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番外編 後編 無敵の笑顔②

 私は窓ガラスをぶち破り、部屋の中へダイナミックエントリー。するとそこでは、パン一の男が殴られており……可愛い女の子が、下着姿で土下座させられていた。


(リンチ? 拉致? とりあえず、ヘマをしたバカが自分の女を巻き込んだってことかしら?)


 言っちゃあれだけど、このくらいの事件なら……まぁ治安がいいわけじゃないから、裏の人間同士なら割と日常茶飯事。

 なのにウィンが私を呼びに来たってことは……被害者が表の人間の疑いありってことね。


「何モンだテメェ!」


 叫んだのはリーダー格の男。取り巻きに五人ほどで、全員かなり屈強だ。冒険者崩れや騎士崩れもいそうね。

 しかし人造人間らしき者はいない。『組織』が関わってなくて一安心というところかしら。


「今日はお忍びだから、ただの悪役」


 そう言って、私はサングラスを外して放り投げる。夜遊び中の証であり、変装のためのそれを。

 お忍び中ではあるけれど、悪役令嬢イザベル・アザレアとしてこいつらをとっちめるために。


「……あら?」


 ふと、リンチされている男の腕に注射痕があることが見えた。

 その瞬間、彼らが何故こうして裏の人間にリンチされているかに気づく。


「クスリね。……本当に反吐が出る」


「あ? ああ、テメェもコイツの客か? 残念だったな、横流ししたからコイツは――」


 説明の最中だけど、私はリーダー格の顎を蹴り飛ばした。歯が飛び散り……下顎が潰れる感触が足に伝わってきた。


「本当にクズね。私の大事な女の子を土下座させて……しかもクスリのバイヤーなんでしょ? アンタには閻魔様の作った地獄すら生ぬるい、この私が直々に地獄に叩き込んであげるわ!」


 倒れ伏したリーダーの両足を踏み潰し、骨を粉々にする。

 手加減しないと殺しちゃう――コイツは真の地獄を味わわせないと。


「はい、次」


「ひっ」


 最初に頭を潰され、一気に腰が引けるバカたち。私は無造作に近づき、蹴りで足を折っていく。


「んげぇぇぇ!」


「んぎゃああ!」


 足を斬らないように加減するのが難しい。これだけ脆いのに、よくもまぁ裏の人間やれるわね。

 いや、これだけ脆いから裏まで落ちてくるしかなかったのかしら。


「ひいっ、ひいっ……! た、助けて、助けて!」


「あっ、ちょっと待って」


 逃げようとしたヤツに追いつき、首根っこを掴んで地面に叩きつける。そして加減しやすいように、ゆっくりと腰骨に力をかけた。


「んぎゃいあああああああああ!! やっ、あっ、ぎぃぃぃぃやぁあぁあぁあぁ!!」


「こんなもんね」


 腰骨が砕ける感覚がしたところで、足を離す。これで逃げられなくなったでしょうし、また後で回収して……レイラちゃんのラボに放り込んどきましょう。あの子が有効活用してくれるでしょ。

 ……ちょっと前までは、私もレイラちゃんの虐さ……人体実験に忌避感持ってたのに、慣れてきちゃったわね。一般人と感覚がずれたら商売なんて出来ないし、ちゃんとすり合わせておかないと。


「さぁて、助けに来たわよ」


 ニッコリと笑顔で、土下座させられていた女の子に手を差し伸べる。彼女は私の顔を見ると、困惑したような表情で首を傾げた。


「へ……え……なん、で……?」


「なんでって……女の子だから?」


 可愛い女の子を助けるのに理由はいらない。彼女は私の手を取ると、おずおずと立ち上がった。

 少し派手めなお化粧に、ふわふわゆるいウェーブのかかった金髪。目が覚めるような美人では無いけれど、クラスに一人はいるかなってタイプの可愛い子ね。メイクと素の顔がちょっと合ってないくけれど。

 下着姿故に、月光に照らされた姿はなかなか艶やか。

 ただ、夜職の子が纏うあの雰囲気は感じない。やはり彼女は巻き込まれただけと見るのが妥当だろう。


「その格好じゃ外に出られないわね。アンタの取られた服どこかにある?」


「え、あー……さ、さっきビリビリにされました……」


 私は怒りに任せ、そのへんで悶絶している野郎の肘を砕く。余計なことしてるんじゃないわよ。

 仕方が無い、誰かから借りるしか無いわね。

 リーダー格の男に近づき、その上着を剥ぎ取る。ちょっとたばこ臭いけど、つなぎとしてこれを着てもらおう。


「ふぁふぇ……ふぇ……」


「顎砕けてんだから喋んない方が良いわよ」


「ぐぎゃあああああああああ!!」


 リーダー格の男の目に落ちてたナイフを突き刺し、押し込んだ。抜いたら血が出て死んじゃうかもしれないし、抜けないように腕も折っておく。


「さぁ、いきましょう」


「ま、待ってくれ!」


 私が女の子にジャケットをかぶせ、出ていこうとした所で……リンチされていた男が、パンツ一丁で駆け寄ってきた。

 それを蹴り飛ばすと、パン一は困惑した表情でこちらを見てくる。


「えっ……えっと」


「アンタがこの子、巻き込んだんでしょ? なんで一緒に助けてもらえると思ったのよ。シッシッ」


 虫でも払うような仕草で追い返すと、パン一はショックを受けたような顔になった。まるで裏切られたとでも言わんばかりだ。


「た、助けに来たんじゃ!」


「私が助けるのは女の子だけよ!」


 そう言った後、女の子の腰を抱き寄せてから腕をまくってチェックする。案の定、女の子には注射痕が無い。少し寝不足っぽいけれど……この男と違って、ラリッていたってことは無さそうね。

 ただもしクスリやっていたんなら抜かなくちゃいけないから、ここで念のために聞いておきましょうか。


「ねぇ、クスリやってた?」


「え……ううん」


「ん、確定ね。どうせアレでしょ? 売人として売上を懐に入れてたら上にバレて、責任を取らされてたってところでしょ? それで、恋人かセフレか知らないけど……アンタと関わってたからってこの子は売られる羽目になったと。この子にも男を見る目は無かったけど、アンタはそれ以下じゃない」


 私が指摘すると、パン一は少しバツが悪そうな顔で目をそらし……女の子は、グイッと私の袖を引っ張った。


「あ、あたしはこいつの妹。恋人なんて吐き気がする」


「前言撤回。アンタの臓器だけ売られてりゃ良かったのよ」


「そ、そんなっ! か、家族なんだから助け合うモンだろ!?」


「家族名乗るなら余計にアンタ一人で死んでなさい!」


 パン一を蹴っ飛ばし、舌打ちをする。気絶したところを見計らって、一応栞を挟んでおく。こいつが他の『裏』の人間に見つかるのが早いか、片付けに来たカムカム商会の面々が見つけるのが早いか。

 このくらいのクズなら、助かるかどうかは運任せくらいがちょうどいい。


「じゃあ行きましょう、行きつけのお店があるのよ」


「えっと……あの……た、助けてくれてありがとう……だ、だけど、あなた誰?」


 まだ混乱から抜けきらない様子の女の子に、私はサングラスを拾ってかけながら笑みを向ける。


「さっきも言った通り、ただの悪役。マゼンタって呼んでちょうだい? 貴方は?」


「えっ……あ、イルーナです……」


「よろしくね、イルーナ」


 私は彼女の腰を抱いたまま、優雅にエスコートする。

 こんな怖い目にあった女の子をそのまま帰すわけにはいかない――ちゃんと、メンタルケアをしてから家に送り届ける。そしてこういう所には近づいてはいけないなど、裏とのかかわりについて教えておかないと。

 こういう地道な教育が、街の治安をよくするのにつながるのよね。

 街の治安維持は、領主の役目だからね。面倒だけど。

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