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39話――沈黙のイザベル⑥

283部分


 ため息をつきながら言う。途中で熱くなって、無駄に言い返しちゃった。

 まぁでも、大分見えてきたものもあるし……そこを中心に調べたら――


「イザベル、キミは女だから知らないだけだ! 武力とは暴力なんだよ!」


 ――がたっ! と立ち上がり、こちらへ掴みかかってくるセイムス男爵。

 胸ぐらを掴み、椅子に押さえつけられたので、私は反射的に膝蹴りを胃に叩き込んでしまった。


「がばふっ!?」


「あっ」


 真上に吹っ飛び、天井に突き刺さるセイムス男爵。その振動でパラパラと砂が落ちてくる。

 ……生きてるかしらね、これ。


「おじさまー? 生きてますー?」


「…………! ……!」


 取り敢えずジャンプして足を掴み、そのまま下に引き抜く。

 ずぼっ! と勢いよく抜けたセイムス男爵は、地面にべちゃっと叩きつけられた。


「ああもう、おじさま知らないんですか? 女の子に暴力を振るおうとしたら、こうなるんですよ?」


「いやこうはならない! ウップ……う、うげぇ……」


 勢いよくツッコミを入れて、そのまま吐いてしまうセイムス男爵。そして痛くて蹲ってすらいられないのか、涙を流しながら吐しゃ物の中に倒れ伏した。

 ……流石にこれはちょっと同じ空間にいたくないので、私はアクアとウィン、フレアを呼び出す。


「取り合えず全部いったん乾かして、その後に水で丸洗いね。じゃ、やっちゃって」


「な、なんだ……それは……?」


 私の使い魔たちを見て驚いているセイムス男爵だけど……彼の許諾を得ずに高温と風で吐しゃ物を全部乾かす。


「うあちちちちっちちいちちいちいちちち!」


 乾かした上で、吐しゃ物を全部燃やし尽くした。これで後は――アクアが生み出した水流で服ごとセイムス男爵を丸洗いにすればOKね。


「げぼごぼがぼっ!?」


 水流をぶつけられてひっくり返るセイムス男爵。洗濯機で丸洗いにされたのかってぐらいグルングルンとなっている。

 窓の外に汚れた水流を流し、ぐしょ濡れになっているセイムス男爵をもう一度乾かして処置完了。

 地面にもう一回落とすと、セイムス男爵は、お腹を押さえて涙を流しながら私を睨んでくる。


「な、なんてことをするんだ……!」


「自分でわたくしに暴力を振るっておいて、反撃されたら文句ですか?」


「違う! ぼくはあくまでキミに武力の怖さを教えるためにやっただけだ! キミの無知を矯正ただすためにやったんだ! それなのに、それなのにこんな暴力を奮うなんて……!」


 目に怒りを込めてぶつぶつと言ってくるセイムス男爵。

 そのあまりにも身勝手な暴論に……私は流石に我慢出来ずに舌打ちしてしまった。


「ああもう……」


「……? い、イザベル。今の舌打ちはなんだ? 貴族の淑女として、そんな……」


「ああああああ!! ガタガタガタガタうっさいわね! いい加減にしなさいよ!」


 とうとう我慢できず私が怒鳴り声をあげると、セイムス男爵はビクッと体を震わせてお腹を抑えた。蹴りゃしないわよ、たぶん。

 私は腕を組み、セイムス男爵をジロッと睨む。


「別にアンタの考えがダメって言ってるんじゃないのよ! ただ現実として、もっともコストが低く現状の問題点を打破出来る方法が騎士団の再結成なの! 分かる!? 政治や行政ってのは色んなことを同時に進めなくちゃいけないの! そのためにはある一部分で百点満点を叩き出すんじゃなくて、全ての分野で六十点以上を取る必要があるわけ! 分かる!? そのやり方じゃ別分野が零点になるのよ!!」


 もちろん理想論は必要よ、じゃないと目標を定められなくなるし、改善案が出なくなる。

 だから色んな人が話し合って全体の方向を定めるんだから。


「しかし、その、センタルハーナ共和国では……」


「だからセンタルハーナは他国! ここはソウテン王国よ!」


 アホ過ぎて何も言えない。私はセイムス男爵の胸ぐらを掴み、持ち上げた。


「ひっ、えっ、ひっ! あ、足が、足が!」


「武力とは暴力? 当たり前じゃない。暴力を知らない? あのねぇ、暴力を知らないようで淑女が務まると思ってんの!?」


 そう言いながら私はセイムス男爵を地面に叩きつけた。そして耳の真横をハイヒールで踏みつける。

 ガン! と床に穴が空いてセイムス男爵はジャーと股間を濡らす。


「い、いやでも……」


「別にいいわよ、どんな思想でも。でも、女の子に手ぇ出すのは許せないわ。いい? どんな理由でも暴力はダメなの。特に女の子には絶対ダメなの! 分かった!?」 


「……ひゃ、ひゃい」


 目に涙を浮かべ、プルプルと震えるセイムス男爵。

 私はか弱い乙女の代表として、彼の顔面をわしづかみにした。


「ご存じですか、セイムスおじさま。貴方の自治地では盗賊団が旅人を食い物にしておりましたよ」


「……な、なぜ? うちの自治地は……誰も、悪人なんているわけがない。だって、そんな人間住まわせていない。ぼくの理想に共感してくれた人しか……」


「関所も置かず、どうやって出入りを制限できるとお思いですの?」


 私が言うと、今度こそセイムス男爵は黙り込んでしまう。そんな彼をソファにぶん投げ、私は対面に座った。

 涙を流して俯くセイムス男爵。きちんと整えられていた頭髪はぐしゃぐしゃになり、痛みと苦しさからか目から顔色は真っ青になっている。


「はぁ……最後に聞かせてくださいな。そこまで貴方がセンタルハーナに入れ込んだ理由はなんですの?」


 私が呆れながら聞くと、彼はビクビクしながらも口を開く。


「……ゆ、友人が。センタルハーナに行ってから、その……とても熱心に進めるようになって」


「ご友人が。なるほど、承知いたしました」


 センタルハーナに行ってから……はぁ、本当にきな臭いわねぇ。

 私は残っていた紅茶をグイっと一気飲みし――立ち上がってから、ぺこりと頭を下げる。淑女として、これ以上ない程美しい所作で。


「おじさま、やり過ぎて申し訳ありません。しかしこのわたくしは、国のために領地のために身を粉にして働いております。これから先、再度おじさまにお助けいただく日も来るかと思います。その時はまた、よろしくお願いいたします」


 後は何も言わず、私はさっさと部屋を出てしまう。

 これ以上この部屋にいると、もう一度ぶん殴ってしまいそうだから。

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