12話――レージョーズ・エンジェル③
「まとめるわよ。今後、全ての娼館に領法を適用する。カムカム商会の娼館は全て、その領法に準拠して行う。そしてカムカム商会の客層は『中流以上の冒険者』に絞るわ。価格を少し上げる代わりに女の子のレベルとサービスを向上させる。ここから徐々に、ね」
女の子の報酬を上げる代わりに、可愛い子を揃える。今までみたいな薬漬けシャブ中の子よりも、圧倒的に良いサービスを提供する。
すぐに路線を変更すると客が離れるから、少しずつに――だけど。
「最初は女の子の価格帯を分けて、高いお金を払えば高いサービスと綺麗な子がいるって客に植え付ける。年単位……下手したらもっとかかるでしょうけど、最終的に『中級以上の娼館』を目指すわ。高級娼館と普通の娼館っていう二つのグレードしか無いからね、その間を狙うわ」
コンセプトは『ワンランク上のサービスを』とかかしらね。高級娼館って貴族とかが呼びつける者だから、サービスよりも機密保持性を売りにしてるところあるし。
「こうして単価を上げれば、女の子へ経費を使ってもペイ出来るようになるはずよ。というわけで『女の子の待遇を改善しない』ことへの明確な反論があるなら聞くわ」
需要と供給、購買層のターゲッティング。これらの説明を踏まえた上でこう言えば、殆どの店長たちは首を縦に振った。
なんせマーケティングなんて概念が殆ど無い連中だ。「俺たちが現場を見ている、俺たちが一番現場を知っている」――それしか反論する言葉を持たない連中は、客観性のある(ように見える)データや戦略を出されたら、何も言えなくなる。
勿論、私の計画なんて穴だらけなのは理解している。なんせ経営なんてやったこと無いんだもの。でも、女の子たちを守る法律はどうせ施行するのだ。それに合わせた店づくりを先にやっておいた方がスタートダッシュで出遅れることは無い。
「……もちろん、私の言った通りにして売上が落ちても詰めないわ。今まで通りの給金は払うし、売上が上がれば待遇アップも約束する」
そのうえで自分達の待遇を保証されるのだ。後は私を信用してくれるかどうかだけれど……今までの店長たちは、これで首を縦に振った。
ヤクザよりマシって思ってくれるのかしらね。
だから――
「しかし……ですね。やはりそんなことをすれば……その……」
――こうして更に食い下がる奴には、待遇だけじゃない何か別の理由があるのだ。
これまでの経験上、こういう輩は3パターンに分かれる。
まず女を本当の意味で商品としか思ったことが無いパターン。人間と同じように扱うことを、本心から理解出来ないのだ。
そういう奴は、そもそも私が来た時点で話を聞かない。女に何が分かるって態度で門前払いしてくる。
次に自分が女に好き放題したいパターン。今まで自分のハーレム(失笑)くらいに思っていたテリトリーを荒らされて怒る奴。
そして最後は……。
「あんた、うち以外にケツモチがいるわね?」
……既に別の商会(という名のヤクザ)に乗り換えているパターン。
「っ!?」
肩を震わせ、驚いたように目を見開くジーミー。殆どの場合、この手の輩はオルカがいた頃から別の商会に世話になっていたりする。それ故、乗り換えも速いのだ。
私はため息をついて、首を振る。
「別に良いと思うわよ? 新しい御主人様を見つけたんならそれで。……でも、それならこの店から出てって貰うわ。ここの店の屋号、カムカム商会だからね」
「そ、そんなことが許されるはずが!」
「許されるに決まってるでしょ? うちじゃない所に雇われるんなら、カムカム商会で給料払うわけ無いじゃない」
手をテーブルについて、身を乗り出すジーミーだが、私はその意見をバッサリと切り捨てる。
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