12話――レージョーズ・エンジェル①
ゴブリン騒動から約2週間。私達は今日も忙しく働いていた。
「しかしそんなことでは、利益が出ません!」
「だから、言ってるわよね? 領法で娼館のルールを変更するのよ。娼館を無くしたら性犯罪が増えるし秩序も失われる。だけど今だって秩序が保たれてるとは言い難いから秩序を作ろうって言ってるの」
「ですが……!」
そう言って食い下がる、四十代半ばの男。カムカム商会系列の娼館の一つ、「濡」の店長であるジーミーだ。
カムカム商会の抱える娼館は表裏合わせて五〇を超える。それら一つひとつ、こうして回らないといけないから食い下がられると面倒なのよね。
「ここまで変化させてしまえば、到底集客など見込めません!」
テーブルに身を乗り出し、首を振るジーミー。今私たちがいるのは、少し狭い応接室。ローテーブルを挟んで一人掛けの椅子に座り、対面している。
「そうかしら? 私の言った通りにしても、殆ど変わりが無い――むしろ改善すると思うけれど?」
私の出した条件は、大まかに言えば「性病予防」と「衛生面」、そして「プレイ内容の非暴力化」だ。
ほとんどの――というか余程の高級娼館でも無い限り、プレイにNGは無しだ。
殴ろうが首を絞めようが、縛ろうが思うまま。薬を打ってもいいし、仮に殺してもほぼお咎めは無い。流石に出禁になると思うけど。
そこにNGを付けると言うと、決まって店長たちは首を横に振るのだ。
「イザベル様は現場をご存知ないからそう言いますが……! 殆どの娼館は女をモノ扱いしています! だというのに、うちだけそこのサービスを削るなど!」
「あんたこそ、誰に口聞いてるの? サービス業を履き違えてんじゃないわよ」
このセリフもまたテンプレート。現場に出ない人間に何が分かる、理屈通り店が回るなら苦労しないと。
これに関して言えば……正直、私も前世で働いていた時は何度も思った。現場を知らない経営者が勝手なことを言っていると。なるほどね、自分が経営者側になって初めて分かるわ。
あんたらとは見えてる情報量が全然違うのよ、と。
「現場で働いたことが無いから、現場の肌感覚は分からないわ。でもね、さっきも言った通り『その業態じゃ違法になる』の。分かる? 今までは合法だから許されていたの。でもね、違法になればお客さんは来なくなるわ。なんでだと思う?」
前世では春の売り買いがあった場合、買う側は罪に問われない(相手が未成年じゃなければね)。だからこそ、そういう商売が成り立つ部分がある。
つまり、客側が違法になるとなった時に――そのサービスを受けたいと思う人間がどれくらいいるのか。
「いい? 客ってのは『安全に』遊びたいの。わざわざレイプしないで店に来る時点で、モラルを理解している。そもそも、娼館に来るのはそういう連中よ」
女は抱きたいが、リスクはごめん被る。そういうリスクヘッジが出来る連中が、メインターゲット。
不都合が生じるなら話は別だが、『嬢を殺さない、怪我をさせない』くらいなら問題ないだろう。
「認定を受けていない店で女の子を買ったら違法。そうなったら別の領地で娼館に行くだけ――ってなるかもしれないけれど、そこまで流出しないと思っているわ。だって、『好き放題したい』から女の子を買おうって奴は、奴隷買うもの」
この世界では奴隷を買える。正規奴隷であれば人権なんて無い、物として扱われるのだから何をしたっていい。
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