11話――1upスタート⑥
「とはいえ普通の人は、まとまった現金を持ってることは少ないわ。狙い目は小さい商いをやっている商人ね。商会ギルドに登録出来ない、する必要が無い程度の小規模商人よ」
イメージとしては、地方の信金を作る感じ。地場の商店なんかから小金を集めて中央に集約して運用。
「そしてもう一つ、そういう小さい商人に卸している商会なんかもね。ギルドでは当たり前に行われている掛け取引や手形の発行を請け負うわ。こうやって小さい所から切り崩していくの」
私の説明に、今度は頭の上にはてなマークを浮かべる皆。まぁ今のは理解してもらおうと思って言ったことじゃないから良いけど。
咳払いして、笑顔を浮かべる。
「というわけで、目標は分かったと思うわ。町長、アンタにはその金庫――銀行を作ってもらう。あっちの離れでも改装すれば十分出来るわ。そして『菫の蜜』には、集めたお金を守る役割を担ってもらう」
「おお、なるほど。それならあたしらでも出来ますね!」
「金勘定しないといけないかと思ってヒヤヒヤしてた」
ホッとするチコリーとポッカ。そりゃ難しいことをやらせるわけないじゃない。
一方、町長は少し不安そうだ。
「確かに税の徴収などをやっていますからお金の扱いはそこそこ出来ると自負しておりますが……。出来ますでしょうか」
「大丈夫よ。というか、その税の徴収も楽になるわよ? なんせ預けて貰ったお金から引き落とせばいいんだから」
再度頭をひねる町長。
「金庫って言ったけど、個別に鍵をかけるわけじゃないのよ。お金は一か所に纏めて、帳簿で管理する。そして――仮にAさんとするわね――税の徴収日になったら、Aさんの帳簿から必要な額を私の帳簿に移動させるだけ」
ボードに図を書いて説明する。銀行のもう一つの機能ね、帳簿上でのみやり取りすることで煩わしい金銭勘定をしなくて済む。
「それは……便利ですな」
「人手が必要になったら言ってちょうだい。ちょうど、私に命を救われた女の子は大量にいるから」
カムカム商会から被害に遭っていた子と、ゴブリンの被害に遭った子。これだけいれば、取り合えずは大丈夫でしょ。
後は他の町でも同じことをするために、コネ作りや財務の正常化が必要だけど……。ま、それはなんとかなるわね。
町長もやることが明確化してきたからか、納得したように頷く。
「この銀行を小さい町からどんどん作っていくわ。表向きは、徴税の簡略化のためと言って。武力を増やす必要もあるし、すぐにとは言わないけれどね」
私はパンと手を叩いて、前を向く。
「というわけで、今回の件の恩返しはこれでいいわ。当然、町長は後進に任せられる人が出てきたら経営を代わって貰っていい。『菫の蜜』の皆には、暫くは変わりがいないから働いてもらうわよ。当然あんたらにはお給料出すわ」
「ほ、ほんとか! それなら、アシェリーが治るまで危険なクエストを受けなくていい!」
嬉しそうに笑うチコリー。ポッカも目を輝かせる。
「よぉし、マータイサ銀行マヤサ支店、開業ね!」
ちょっと金を引っ張るだけのつもりだったのに、思わぬ収穫だわ。
私は新たに出来た仲間を見ながら、満足して頷くのだった。
「……本当の意味で内政的なことしたの、これが初めてじゃありませんか?」
言わなくていいのよそんなことは!
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