39話――沈黙のイザベル③
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紅茶を楽しんでいると、セイムス男爵が少し神妙な表情で話しかけてきた。
「どうされましたか?」
「キミが領地騎士団を復活させようとしているという噂だ。事実かい?」
ああ……。
まぁ別に口止めをしているわけでも無いし、知っててもおかしくないわね。
とはいえ、シアン曰く彼は領地騎士団撤廃に協力してくれたという話。流石に不義理だし謝っておくべきか。
「すいません、以前はその……騎士団を解散させたお金で福祉を充実させられると思っていたのですが、見積もりが甘くて……」
取り敢えずテキトーな理屈を並べて頭を下げる。実際にシアンがどんな理屈で騎士団を解散させたのか知らないけど。
しかし眉にシワを寄せて首を振るセイムス男爵。
「そうじゃなく……騎士団を作るなど、武力を持とうとするなど一体どうしてそんな非道なことが出来るんだ! あの日、ぼくらと志を共にしたんじゃないのか!」
武力を持つことが非道……? この人、何を言ってるのかしら。
うちのレイラちゃんの所業を聞いたら卒倒しそうね。
「えーっと、セイムスおじさま。何を仰っているのかがわたくしにはちょっと……」
取り敢えずとぼけてみるけど、セイムス男爵は悲しそうな顔になって首を振った。
「あの時……理解してくれたと思っていたのに。だからぼくを頼ってくれたと思っていたのに。武力なんて持ったら、他国が攻めてくるかもしれないじゃないか! キミは平和に暮らしたいんじゃないのかい!?」
「…………」
今にも泣きそうな声。いやどういう理屈よ。
そもそも現在の外交関係は安定しているし、強いて言うなら軍事国家のセンタルハーナが攻めてくる可能性があるくらい。それなのに軍備を持ったら他国が攻めてくるって……。
(冗談……じゃ、なさそうね。本気で言ってて、本気で悲しんでそう。ってか、だから盗賊がいたのね)
彼が一体どういうロジックでそんな思想になったのかはわからないけど、取り敢えずあの盗賊が自治地内で暴れていた理由が分かった。
この人、私設騎士団持ってないのね。
「えーっと、他国がどうなるかは分かりませんけれど治安を維持するためにはどうしても必要でして」
「第二騎士団があるじゃないか。アレ以上の武力なんて必要ない」
いや無茶な理屈を言うわねぇ。
確かに第二騎士団がいれば最低限の治安は保全出来るけど、あくまで最低限。個人で軍に匹敵するような武勇を持つ犯罪者や、魔物がいる世界では本当の有事の際に対応が後手に回ってしまう。最高指揮権限を持っている人が別の場所にいるからね。
それに、普通に領法を破った人を取り締まれないのはシンプルに行政上面倒。




