38話――からかい上手のイザベル様⑤
取り敢えずマリンとユウちゃんが下りて、そのオッサンの話を聞きに行く。
「どうされましたか」
「魔物でも出たッスか?」
「おお……執事さん、メイドさんですか。騎士様はいらっしゃいませんか!?」
外見だけならおよそ戦闘員に見えない二人が出て行ったからか、少し困惑した様子のオッサン。しかしすぐにユウちゃんが帯剣していることに気づき、笑みを浮かべた。
「よ、良かった……! じ、実は魔物に息子を浚われたんです! 一瞬で全ての積荷を破壊され、護衛の冒険者は殺されて妻も……うう、おおおおお!!」
泣き崩れるオッサン。息子が浚われたとは、穏やかじゃないわねぇ。詳しい話を聞くために立ち上がろうとすると、カーリーから袖を掴まれた。
彼女はむすっと唇を尖らせ、ジト目を向けてくる。
「ウキョートですから、ウキョートの領地騎士団か第二騎士団に任せるべきです。もしくは、どうせセイムスさんの自治地でしょうから……セイムスさんのところの騎士団に任せるか」
「その通りね」
そう言いながら、私は立ち上がる。
「でも長旅で疲れたのよ。ストレッチしに行きましょう?」
「……これ、普通の人なら『照れ隠し』に見えるんですけど、イザベル様本気でフラストレーション発散しに行くだけですよね」
当たり前じゃない。私はどちらかというとインドア派だけど、一日馬車の中にいると気が滅入るのよね。
ちょっと運動しないと、逆に疲れちゃう。
「魔物の正体も分からないのに、助けに行くんですの?」
「別に大丈夫よ。私達、最強だし」
私がそう言うと、ちょっと機嫌がよくなるカーリー。彼女はシアンを引きはがし、一緒に馬無し馬車の外へ。
シアンとレイラちゃんも、ひょこっと外へ降りて来た。
「それじゃあ案内してもらいましょう」
「……お、お嬢様もおいでなさるので?」
シアンを見ながら言うオッサン。私は彼の顔面をわしづかみにし、無理矢理こちらを向かせた。
「ええ、自ら現場に足を運ぶタイプですの。お嬢様のわたくしは!」
「ひっ、えっ、あっ、そうなんですね……」
しどろもどろになるオッサン。後ろで「まぁ、淑女っぽくは無いですよね」とか「そりゃ脳筋筋肉お嬢様じゃあ……」とか「女神は人格面はともかく、令嬢らしさは無いからね」とか聞こえてくる。ええい、うるさいうるさい。
シアンは私の方を見ると、ちょっとドヤ顔をしてくるので……こっちにも軽くヘッドロックをかけておく。




