14話――王都よりも遠い場所⑤
「いやぁああああああ! やめて、やめてください! 夫が死んでしまいます!」
「お父さん、お父さん!」
「黙ってろ!」
泣きわめく娘と母親。それを眺めながら、野盗であるドルクは自分の下で倒れ伏せる男を踏みつけた。
「う、ぐ……」
「テメェらが黙らねぇからだ。次、口を開いたらこの男を殺すぞ」
そうやって脅しをかけると……母娘は目に涙を浮かべながら、必死に口を閉じる。ドルクはその光景を見て、たまらず笑い出した。
「がははは! そうやって黙ってればいいんだ。んー? ほら、次は誰かいねえのか。勇気ある男はよぉ! はっはぁー!」
ドルクの前には、この村の人間たちが正座させられて並んでいる。全員頭の上で手を組み、恐怖のままただただ俯いていた。
足元の男は、ドルクたちが乗り込んだ時に反抗してきた男だった。こういう馬鹿がいると、見せしめがしやすくて大変助かる。
「お頭ぁ! 金目のモン、集めてきやした!」
「おう、よくやった」
三十名ほどの、小さい村だ。正直、金目の物に期待は出来ない。
しかしドルクは、こういう小さい村を狙って盗賊を行っていた。
「んじゃあ、テメェが村長か? ちょっと来い」
この中で最も年嵩の老婆に声をかける。彼女はジロリとドルクを睨みつけると……足を引きずりながら前に出て来た。
「なんじゃ、ワシを殺すか?」
「いーや、生い先短いテメェを殺しても何にも楽しくねぇ。それよりも、毎月納めてる税の量を教えろ。それだけは見逃してやる」
「……なんじゃと?」
怪訝な顔をする老婆。ドルクは、こうしてまだ理解出来ていない……今から、永劫の奴隷となる無力な人間を眺めるのが好きだった。
「だから、これから先……税の分だけは見逃してやるが、それ以外は全部オレたちに納めろって言ってんだよ」
そう言って笑い出す、ドルクの仲間たち。老婆は目を見開くと、杖をついてドルクに突っかかって来た。
「ふ、ふざけるな! そんなことをすれば村はどうなる!」
「ああ!? ジジババを口減らしすれば問題ねエだろ! あとは女だ、女さえ差し出せば……その時だけはテメェらに食料を恵んでやる」
老婆の杖を蹴り飛ばし、転ばせる。無様に転倒する老婆を見て、ドルクたちは再び笑い出した。
後ろの村人たちは、目を伏せて必死に声を殺している。一人でも騒いだら、それを口実に老婆を殺そうとしたのだが……そこは残念だ。
まぁ、そんなことしなくても殺すのだが。
「分かったか!? この村は、未来永劫オレ様たち、一級賞金首「ドルクブラザーズ」の占領下なんだってことだよぉ! いいか!? 女どもはガキを産め! その産まれた奴らも未来永劫オレ様の奴隷だ! 分かったか!?」
仲間たちとともに大笑いする。事実を理解した村人たちは、声を出すことすら許されていないのでただ泣くことしか出来ない。
マングーは領地騎士団が充実している。しかしそれ故に、国の騎士団があまり機能していないという弱点がある。ドルクがこうして小さい村を狙うのは、そういう理由があってのことだった。
(野心は少なく、欲望は大きく。それがシノギを長続きさせるコツさ)
ドルクはにやにや笑いながら、捕らえた村人たちを眺める。
「さて、それじゃあ……テメェだ。前に出てこい」
そう言って切っ先を向けられたのは、足元で倒れ伏している間抜けな男の娘。
女はオドオドしながら手を解いたので、地面を剣で叩いた。
「誰が手を降ろして良いと言ったァ!!」
「ひぃっ!」
慌てて手を頭に付け、泣きながら出てくる女。ドルクはその女の服を掴むと、真下まで引き裂いた。
「あぅっ」
「な、何をす――ぐぁっ!」
間抜けな男が呻いたので、後頭部を剣の腹で殴る。
「いいか? テメェが生かされてんのはな、目の前で娘が犯される姿を見せるためなんだよ。ピーピー喋んじゃねえぞ」
「き、貴様ッ! 貴様ぁああああぐぁあああああ!!!」
「だから喋んなっつってんだろ!? 娘が殺されてもいいのかー? んー?」
女の首筋に剣を当てると、間抜けは憤怒の形相のまま歯を食いしばる。
その様子がまたおかしくて、つい笑ってしまう。そして良い気分のまま、女に命令した。
「ほら、服を脱げ」
「は、はい……」
泣きながら、服に手をかける女。ドルクはその姿に少しムッと来て、また間抜けの頭を剣の腹で殴りつけた。
「なんで嫌々脱いでんだ? あ? いいんだぞ? 脱がなくても。そしたらこの男が死ぬだけだからな」
「! や、やめてください! お父さんを殺さないで! 脱ぎます、脱ぎますから!」
「脱がせてくださいだろうが!!」
大声で恫喝し、恐怖する様子を見てまた笑う。そしてひとしきり楽しんだ上で、凌辱するため手を伸ばしたところで――見張りに就いていた部下が、血相変えてこちらへ来ていた。
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