなり高めに上方修正する。元来、魔法使いは近づかれたら脆いというハンディを背負っている。故にこそ、高火力で範囲に攻撃出来るのだ。

 一方、剣士はどれだけ強くても……一度に振れる剣は多くて二本。射程だって剣が届く範囲まで。故に素早く、頑丈。

 しかしその双方の性質を併せ持つ魔法剣士は、弱点らしい弱点は無い。強いて言えば、習得に時間がかかることと……どちらもを一流にすることは殆ど不可能という点だけだ。

 逆に言えば、魔法と剣技を一流にまで極めている魔法剣士に弱点は無い。


(今の魔法の速度! 最低でも二級、下手したら一級でも最上位格! しかもアイツ、身のこなしからして剣士が本職! そして剣士としての実力はオレ以上――つまり一級最上位だ!)


 つまり女は……一級の剣士と一級の魔法使いを抱えているような物。そりゃ、この人数に単身で突っ込んでくるだろう。

 すぐさま正面から戦うことを放棄し、人質がいるというアドバンテージを最大限生かすための陣形に切り替える。


「テメェら、動くなよ! この人質がどうなるか――」


 背後を示しながらそう言った刹那、フィンガースナップの音が響く。この鉄火場、まばたきなんてしていない。目を離してもいない。

 だというのに、人質が全て消えて……女の馬車の背後に移動していた。


「なぁっ!?!?」


(空間転移の魔法――だと!?)


 一人、移動させるだけなら……二級以上の魔法使いでいなくはない。しかし複数人を移動させるとなると、超級の魔法使いでも聞いたことが無い。ドルクが第一騎士団にいた頃、もっとも腕の立つ転移魔法使いが最大三人だった。


「だーかーら! なんでイザベル様は考えないで突っ込むんですか!? あの悪人面の野盗が実は被害者だったらどうするんですか!?」


「全部、グラッスで観測してから突っ込んだじゃない、ちゃんと」


 後ろから出て来たのは、十歳くらいのチビ。杖を持っているところからして、超級魔法使いは奴だろう。

 そして、非戦闘員だろうか。その後ろからメイドも出て来た。


(か、可愛い)


 トップクラスに可愛い女だ。流石にアレが戦闘員はありえまい。ということは、一級魔法剣士が一人に、超級魔法使いが一人。


(チッ、足を潰すか)


 既にドルクは、部下を捨てて逃げる算段を付けていた。魔力を剣に籠め、連中の足元をめがけて斬撃を飛ばす。


「フッ!」


「おや、そんな非効率的な技――さては騎士団堕ちだね?」


 執事が涼やかな顔で岩壁を地面から出現させる。当然のように斬撃は阻まれるが――その隙をついて、村人に紛れ込んでいた部下が立ち上がる。


「動――がぁっ!?」


「ぎゃああ!」


「――殺気がダダ洩れだ。オレの部下にはいらんな」


 しかしすぐさま、ナイフが肩に刺さって倒れ伏す。よく見ると、メイドが太もものベルトからナイフを取り出して投げていた。


「いいわねぇ、スリットから見える生足。やっぱりロングスカートの下は生足よね」


「……イザベル様、なんでこんな時なのに呑気なんスか」


 気づけば、部下の殆どは……超級魔法使いの手によってだろう。自分の後ろに転移させられていた。


「さて、まだしとく? 無駄な抵抗」


 一人で近づいて来た美女は、勝ち誇ったように笑う。ドルクは歯を食いしばりつつ、屈服したフリをして剣を降ろした。

 ――あの女を人質にして、形勢を立て直す!


「降伏してもいいわよ? その場合は、ちゃんと自分で穴を掘って埋ま――」


 ――今!

 手が届く範囲に近づいて来た美女の肩を掴み、剣を喉元に突き付ける。次の瞬間訪れたのは、腹部への衝撃だった。


「がっ……はっ……」


 魔法防御がかかった、鋼鉄の鎧が粉々に粉砕される。あまりの痛みに失神することも出来ず――脳内に浮かぶのは、まだ新兵の頃の記憶。

 第一騎士団としてオーガを退治しに行った時に喰らった、敵の拳。あの時の数十倍の衝撃が、ドルクの全身を貫いていた。


「お、あ……」


 朦朧としながら、手に掴んでいる物に体重をかける。倒れないよう、支えにしようとして――


「ちょっ、近づくんじゃないわよ!」


 ――顎に拳が突き刺さる。空中で十回転し、地面に叩きつけられた。

 そのまま意識を手放そうとし――たところで、腰骨に衝撃が奔る。美女に踏みつけられたらしい。


「ぎゃあああああああああああ!!!!」


 自分の叫びで目を覚ます。下半身が動かない、身動きが取れない。


「あ、あ、ゆ、ゆる、ゆるじで」


 呂律が回らない、痛みで意識が定まらない――気づけば、ドルクは大粒の涙を流していた。この一瞬で、完全に心をへし折られていた。


「ゆるじで、ぐだざい……も、もうわるざじまぜん……」


「さっき、言ったわよね? 降伏するなら、どうするんだっけ?」


 美女の笑顔。教会で読まされた、聖書に載っている悪魔よりも悪魔の顔をしていた。


「あ、あ……あ、あな……ほりまず……」


「掘ります? いいのよ? 別に嫌々掘らなくても。掘りたいって思うまでやっつけるだけだから」


「ぼりまず! ぼらぜでぐだざいいいいいいい!!!」


 泣きながら、涙を流しながら懇願する。そんな様子のドルクを見て、悪魔は楽しそうに嗤った。


「ダメ。やっぱ蹴るわ」


「うがあああああぁぁぁああああやめ、あああああ!! だずげで、だれがだずげでえええええええええええええええええ!!!」


 絶叫が天に響く。

 その声が、誰かに届くことは無かった。

「面白い!」、「続きを読みたい!」などと思った方は、是非ブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!

していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新が速くなるかもしれません!

是非よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ